白と黒と赤。

 「ケツの穴まで舐められたような顔している。
 
  まずは風呂に入って来い。それから殴ってやる。
 
 
  こんばんは、鳩です……。
 
 
 参りましょう、血が滾るのですあああああああああああああああ!!!!!!
 
 
 「おい、ジロさん。その写真何だよ?」
 「これ?次の恋人さんです。」
 「次のをぉ?おいおい、『花屋』はもう飽きたってか?」
 「いやいや、あの方は別格です、こちらは一夜のお付き合い♪」
 「はぁあ。いいご趣味で。覗きに行ってもいいカイ?」
 「構いませんが、盗撮して『花屋』さんに知らせる、なんて脅しは無しですよ?」
 「うーん、どうしようかねえ……?」
 「はは、お願いしますよ……。」
 
 
 ――――
 
 植松・宗撰とそんな遣り取りをしたのは、今から約18時間前。
 昼下がりの人特区ソアルと魔属特区デモンズゲートの狭間で、筧・次郎は写真の女性と対峙していた。
 女性は手に片刃剣を持っている。どこともなく見える禍々しさは、魔皇殻のもの。上段に、真っ直ぐに次郎に向けて構えている。
 次郎はそれに、掌を向け、足を広く開き構えている。
 
 「……。」
 「……。」
 
 互いに魔皇、互いに逢魔あり。
 
 写真の女性、月島・日和の横では、逢魔、ナイトノワールの悠宇が、筧・次郎の逢魔、レプリカントの鳩と向き合っていた。それぞれはさらに、幾何学的なデザインの鳥と、小型の恐竜、のようなものを一体ずつ従えている。
 
 「退いてください。」
 「大人しくしてくださいませんかねえ♪」
 
 構えを解かぬまま、月島は鋭く、筧は軽く言う。
 
 「キミもさあ、こんなコトやめたほうがいいよ?」
 「……。」
 
 悠宇も、警戒は解かぬまま、宥めるように鳩に言う。忍び寄る闇の視覚封鎖は既に行っている。その上で彼らは、日和と悠宇に敵対すると言っているのだ。
 
 重い沈黙を切り裂くように、遠目の間合いから日和の剣が唸った。次郎も踏み出す。振り切られる前に手を押し止める。もう片方の手で反撃を行おうとするが、月島はすかさず柄で胸を打ち次郎を後退させ、片手に召喚した生贄の短剣で切り払う。
 ギリン、と金属音。短剣と切り結んだのは、長さ一尺程度の針。
 
 「そんな魔皇殻が、あったのですか……。」
 「その言葉は、お返し申し上げます♪」
 
 日和の刀、水炎と、次郎の針、死神の爪楊枝は、二つと無い希少な魔皇殻。どのような意図で作成されたかはわからないが、共に未知の力を持っているということは共通している。
 虚空から盾が現れ、日和の前に浮遊した。
 次郎が眉を顰める。自動防御を行う自立稼動型魔皇殻、ディフレクトウォール。あれがある限り、万能にして強固なその能力が日和の手数を補い、次郎の手数を削る。
 
 一方、悠宇と鳩の戦いはより激しく始まった。
 
 「おおっとぉ!」
 
 踏み込みから突き入れられた魔速の拳を悠宇は紙一重で交わす。ナイトノワールの青年はたんたん、とステップを踏み間合いを取ると、逢魔の短剣を抜いて軽く高く構える。
 捉えきれない速さじゃない。倒しに来るなら、倒すしかないね……。
 誓ったもの、日和と。共に、生き『抜く』と。
 「こんなところで、死ねないんだ。申し訳ないけど。」
 「……こんなところで死んで頂きます。申し訳ありませんが。」
 
 鳩がさらに進撃する。地面が陥没するほどの強い踏み込み。
 それを交わし、カウンターで手足の根元を狙って切りいれる。
 爆音のような踏み込み音が続き、鳩の血が飛沫を上げる。ビルの壁に追い詰められた悠宇はしかし続く蹴りを、宙を飛んでかわし刃を走らせた。鳩の白い足に赤い筋が走り、『流れ弾』を喰らったビルの壁は豆腐のように砕け散る。
 
 「ひゅう、何だよあれ……戦車か何か……か?」
 
 悠宇の手にあったはずの短剣が無い。最後のすり抜けるような感触。敵の肉に残してしまったと思ったが。
 
 「……使い慣れてはいませんね。」
 
 短剣は鳩の手に奪われていた。銀色の篭手が力を込めると、握っていた刃が粉々に砕けて散る。
 もう一方の手でスカートから一本のナイフを取り出すと、鳩は総身を思い切りしならせて投げつけた。
 
 「うおっ!」
 
 悠宇の肩口に痛みが走る。
 魔人の膂力を最大まで引き絞って放たれたそれは最早銀の弾丸。軌道を見て避けようとした悠宇の油断を責めるように、ナイフは根元まで深く突き刺さっていた。
 
 
 「悠宇!」
 「ふっ!」
 
 振り向いた横顔を狙う掌、然しそれはウォールが捌く。間を置かずウォールの下から投げ入れられた石榴の実のような何か。日和は背筋の悪寒を信じ激しく地を蹴る。
 石榴の実は激しい音を立て散華した。ウォールの内側に数え切れぬ程の種を埋め込んで。
 
 魔皇殻……!
 軽傷とは言え、日和の体にも散弾は食い込んでいる。日和は一瞬で脅威を見抜いたが、その一瞬の間にディフレクトウォールは止めの突きを喰らい、砕け散った。
 次郎の手には先ほどの石榴がまた装填される。『針』は日和の生贄の短剣と切り結んだ後、袖口に忍ばせたまま、その牙を蓄えている。
 日和は状況をできるだけ冷静に捉えようと脳を働かせた。
 膂力、魔力は、こちらが上、しかし、素早さでは相手の方が僅かに勝る。一段劣る相手ではあるが、一瞬でも気を抜けば勝機を奪われる可能性は実に高い。それに……。
 彼の三つ目の魔皇殻がまだわかっていない!
 次郎が、溶ける様な速さで踏み込んできた。
 
 
 「消えよっ……!」
  『こんなこともあろうかと』。
 鳩の肉体から引きずり出された巨大なフレイルが、地面を抉り取った。これこそが、『三つ目の魔皇殻』。次郎ではなく、鳩の武具であったのだ。
 投げナイフを受けてしまった悠宇だが、機動力はまだ失ってはいない。飛びかわし、黒き旋風を打ち込む。
 鳩は苦痛に構わず、馬鹿げた大きさの棘分銅を振り廻す。
 
 
 
 「やれやれ、恋人ってこれかよ……。」
 
 ビルの上。サングラス越しにノートパソコンを叩いているのは植松・宗撰。その横から逢魔、インプのティアが画面を覗き込んでいる。
 
 
 「なるほどな。」
 「んー?」
 
 ノートパソコンが映すデータに宗撰は嘆息した。
 月島日和。一見たおやかな女性に見えるが、大戦での戦歴は実に華々しい。表に上がっているだけなら、次郎を軽く凌ぐ実力を持つ。その逢魔である悠宇もまた、種族内で一、二を争う実力派だ。
 
 「ジロさんが本気になるわけだ。」
 
 宗撰はクツクツと笑った。
 袖口の広い金ボタンの白コート、白いスラックス、そして白い革靴。
 『満漢全席』と次郎が呼ぶその真白に輝く一式は、彼が本気で『清掃作業』を行う時だけに着る『正装』だ。
 中に幾多の暗器を搭載し、防弾繊維で織り上げられた白い喪服はしかし、戦闘向きである反面、魔皇の身であって尚不自由を感じる重量が伴う。
 それでも次郎がこれを着るのは『血が映えるから♪』だそうだ。
 そして、多分、もう一つ……。
 
 「くっ!」
 
 日和の剣撃が止まる。
 次郎が間合いの内に入り込み肘を食らわせたのだ。見た目より遥かに『重い』。長身の次郎の体重を推し量って尚余りある重量。これは、服だ。厚く厚く縫いこまれた数十キロはある服の重さ。
 鉄の如き一撃に怯んだのは一瞬。滑り込む追撃は同じく紫である日和の機動性が打ち払った。次郎は止まらず押し込みにかかる。
 日和が真音速剣で応じれば、次郎は真闇影圧で喚く真空刃を黙らせる。次郎も無傷ではなく、『水炎』を受け損なった手足は血が滲んでいるが、致命ではない。攻防は続く。
 
 鳩が振り回す分銅をすんでで交わしては、闇の旋風を打ち込む。だが鳩は倒れない。膝を突いても、手を突いても、また修羅の如く立ち上がりフレイル『愚者の殻竿』を振るう。
 当たれば即死の威力が悠宇の精神を追い詰める。そろそろ魔力が尽きる。時間をかけて体力を削っても、どうせ奴はレプリカント。限界突破と言う『全てを賭けた六分間』が待っている。
 
 「……クァルティーナ!」
 
 悠宇が名を呼ぶと、鳥は剣に姿を変え彼の手に宿った。時間はかけられない。これで、
 
 「倒させてもらう。」
 「……。」
 
 鳩が殻竿を捨て右手を掲げると、恐竜も姿を変え彼女の手に宿った。拳の変わりに凶暴な顎を提供して。
 メタモルフォーゼは共に60秒間。
 悠宇は剣を振り下ろし天を割くと、鳩が地を割り拳を打ち出す。
 全てを切り裂く鳥の刃と、全てを砕く竜の牙が刹那を奪い合う。
 
 
 「ソーセンはやらないのー?手伝えばおこぼれぐらいもらえるかもよ?」
 「じゃあお前がやれ。」
 
 悪戯っぽいティアの言葉に、宗撰は冷たく応えた。
 目の当たりにして改めて思う。当代の魔皇の中でも一、二を争う実力を持つ孤高の紫と、瑠璃最強と呼ばれたこともある現役の殺し屋。
 一瞬で手足がもぎ取れそうな一撃の打ち合い捌き合い。とてもじゃないが隙がない。何よりスピード勝負では残酷の黒である自分は紫にどうしても一歩譲る。
 
 逢魔の方なら何とかなりそうだが、介入しても、メリットがあるとは限らない。
 
 「ここは、見(けん)が一番よ。」
 
 「くうう、てやあっ!」
 「きゃあああああっ!」
 「日和!」
 「パティ、退きます!」
 
 次郎が逃げ際に打ち込んだ真撃破弾が合図となった。次郎の足は真凍浸弾で凍り付いているが、地面を蹴るだけなら膝の動きで何とかなる。鳩も悠宇に目くらましの幻影の篭手を打ち込むと、主人の着地点にコアヴィークルを召喚して自分も飛び乗った。
 
 「大丈夫か!」
 「ええ……。」
 
 まだ爆発が続く真撃破弾の範囲から逃れ、血の滲む体を悠宇が労わる。
 良く見ると、首筋や胸元に切り傷や痣が集中している。
 
 「あの野郎、本気で殺そうと……!」
 「……まだ、平和ボケはしていられません、ね……。」
 逢魔にして最愛の夫である悠宇の肩を借ながら、日和は少し、自嘲気味に笑った。
 
 
 
 
 「……主、大丈夫ですか?」
 「あの魔人、噂以上の兵(つわもの)ですねぃ。真っ先に機動性と武器を削ぎにきました……。おかげで服がボロボロです♪」
 次郎の手足からは夥しい量の血が流れている。徹底的に四肢を切り落とさんと噛み付いた無数の裂傷。真凍浸弾を受けた脚は砕けて、骨が露出している。
 しかし、次郎の声には確かな笑みが含まれていた。
 
 「次に逢う時は……逢魔と共々、滅ぼしましょう。」
 次郎の言葉に、頷く代わりに鳩はぐっと彼の背中に頭の重さをかけて応えた。
 
 ――――
 
 「どうしたんだよその格好、ジロさんに鳩ちゃん?例の女にでもひっかかれたかぁ?」
 「ええ、参りましたよ、男が付いてたなんて聞いて無くてね♪」
 「お風呂沸いてるよ。さっきティアが入ったばっかりだから。」
 
 知らぬ振りをしつつ、にやにやと宗撰とティアが言った。
 
 「それは助かる、鳩もかなりとばっちりを喰らいましてな♪」
 「連れて行くなっつーのー!」
 
 あっはっはっは、仰るとおり……。
 破れた服を引きずって、次郎と鳩が風呂場へと入って行った。
 
 宗撰とティアは彼らを見送る。
 先ほど録画した戦いの映像を見ながら魔皇は紫煙を吐き出した。
 
 「……。さて。ティア。帰ろうか?」
 「ん?」
 「バミューダ拳法の、修行の時間だ。」
 「おう!」
 
 いつ、誰から、そう、正に。何時。どんな奴から。デートの誘いがあるかわからないのだから。
 返り討ちの嗜みぐらいは、練習しておかないと。
 
 
 
 
 以上です。」
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