福の神が惚れた劇団

 「弱すぎる。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 本日は、蛇ケイ・蛇原青田ぱとす蝙蝠ミカエラ・バラン・瀬田への愛着を少しでも強いものにするため、チャレンジしてみます……。
 
 
 それはちょうど十年前の話。劇団クリカラドラゴンの座長がケイ・蛇原に変わってから、間もなくのこと。
 
 「なんでここなんですか?」
 
 当時23歳だった青田ぱとすが、粘つくような関西弁でテーブルの向かいの女性に言った。
 
 「資金面デオ困リだト聞イタノデ。」
 
 女性はカタコト混じりの言葉応えた。悪びれもせず。
 
 「ではあなたは……我々の劇団を支えて下さる為にわざわざ?」
 
 無表情な顔で、青田の隣に座っていたケイが問う。
 
 「エエ。建前ハ。デ……アナタガタ、獣人デスワヨネ?」
 
 その言葉に、ケイと青田は黙って眉をひそめた。
 女性が言ったことは、ある種の禁句であった。劇団クリカラドラゴンは飽くまで一般の中小劇団なのであって、獣人の集まりではない。
 その中にたまたま蛇獣人であるケイや豚獣人である青田などが混じっているだけだ。
 
 「……お姉はん、それどこから聞いたかしりませんけどね?」
 「シンプルに申シ上ゲテ。ワタシハ隠レル場所が欲シイノデス。獣人トシテシタイコトモアル。」
 「それこそ、ミカエラさん。それは場違いというものですよ。」
 「キイテクダサイ。」
 
 ケイの和らげな忠告をピシャリと押さえ込む。
 
 「獣人ニハ芸能界トイウ場所シカナイ。……ココヲ選ンダノハ、獣人ト人ガ混ジッテイテ、尚且ツアナタガタガ獣人デアルコトハ団員スラ殆ド知ラナイ。
 言ッテハ悪イデスガ、目ニ付クホド大きな団体デハナイ。
 ソレハ、トテモ貴重ナ環境ダトオモッタノデス。」
 「劇に関わらない人間入れても、ねえ。やる気がないってことになるでしょ?それは。」
 
 呆れた顔で青田が言った。
 
 「デスカラ、資金繰リヲ。」
 「随分と失礼な新人候補だ♪」
 
 ケイが苦笑する。
 
 「ソレハ承知シテイマス。……ココニ置イテハ頂ケマセンカ。」
 「あのな、」
 「確かに……ミカエラさんの仰るとおり。うちは小さい劇団です。皆、わたくしも含めて副業を持っている。そうでないと生活ができない。そのうちのいくつかのお金をこの劇団に提供していただき維持しているのが現状。
 維持費や公演費が賄えるなら……その役を確かに担っていただけるなら。考えましょう。」
 「ちょっと、座長!」
 「アリガトウゴザイマス。」
 「資金源は?」
 「非合法デス。」
 
 ミカエラと呼ばれた女はさらりと言った。
 
 「ちょ、」
 「ワタシガ望ムノハ、ナイトウォーカーの破壊。タダソレダケ。獣化スルコトデ得ラレル利益ヲ還元シマス。」
 「その利益、とは?」
 「ナイトウォーカー殲滅ニオケル報酬。殲滅ニ準ズル情報のヤリトリ。アトハ獣人集団トノ接触。勿論劇団ノ名前ハ出サズ、獣人同士ノ間デ入ッテクル、『健全な』利益。デス。
 法ニハ定メラレテイナイノデ、非合法、ト表現シマシタ。」
 「それは如何程?」
 「月、約3マンドル。」
 
 沈黙。
 
 「父ガ情報屋ヲヤッテイマシテ。ソノツテモアリマスカラ。オカネノ入ル仕事ニハ困ッテイマセン」
 「1ドル100円としてもざっと300万か。リッチやねえ。」
 「なるほど副業に余裕がおありと……はは……。よろしい。一応、試験的に入団を許可します。」
 「お兄ちゃん!?」
 「お兄ちゃんと呼ばない。」
 
 ケイがぱとすを細い目で睨んだ。
 
 「但し。団員として、ですから稽古には付き合っていただきます。全員役者、全員裏方。一部が金銭管理。うちはそういう風になっています。」
 「感謝シマス。」
 「本当なら……劇団である我々があなたや……他の団員に給与を配分するのが筋なんですけどね……。」
 
 そう言って、ケイは笑った。
 
 「お兄、ざ、座長、ほんま大丈夫なん?この人?」
 「大丈夫かどうかは、これから決めます。
 では、早速本日の午後稽古が14時から始まります……。その時に皆さんに紹介しますので、よろしく。」
 「ハイ。」
 「稽古は、厳しいですよ?」
 「体力ニハ自信ガアリマス。」
 「役者やってもらいますよ?」
 「ハイ。」
 「裏方も。荷物持ちも。」
 「ハイ。」
 「もう、好きにせえや。」
 
 青田は席を立った。
 
 「……ぱとすは、演劇にずっと触れてきた人間ですからね……。演劇でない動機で劇団に入ることは、容認できないんでしょう。」
 「ゴメンナサイ。」
 「わたくしは、あなたが劇団の一員として役に立ってくださるなら、一劇団員として迎えます。
 ……あなた、この小さくて目立たない劇団のことを、良くご存知ですね?」
 「ハイ。調ベマシタカラ。」
 「ということは、この劇団では、獣化は厳禁です。……といわなくても、いいですね?」
 「ハイ。姿ヲ表スノハ、『副業』ノトキダケデスワ。」
 
 「……よろしい♪」
 「デハ。ヨロシクオネガイシマス。」
 「まずは。」
 「ハイ?」
 「発声からですね。あなた、喉の開きが全然なっていない……。」
 「ハイ。」
 
 その2。
 
 
 「一音を大事に発音して!」
 「ハイ!」
 「もっと大きく動いてくれる?」
 「ハイ!」
 「見積もりの話があるんだけど、ちょっとええ?」
 「ハイ!」
 
 「なかなかどうして、様になっているじゃありませんか。」
 
 ケイは溌剌と動くミカエラの姿を細目で愛でつつ、自分の顎を撫でた。
 
 「座長ー。」
 「はい?」
 
 間延びした声は青田のもの。振り返ると、黙って親指で倉庫を指差した。
 
 「ほんまもんやわ。」
 「何が?」
 
 倉庫の前で、声を低くしての立ち話。
 
 「彼女。ミカちー。」
 「ミカちー。ですか……。」
 「きっちり300万うちに持ってきよった。」
 
 ケイは目を丸くした後、盛大に笑った。
 
 「笑い事ちゃうて。」
 
 あきらかに稽古場にも聞こえていたはずだが、団員は気にしない。驚きもしない。ミカエラが少し身構えて、回りの動じない様子を見て、また作業に戻っただけだ。
 
 「ドルやのうて円やで、しかも。」
 「そりゃこっちで生活してるんだからドル持ってるほうが希少でしょう……。」
 「しかしやなあ……。」
 「彼女のダメぶりはこの程度では補完できない?」
 「ちゃうて!」
 
 おどけるケイに青田が釘を刺す。
 
 「いや、頑張ってんのはええねん。下働きもするし、素直やし?意見も言うことは言うし。でもなあ。なんかなあ。見下されてる感じがすんねん。なんちゅーかなあ……。」
 
 頭を掻きながら青田が渋い顔で言った。
 
 「何か、劇団員やないっていうか……。
 芝居にしに来たんやないんやろ、彼女。そしたら、何でおんねんちゅう話になる。一生懸命にやればやるほど、それは芝居のためやのうて自分がここにいるため、に見えてくる。
 それは劇団やないやんか。」
 「わたくしは構いません。」
 「だから何でやねん。芝居に肝入れん奴はおらんでええって。金か?金なんか?それもちゃうやろ!『お兄ちゃん』。」
 
 身内であることをわざと強調してケイを煽る。
 
 「芝居をしたくない奴が、何で劇団におんねん。」
 「……。」
 
 ケイは黙る。
 
 「座長。お金やないやろいっちゃん大事なんは。」
 「ぱとす。あなただってお金を見て、『あ~あ』って思ったんでしょう。」
 
 鋭い声でケイが返した。
 
 「お金を見せ付けられて、『あーこいつはここにいたいだけなんだ』って思っちゃったんでしょう……?」
 「見せ付けられたわけちゃうわ!あのな、あたしは」
 「あの人がー。本当に隠れ家を探しているだけなら……ここからもう去っているでしょう。
 お金を前に出す態度は確かにいいことではありません。しかし、それで『あ~あ』って思っちゃったら、その人のやること為すことが気に食わないのは当然です。もっと落ち着いて。頑張っている事実をこそ見なさいよ。」
 「ほんならあれか。ミカエラはホンマに芝居をしたいと思っとる言うんか。」
 「座長としては。真面目にやってくれて努力もする団員に辞めろとは言えません。」
 「たーーー、弱腰やねっ!知らんで後悔してもっ!」
 
 言い捨てて、青田は稽古場に戻って行った。
 
 
 「お疲れ様でした!」
 「お疲れ様でしたー!」
 
 がやがやと稽古場を出払っていく団員たち。
 
 「あ、ミカちーちょっと残って。」
 「ア、ハイ。」
 
 引き止めたのは青田だった。
 
 その夜の幹部会議は、ミカエラが入ったときと同じ、ケイ・青田のペアにミカエラが向かい会うという形になった。
 
 「あんた芝居はやりたいんか。」
 「イエ。」
 
 開口一番青田が放った玉を、ミカエラは即答で返した。
 
 「ほんならもう話は終わりや。出て行き。ここは芝居したいって気持ちで人が集まってんねん。金はいらん。ここはあんた専用の別荘でも道楽の場所でもない。」
 
 ケイは何も言わない。
 
 「ハイ。」
 「なんもないんか。」
 「イサセテモラエナイナラ、出デ行クダケデス。タダ。」
 「あん?」
 「少シ時間ヲ下サイ。」
 
 そう言いながらミカエラは携帯電話を取り出した。
 
 「モシモシ……瀬田デス。申シ訳アリマセンガ劇団出ルことにナッタノデ後任ノ話ヲ」
 「ちょい待ち!」
 
 青田が電話をひったくる。
 
 「もしもし……青田言いますけど、ちょ、あんた……折原……!後任てなんやねん!おい。……はあ?!」
 
 折原とは、劇団員の名前だ。それも、彼らと同じ獣人の。
 
 「とっくにねえ。やられちゃってるんですよお。」
 
 ケイが青田の横顔に笑いかける。
 
 「どゆこっちゃ。」
 
 電話を握り締めたままの青田にケイが言った。
 
 「彼女ね、入った初日に仲間全員に声かけてるんです。『自分は芝居をやりたくてここに来たわけじゃない。それでも居させてくれるか。』と。『劇団の存続のためならば何でもするから』と。」
 「お前……。」
 「知ったときはビックリしましたよわたくしも。しかもね、獣人仲間には自分の情報源まである程度渡してる。
 それで、皆さんの副業が少しでも豊かになるようにしてたんです。皆バイトが多いから、時間が取れて給料も高い仕事にありつけて、こちらに出る余裕も出来た。
 獣人仲間は尚更に、組合に手を回して獣人としての高給仕事を斡旋したり、組合自体に紹介したりしてね。金銭調達部隊を編成しちまったそうで。」
 「手ヲ回シテハイマセンワ、存在スル情報ヲ渡シタダケデス。」
 「ほんなら、何であたしには何もいわへんねん!」
 「言ッタラ怒リマスデショ?」
 「当たり前じゃ!」
 「前ぱとすに紹介したバイトあるでしょ?」
 「ミカちーの伝か!」
 「そゆこと。」
 「……ほんまに……お前ら銭のことしか考えて無いのんか……。」
 「違いますよ。彼女はここにいることを、どの団員より望んでいる。芝居をしたいなら、この劇団でなくてもいい。だが、彼女はこの劇団をこそ、望んでいた……。形は違えど、大変気持ちの強い団員です。」
 「ちゃう、ちゃうちゃう!劇団やん!此処は劇団やんか!
 芝居をしたくない人がおってどおおすんねんっちゅうこと!」
 「今彼女が抜けたら次の舞台こけますよ?」
 「何ぃ!?」
 「スポンサーが消えますからね?」
 「……うおおおおおおおおお。」
 
 頭を抱えるぱとす。
 
 「ワタシノコトハ、金袋ト思ッテ下サレバヨイデス。」
 「納得はせえへんぞ!あんたは何を言うたって、隠れ蓑が欲しいだけなんやからな!」
 「納得してないのはぱとすだけです。」
 「お兄ちゃん!」
 「お兄ちゃんはやめなさい。」
 「パトスサン。」
 「なんや!」
 「ワタシハ、芝居ヲスルタメニ劇団ニイルワケデハナイ。シカシ、コノ劇団ヲ選ンダノハ、今マデ見タ劇ノ中デ、ココノ劇ガイチバン楽シカッタカラデス。ダカラ、ココニ決メマシタ。
 クリカラドラゴンノシバイガ好キデス。ココガ好キデス。デキルコトハ、ナンデモシタイ。
 『ソレハ、ダメデスカ』。」
 
 ミカエラが、初めてぱとすに向かって『問うた』。
 
 「……。」
 
 ぱとすが奥歯を噛み締める。
 
 「あなた、悩み顔が似合いませんね……ぱとす。」
 「うるさい!」
 「そんなに悩むことでもないでしょう、ダメならダメ、イイならヨシとキッパリお言いなさいな。」
 「黙ってえ!……ミカちー。今まで見た劇で一番、言うたな。それ、いつのや。」
 「5月13日ノ、『自販機のオーロラ』午前公演デス。」
 「どのくらい劇見た。」
 「4月カラ6月マデデ、67回、43団体デス。」
 「3ヶ月で67公演か!よ~見れたな。」
 「休暇イタダキマシタ。貯金半分消エマシタヨ。」
 「その中で、うちが一番。」
 「情報ヲ扱ウ事ニ、手加減ハシナイ主義デス。」
 「で。」
 「デ?」
 「どやった。『自販機のオーロラ』。」
 「……。」
 
 長い沈黙。
 
 「シンプルナ言葉デ表スノハ難シイデス……。未来トイウ設定ナノニ、不思議ト現代社会ト噛ミアッテイテ……エート……。」
 「……ん?何や?」
 「……『生キテイマシタ』。今マデ見タ全公演ノ中デ、言葉デ説明スルノガ最モ陳腐ニ思エタ。タダ、目が離セマセンデシタ。」
 
 粘つくようなパトスの問いに、言葉を選びつつもミカエラはしっかりと応えた。
 
 「さよか……。」
 「ハイ。」
 「…………ええわ。えぇえぇ。43分の1に当たって御眼鏡に叶ってぜひともお願いっちゅうことになったら。それは、嬉しがらなあかんことやな。」
 
 青田が諦めたように言った。
 
 「認めたる。あんたは偉い。 はぁあ。芝居がしたくないんやったら、屋台骨しとき。」
 「ソノツモリデス。」
 「あ~~~~~~。もう、もう……。ほんまに……。」
 「お疲れ様です。」
 
 去っていく背中にケイが声をかけた。
 
 「オツカレサマデス。」
 「……。」
 
 青田は背を向けたまま暫く立ち止まったが、
 
 「おつかれさん。」
 
 ミカに振り返った青田の顔は、笑顔だった。
 「参りました」と、大きく書いてあった。
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