命の値段

 「俺の目を見て逝け。
 
 こんばんは鳩です……。
 
 ミカ様。 ミカ様あああああああああああああああああああ!!!!!!
 
 
 
 ……この記事を投稿することで流れてしまうのが惜しいので……。
 
 さて。本編。
 
 
 「さて、何か呑みます?」
 「いえ……。」
 
 魔皇・筧次郎とテーブルを挟んで向かい合うは、魔皇・月島日和。
 テーブルの上にはそれぞれの所持魔皇殻、『真愚者の殻竿』『真グレートザンバー』『真クロムライフル』と、『真水炎』『真生贄の短剣』『真ディフレクトウォール』が置かれている。
 敵意のないことを示すため、と次郎が提案したからだ。日和に同伴していた逢魔・ナイトノワールの悠宇は、次郎の「『お子様』を黙らせなさい」の一言で逢魔・レプリカントの鳩が別室に引きずっていってしまい、今は殴り合いの真っ最中。
 壁越しに聞こえてくる怒号と振動に、日和は少しそわそわと落ち着かない。
 「まあ、あの方がいるとね。『ふざけるな帰る』と言われちまうんで。」
 「はあ……。」
 悠宇の性格を次郎はそれなりにはわかっていた。此処は次郎のヤサ、秘密基地『廃屋』のアジトと呼ばれる談義室。
 彼がこの場所そのものを警戒しているのは良く知っていたし、その上で日和と話がしたかったから、黙らせた。
 「ご心配なさらずとも、殺しませんよ。鳩にはそれほどの実力はないので。」
 「……。」
 次郎は朗らかに言う。
 「……お話、とは。」
 「つまらないことです。」
 日和の前にグラスを置き、赤ワインを注ぎながら次郎は言った。
 「ま、先日のことからもわかるとおり、僕のお仕事は『ああいうこと』です。」
 「……。」
 『ああいうこと』。
 一ヶ月ほど前、日和と悠宇は次郎と鳩に襲われた。殺害を目的に。結果は失敗に終わったが。
 即ち日和も悠宇も彼の知られざる一面を此れ以上なくまざまざと見せ付けられ、今に至るわけで。
 「あなたには特に隠し立てする意味も無いと思いまして。」
 つまりは、『そういうこと』だ。
 「……。」
 日和はただ悲しそうな目をする。地響きと怒号は止まない。
 「おや、向こうは長引いてますな♪ストレス発散になればいいんですが。」
 「……。」
 「でね?僕は『そういう魔皇』なんですよ。残念ながら、貴女が望む高潔も生への執着も不殺のこだわりも無い、『瑠璃最狂の掃除屋』です。」
 「……。」
 日和はただ悲しそうに俯くばかり。どうぞ、と進められたワインにも口をつけられない。
 この人とは分かり合えない。その悲しさだけが、胸に詰まる。
 「あなたは、僕を否定はしないので?」
 「否定、ですか?」
 「僕の仕事は、『ああいうこと』です。無論、依頼があるからやっていける商売ではありますが、それはそれ。僕がそれを望んで行っている。そこに何か違和感はないので?」
 「違和、感……ですか?」
 「そう♪」
 次郎は立ち上がり、大仰に手を差し上げると、自分のグラスの赤い液体を飲み干した。
 「あってはならぬ、という感覚。」
 「あっては、ならぬ……。」
 「あなたがまだ人間だった頃!獣害予防のため射殺された動物のニュースを見て、『仕方ない』と思ったことは?犯罪者が逮捕されたニュースに対し、『捕まって当然』と思ったことは?ニュースの中で!反省しない犯人と泣きながらそいつの死刑を訴えた遺族の様子を見たことは?」
 「……。」
 「それが社会の仕組みだから。」
 言い切って。次郎はテーブルの上にある魔皇殻を手でなぎ払った。刃物が食い込み血が飛んだが、次郎は意に介さない。
 「人間の形作る社会は、大きなものであれ、小さなものであれ。平和を求めています。そしてその維持のためには、異分子を処理する、という機能が不可欠です。犯罪者は、自由を約束する法の例外である、という規範があって初めて犯罪者と認められる。
 『それは受け入れられない』という大多数の合意の下、『それ』を彼岸に排除し社会を構成する人々の心の平穏を保ち物理的被害を最小にする。社会とはそういうものです。」
 「何が、言いたいんですか。」
 「あなたが死を恐れ、平和を愛する普通の精神の持ち主なら、それに抗うものに違和感を覚えなければならない、ということです。」
 「わたしが、あなたを殺さなければいけないということですか。」
 「あなたにはその力がある。僕という、分かり合えない、そう、『瑠璃最狂の掃除屋』なんてばかげた存在をこの社会から叩き出す力がある。力があるなら。自分が求める平和のために、それを為すのが義務です。」
 「……わかりません。筧さんが何を求めているのか。」
 日和は俯いたまま。
 今まで、戦(いくさ)で生き死には沢山見てきた。救えなかった命。殺さないようにした命。沢山の悲しみを見てきた。
 でも。
 「凪刃さんがね、僕のことを、お前はまだ魔皇ではない、と。」
 「凪刃……凪刃凍夜さんですか?」
 「僕は、自分をバケモノというカテゴリに入れているだけだと。この世界にあるべき、現代にあるべき魔皇の常識的な姿に適応することを拒絶しているだけだと。自分が魔皇であるという簡単な事実を受け入れていないだけだと。
  鋭い考察です。僕は降参し、それを認めました。人ではないと言ってはばからず、事実魔皇でありながら、魔皇として生きていくことを拒絶していると。
  なぜ拒絶しているのか?
  今ある『所謂魔皇』になってしまえば、僕は僕ではなくなってしまうからです。」
 なくなって、しまう?
 「人を殺す快感。弱いものを潰す快感。今まで請け負った依頼の信頼。今まで鳩に施した訓練の数々。この身の中にある憎悪や喜び。その全てを捨てる、ということなんです。
  ……おわかり?」
 「……あなたは。」
 日和の顔は俯けたまま。続く言葉が出てこない。
 「僕は自分が大事なんです。今更捨てられないものが山ほどあって、それを抱えていたらね?僕は、『バケモノ』というしかなくなっちゃうんですよ。常識ではない。計り知れない。恐怖の対象。災害。疫病。疾病。狂人。社会から排除されるべき、社会に害悪をもたらす異分子。
 犯罪者ですからね♪」
 そんなことを言いながら何故、笑えるのだろう。この、男は。
 地響きがより強く響いて、しばらくして扉から中に入ってきたのは、満身創痍の悠宇だった。
 「……帰……ろう。」
 「悠宇!」
 日和が走り寄りあわてて肩を貸す。
 「鳩は?」
 「……気絶してるよ。」
 憎憎しげに言い捨てる。
 「まだまだ修行がたりませんな♪では、そろそろさようなら、ですか。また、お会いしましょう♪」
 互いの魔皇殻を虚空に帰し、筧は手を振り、日和は悠宇に肩を貸したままドアを開ける。
 去り際に日和が足を止め、振り返った。
 「筧さん。」
 「はい?」
 「……それでも、生きていた方が、いいと、思うんです。わたしは。」
 「……死ぬしかない奴は、いるんですよ。絶対に。」
 一面的な取り上げ方ですけどね、と言って悪魔のように笑った次郎に、日和は顔を背け、地上への階段を上っていった。
 
 えへ。」
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