自分の制御

 「誰にもまねのできないやり方で自分の命に値段をつけよう。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 悪魔は夜空を飛ばない。
 夜景に照らされた空では、すぐに神の使途に見つかってしまう。
 自由を奪われいっそ殺せと叫ぶのが、それこそ悪魔の業なのだと自分に言い聞かせながら、神の都の下に、彼らは生きている。
 
 「魔皇ですらない、か。」
 
 いつかの言葉を、筧・次郎は呟いていた。
 逢魔・鳩は静かにたたずむ。
 
 傍らで魅繰屋・虹子が酔いつぶれて寝ていた。
 
 この女は心地がいい。
 
 魔は嫌いだから体を交わす気にはなれないが。
 
 だから、寝息を立て始めてすぐに、その顔に血を塗りたくった。塗って塗って、手でやわらかく丁寧にこね回して酸化して赤黒くなってしまうまで。
 確かこの女は血が嫌いだったはずだ。
 
 うなされているらしい。時々眉を潜めて低い声をあげる。
 
 「主。」
 「何です?」
 
 鳩が、何の感情の篭らぬ声で言った。
 
 「……わかりかねます。その行動は。」
 「深い意味の無い好意だ、と言ったら、あなたはまた怒りますか。」
 「……。」
 
 深い意味の無い好意。
 鳩が主、筧・次郎に最も持って欲しくないもの。
 それは、他人に筧・次郎自身を開示することに他ならない。
 次郎の特殊な快楽を追及するには、決して余人にそれを悟られてはいけないのに。
 
 「ほほえましく思ってはいけませんか。」
 「……。」
 「あなたに感じるように。」
 
 鳩の表情が曇ったとわかるのは、おそらく次郎だけだろう。長い付き合いだ、薄っぺらい顔の筋肉のかすかな動きは、もう手に取るようにわかる。
 
 「次郎さん?いるの?」
 
 逢魔・セラの声。虹子を迎えに来たらしい。
 
 「存外、早かったですね♪」
 
 言いつつ次郎が立ち上がる。
 
 「ごめんねうちの魔皇がお邪魔しちゃ……って……。」
 
 絶句する。その黒い顔に。
 セラが次郎の顔を見ると、そこには屈託の無い微笑があった。
 
 「……何?これ。」
 
 やっと搾り出した言葉は、意味の無いこと。
 大事なのはそれじゃない。大事なのはそうじゃない。
 
 『虹子は血を見るのが  キライ』
 
 それだろう?
 
 次郎の長いからだが曲がり、上目遣いにセラの顔を覗き込む。
 
 「潰しちゃいましたよ♪」
 
 陽気に言いながら、ウイスキーのボトルを振る。
 
 セラは黙って虹子を担いで、出て行こうとする。全く重いんだから……そんな愚痴は、心の底の震えからは程遠いが、残念ながら的確に表現する言葉はこの世にはまだ無い。
 
 次郎の手首からは真新しい血が滴っていたが、傷口はもうふさがってしまったようだった。
 
 赤く赤く塗りたくり、進んでいく。髪も服も赤いのに、吐き気がするほど赤い液体だけが嫌い。
 
 
 次郎はクツクツと笑った。
 
 絶対に違うものなのに。何だかとてもよく似ているのだ。
 
 「主。」
 「何です?」
 「あなたは……。」
 「お前ごときが俺を語るんじゃねえよ。」
 「……はい。」
 
 他人から見て異常なのがわかっている。ひたすらにまっすぐ進みたいことを知っている。その通りに行動するのにその通りに行かないことを知っている。その中で楽しむ術を知っている。それそのものが楽しみであることを知っている。悪意も敵意も情けなさも好意も愛も誇らしさも全てが喜びであることを知っている。
 
 自分の魂がくすぶり続けていることを知っている。完全燃焼させる術を知らないのを知っている。
 
 
 魂が、くすぶり続けていることを。
 
 「主。」
 「いつか。」
 
 魔の刻印を浮かび上がらせたまま、次郎は洋酒を傾けた。
 
 「寝てみてもいいかもしれませんね。」
 
 後悔すると、わかっていても。
 
 おわり。」
 
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