夜明けが待っているのに

 「可愛いだけだ!
 
 
 
 こんばんは。鳩です……。
 
 アーシア・スタンリーリベンジ。
 
 ていうか考えてるうちにキチェルさんの方が動く動く……。
 
 
 「……。」
 「可愛いですよー?ほら、大人になっていくのがわかるでしょ?」
 
 筧・次郎がアーシア・スタンリーの長い髪をブラシで梳きながら、鏡の向こうの彼女に笑いかけた。
 当の彼女はお化粧、おめかしに緊張してしまってム、と口を結んでいる。初めてでは、ないのだけれど。
 
 「お化粧の匂い……。」
 「ふむ。」
 
 なれないファンデーションや口紅は、やはり違和感を生じさせる。それを誤魔化すのが今回の次郎の義務なのだが、残念ながら彼はプロではない。
 少女の訴えはわかるが、さてどうしようか。我慢しろ、というのは下策。不快にはそれ以上の快楽が何よりの特効薬だ。さて……。
 
 
 次郎が顎を撫でる後ろで、彼の逢魔、レプリカントの鳩はアーシアの逢魔、ウィンターフォークのキチェルと話をしていた。
 
 「なるほど、筧様は女性に目がないのですね……。 しかし、正直な所人形遊びをされているような……。」
 「不快でしたら……鳩から主にそう申し上げますが……。」
 
 どうやら今回のめかしこみは、筧の趣味であるらしい。キチェルも鳩も既に化粧とドレスを着終え、キチェルは濃いピンクの口紅に白いドレス。鳩は燕尾服で男装。
 
 「いえ……こういうのも嗜みですし……楽しいのは、確かなので……。」
 「ならば、よかった。」
 
 キチェルはその容姿や態度から、男性と間違われることが多い。
 表には出さないがそれなりには気にしているらしく、今の、「自分の女の部分をクローズアップしてくれる」装いには、まんざらでもないらしい。
 自分でも、この手の服が似合うとは思わなかった。
 
 「……我が主も、一度キチェルさんを男性と間違えましたし……それならばいっそ罪滅ぼしも込めて、と言っていましたから……。」
 「本当に、人形遊びですね……。」
 
 キチェルが苦笑する。いっそという言葉でくくって、自分の楽しみに変換しただけではないか。
 次郎の戯れに呆れつつ、同時に全く別のことを考える。
 今のこの、「女らしい」私を見たら、『あの方』はどう思うだろう……。
 叶わぬ想いとわかってはいても、心の内にある焦がれは実に甘く。内に秘めるから尚愛おしい。
 しばし黙り込むキチェルに鳩も何も言わない。
 
 「どうです?お気に召しましたかお嬢様♪」
 
 キチェルと鳩が振り向くと、頭にティアラを載せた金髪王女様が『出来上がって』いた。次郎は恭しく跪いて礼をしている。
 
 「お姫様みたいなのぅ♪」
 
 フリルを玩ぶようにくるりとまわる。シャラシャラという淡い衣擦れの音。
 
 「……。」
 「何で自分の主にピッタリのサイズの……しかも、こんな服を……我々が持っているのか、と思っているでしょう……?」
 
 キチェルの無言の疑問を鳩が代弁する。
 
 「……はい。」
 「買ってきたのです。」
 
 なんという……道楽だろう。
 
 「……わざわざありがとうございます……。では、わたしのこの服も……。」
 「ええ……。」
 「その燕尾服も……。」
 「これは鳩の趣味です。」
 「……。」
 
 なんという……道楽ペアなのだろう。
 
 「さあ、『王子様』、姫の準備が整いましたよ。」
 「行きます、なのう。」
 「……では。」
 
 『王子様』と呼ばれた鳩はキチェルに一礼すると、跪いてアーシアの手を取り、ゆっくりと部屋を出て行った。
 開けたドアの向こうから、幽かにクラシックの音色が聞こえてくる。
 この下の部屋では、『廃屋ラヂヲゲート開通他基地参加推奨すぺしゃる~砂上の楼閣一夜の夢公開録音~』が行われており、次郎や鳩の縁のある魔皇、逢魔達がそれなりに集まって中世の城を模した部屋で集まって楽しんでいる。
 
 本当に、なんという道楽ものの魔皇様であることか。思ったが、キチェルは口にはしない。
 
 「では、わたしも参ります……。」
 「おっと待った。キチェルさんは最後の仕上げ♪」
 
 え、と漏らすキチェルに次郎は背を向け、引き出しの中から目当てのものを取り出した。
 
 「それは……。」
 「ピンクの唇には、やはり長い髪が似合います♪」
 
 銀髪の鬘。それもキチェルの身長だと、腰まで届く馬鹿げた長さ。
 筧がそれを、す、と掲げるとキチェルは大人しく頭を下げる。
 
 「……一つ聞いてもよろしいですか?」
 「なんでしょう?」
 
 パチ、パチと次郎は鬘を固定しながら応じた。
 
 「下では少し聞けないことなので……。この舞台裏で聞いた方が、ということで不躾なことかもしれませんが。」
 「どうしました?いつもと違って歯切れが悪いですな。はい、できあがり。ちょっと待ってください、梳きますので。」
 「悠宇さんとは何があったのですか。」
 
 ブラシを手に取る筧にキチェルが意を決して質問を投げつけた。悠宇、とは、極最近ここ『廃屋』と直通ゲートを結んだ秘密基地『迷いの森』の主だ。
 正しくは、主、魔皇月島・日和の逢魔。ナイトノワールの悠宇。
 
 「何が、とは?」
 
 次郎のブラシが、キチェルのウィッグをゆっくり梳かし馴染ませていく。
 
 「ゲート申請をされたのは廃屋からだそうですね。」
 「そうですよ?」
 「月島様はそれを受けられた。」
 「ええ。」
 「しかし、悠宇様の、次郎様を見る目は少し……。」
 「奥方にね、手を出したら、メッ!されたんですよ♪」
 
 キチェルの言葉を遮るように筧は笑って言った。ここでの奥方とは、月島日和のことだ。悠宇は日和と婚姻関係を結んでいる。
 
 「……。」
 「まさか、逢魔とご結婚しているとは思わなかったのでね♪」
 「……。そうですか。」
 
 そういうことに、しておこう。
 『まさか逢魔と結婚しているとは』。少し引っかかる言い回しではあるが、気にするべきではない。何となく、そう思った。この違和感は多分、自分と次郎の価値観の相違なのだ。
 
 「その上で、筧様は月島様にゲート申請をお出しになったのですか?」
 「あの方の性格なら、多少の疑念があっても断りはしないと、確信したのでね♪」
 「また、手を出すつもりなので?」
 「いえいえぇ、ただ、これから喧嘩するにも仲直りするにも行き来が出来た方が楽だからですよ♪
 まだしこりは残っていますし、しこりがあるということは、まだコミュニケーションを戦わせる余地がある、ということですからな。
 リスクなしで、楽しむ要素が増え、その道を確実に繋いでくれるなら、申請しない手はありません♪
 「……ずるい、ですね。」
 「ええ、その通り僕はズルいんです♪
 キチェルさんはアーシアさんとご結婚の予定は?」
 「ありません……。わたしもアーシアも女性ですから。」
 「あなたか魔皇が男性だったら?」
 「……どうでしょう?そういうことを考えたことはありませんから……。」
 「多分結婚はしないでしょうね。」
 
 魔皇と逢魔だから。と言いたいのだな。キチェルは先ほどの言い回しの違和感の正体を見つけた。ああ、やはり次郎様は、逢魔と言うものを自分たちとは全く違う目で見ている。
 
 「タライは、持っていかれますか?」
 「……一応。」
 
 タライ。
 アーシアとキチェルの関係を端的に表すアイテムの一つ。アーシアが余計なことを覚えようとすると、キチェルがこれでその記憶を叩きだす。
 それにより、彼女達は平穏と安定を手に入れている。
 
 「はい♪ ところで。」
 「何でしょう?」
 「あなた方は、まるで主従が逆転していますね♪」
 「そう、ですね……。」
 
 主人たる魔皇の知識を従者たる逢魔が吸収し調整する。従者たる逢魔が主人たる魔皇を制御し、管理する。それはまるで。
 
 「主従関係に拘泥している訳ではありませんが、アーシアが、粗相をしないように、と……従者の気持ちもあったことは、確かです。それが、いつの間にか……。」
 「ええ。うちとは真逆です。まあ、僕は鳩の覚えたものを吐き出させはしませんが。鳩に、必要なものを覚えこませるだけで。」
 「……魔皇と逢魔は主従でなければなりませんか?」
 「僕の価値観では結婚なんて考えられないというだけですよ?」
 「そうですか……。」
 「で。主人の知らなくて良いことをあなたが抱え込んで、あなたはどうするつもりなのです?」 
 「わたしは……。」
 「それが本当に主人の為になると?
 あなたのご主人様は、物を知らないことを自覚している。
 『自分は何も知らないから』と呟くのは、何度も聞いていますよ。知りたいと言う欲求もある、あって当然の年齢だ、それでも、」
 「わたしは、アーシアの知識を制御するのか?
 ……ええ。『ご主人』の好奇心は、危うすぎます……から。」
 「何も知らないイノセントのままでいさせると。あなたのエゴで。」
 
 いつの間にか、次郎の目から笑みが消えていた。
 相容れぬものを見つめる目。理解できない目。苛立っている目。
 多分、自分も同じ目をしているだろう。どこまでも逢魔を下僕とみなすこの魔皇様に対して。苛立つ。理解できない。
 
 「……少し、考えねばならないかもしれませんね。」
 「いや、忘れてください♪もとより、他人の関係に口出しするほうが間違っているのです、少し意地悪をしました♪」
 「……。」
 「さ、鏡に向かって。」
 
 覗き込んだ鏡の中には銀髪の長い髪に白いドレスを来た、真白な王女がいた。
 こういったいかにもなドレスを次郎に着せられたのは二度目になるが、前とはまるでレベルが違う。
 面影だけ残した別人、別世界の自分のような。
 
 「これほどまで、とは……。」
 「男性のできる魔法はここまでです。仕上げはご自分で。
 にっこりと、笑ってみてください。」
 「……。」
 
 鏡の中の王女がぎこちなく笑う。鏡越しに次郎が、無言でもっとと要求する。
 うん。今日はパーティなのだから。キチェルは自分に言い聞かせた。
 深呼吸し照れを封じ込めると、こんどはにっこりと。にっこりと笑った。屈託を消し去って、純朴と優雅とを引き出して。
 次郎が拍手する。
 
 「これで、レディが完成です♪」
 
 気持ちまで変身するのは、女性のみが使える魔法。服を着せる、化粧をする、そこまでは芸術家の仕事だが、変身後の自分に感動し心を入れ替えるのは、自分にしか、できない。
 
 「では、不肖、筧次郎が、お相手申し上げます。」
 「よろしくお願いします。」
 
 頭を下げる次郎が手を差し出す。キチェルがその手を取り、一歩を踏み出したその時。
 
 びたん!
 いっそ小気味よいほどの転等音が下から聞こえてきた。
 
 ――――いたいなのぅ!
 
 響いて聞こえる悲鳴。
 
 「「裾を踏みましたか……。」」
 
 台詞の一致に思わず顔を見合わせるキチェルと次郎。
 
 「……やると思っていましたか……?」
 「正直、高確率でやっちゃうんじゃないかなあ、とは思ってました♪」
 
 ――――あぁあぁ破れちゃった!
 ――――鳩ちゃん力強く引っ張りすぎ!
 
 「「破りましたか……!」」
 
 また顔を合わせ、二人苦く笑う。
 
 「お互い、パートナーに苦労しますね……。」
 「ええ、全く♪パティ、『お召し変え』です連れて上がってきなさい!」
 
 次郎が無線機に叫ぶと、小さく了解、という声が聞こえ、間もなく階段を上がる音がドア越しに聞こえてきた。キチェルが詫びる。
 
 「申し訳ありません、とんだ粗相を……。弁償は、」
 「そんなことは気にしなくていいんですよ、あなたはお客様なのだから。さ、わたしはアーシア王女様の化粧直しをしなければいけません。
 すみませんが一足お先に、お披露目に行って頂けますか?」
 「しかし……。」
 「きっと、皆さんため息をこぼしますよ♪魔法は長くはもたないのがお約束です。時計の針が12時を回る前に、行ってらっしゃい。
 プリンセス・シンデレラ。」
 「……。
 スノウホワイトの方が、似合う名前だと思い『ますわ』、次郎様。」
 
 キチェルが茶目っ気たっぷりに最後の魔法の成果を見せつけると、次郎も満足そうに笑って彼女を見送った。
 
 ――――わあ、キッチェ……なのう?
 ――――『早くお服を取り替えていらっしゃいませ、アーシア姫様。衣装係が待ってございますわ』。
 
 ドアの向こうで目を丸くしているアーシアの姿が、手に取れるようにわかって、次郎はくつくつと笑った。
 
 
 
 
 ……うーん、悠宇さんのことでもうちょっと深いことを話そうかと思っていたのですが、無駄に長くなっただけですね……。
 
 相容れなさについて語ると筆は乗るはずなのですが、乗せるところまで行かず。語りどころを間違えて座礁……。
 
 追記:書きたかった、「ずるいゲート申請」のシーケンス追加。思い出した思い出した、これがやりたかったんでした。
 
 ……ていうか何だこのパーティ。
 
 廃屋で本当にやるのか?広告スレ立てて回るのかなあ……?……自分で書いといて、ちょっと薄ら寒くなりましたよ……。
 
 ……。
 
 多分、やらない。です。希望があれば、魔皇メールとか下さい。皇相談で。間違えました。応相談で。」
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