ちょいわる

 「喰え、齧り取れ!次郎羅猛!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 
 「何が、慕われる組長なんですか?マジで。」
 
 柄にも無く、大般若・如月は溜息交じりで継げた。組長、パティ・ガントレットに。
 
 「……別に、嘘をついたわけではありませんよ?」
 
 パティの声も歯切れが悪い。
 
 「あたしが、引き金を引いているよりひどい。」
 「自覚しています。」
 
 マフィアのボスであるパティは、自分の留守にわざと魔物をけしかけた。トップである自分自身と、片腕である如月の役割を組員に焼き付けるために。
 腰抜けと見れば味方にも銃を向ける鬼軍曹大般若と、それを押さえ込み全員の心の支えとなるボスガントレット。
 
 しかし。けしかけた魔物が悪かったのか、タイミングが悪かったのか。
 
 結局のところ、パティはしり込みした者共を自分で粛清した。一応その場においては一同を鼓舞し指揮し乗り切ったが、やはり組員のあまりの腰抜けぶりに聊か卿が殺がれたのだった。
 
 「ボス。」
 「……こんなのはわたくしらしくない。そうでしょう?」
 
 暴力による殺戮。何の益にもならない味方殺し。慈悲深い組長というあらすじを自ら破る愚。
 反省はしていない。何がわるかったのか、パティ本人にも、よくわかっていない。
 
 「あたしもどうやららしくないみたいですがね。こんな辛気臭い気分は久々だ。」
 「……今一度自らの立場を、考え直さねばならないかもしれませぬね……。」
 
 パティは、自分で書いた筋書きすら守ることが出来なかった。激情に任せ味方を無残に引きちぎった。
 それはそれで正直な心の発露ではあるが、愚かしいことに変わりはない。鬼軍曹が二人いては、いけないのだ。
 
 「ボス。」
 「お付き合い願えますか。」
 
 立ち上がるパティに声をかける如月。パティはそのままクローゼットを空け、一本の杖を取り出した。
 
 「それは……。」
 
 仕込杖、次郎羅猛。パティの肉体の一部でもある篭手を融かし集め、錬成して作り上げた魔剣。文字通り、パティの血肉から作り上げた剣だ。当然、其処にはただごとではない魔性が宿っている。
 世界に数本というレベルの退魔の剣とも互角に切り結べる、パティの持つ最後から三番目の武器。
 
 「いいですぜ。」
 
 如月が従えるは大般若。100年を越え尚肉を切り裂き続ける、業の塊のような太刀。これもまた、パティの篭手と同等、すなわち日本でもトップクラスの魔剣である。
 
 「単純作業が最も頭が冴えまするゆえ。しばし愚かの底まで沈み、自らを見つめなおすとしましょう。」
 「カチこむ標的は?」
 
 笑みを噛み殺す如月に、パティは窓の外を指差した。
 
 「虚無の境界の一派がごちゃごちゃやっているそうですので。」
 
 虚無の境界。この東京に手を伸ばさんとするカルト教団。実体のつかめない、雲のような組織。組織と呼べるかどうかもあやしい、ただ、『全てに滅びを』それだけを掲げる疫病のような集団である。残念ながら規模は大きく、魔人と呼んでいい輩も少なからず潜んでいる。
 『虚無』とも呼ばれ、巨悪の代名詞となっている。
 
 「身包みはぎますか♪」
 「魂の欠片も残してはおきません。」
 
 次郎とは、瑠璃先代頭目の名。パティがまだ鳩であったころの主人の名。鳩が最後に乗り越えた最大にして最強の壁。
 
 「フヒヒヒヒヒ、ぞくぞくしますね♪」
 「原点回帰。我らはただ、ヒトの敵たるべし。ただ、破壊を尽くすべし。」
 
 愚かを極めれば、やがて反省する点も見えるでしょう。何も見えないよりは、気晴らしの一つでもした方がいい……。
 
 親指の腹を重ね、ちらりと抜いた刃は、応える様にギラリと光った。
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