YOURS MINE

 「さようなら。永遠に一緒にいましょう。
 
 
 最近は、隠れ家から離れて、わざわざインターネットカフェからウェブに接続することの方が多い。
 
 鍛錬の後、シャワーを浴びて湯気を立てる体をソファにゆだねながらFMラジオを聞くのが日課になっている。
 
 非効率的だ、と思う。ネット環境は隠れ家にもある。
 
 だが、それでも『此処にしかない心地よさ』と『此処にしかない孤独』は代えがたいもので。
 
 我が主(あるじ)もそんな鳩を止めることはしなかった。
 
 快楽の追求だけは、自由にさせてくれる。主自身もまた、好き勝手に色を買ったりしているのではあるのだけれど。
 
 瞑想することはいつも主のこと。
 
 共に生きていく未来と、共に生きてきた歴史と、他所のことに興味が持てないという三つの要素から、鳩の思いの全ては主に集約される。
 
 とても悲しいことだと、客観的には思う。けれど鳩はとても充実している。
 
 この状況はいったい何なのだろう。たった一人の魔人に身も心も蹂躙され、身も心もささげて。
 
 幸福であると、客観的には思えない。それでも、鳩はとても満足している。
 
 強さを求める純粋さ。仕事を果たす達成感。叩き潰される痛み。叩きつける傷跡。汚される悦び。溺れてくださるという愉悦。
 
 鳩は主の従者であり、主は鳩の主(あるじ)だ。
 
 それ以上でもそれ以下でもないのだが、最近は考えてしまう。
 
 何故考えてしまうのかと言うことを考えてしまう。
 
 何故鳩は、わざわざ隠れ家から離れた場所で、悦びをかみ締めているのだ。
 
 今この時間をそれに捧げないのだ。
 
 充実しているなら。満足しているなら。かみ締める必要などない。今からまた充実すればいい。満足すればいい。主の望む鳩になればよい。鳩の望む鳩になればよい。
 
 主の望む鳩はまだもっと強く、主を討ち果たすほど強く、冷徹で、悪魔のようなもので。
 
 鳩はまだ弱く、甘く、使い魔のようなもので。
 
 ……主は鳩の望む主であったか?
 
 そうであった。主はいつも上を見ている。神を引きずり落とす夢を見て。鳩に全てを託して果てる夢を見て。毎日を笑って過ごして。弱者を殺してお前は弱いと踏みにじることを楽しんで。
 
 そうであった。鳩の望む、望ましき主の姿でいるはずだ。
 
 では鳩は。鳩は鳩の望む鳩であったのか。
 
 そうではない。だがそうありたい。『主の望みをかなえるもの』『主と共に生きるもの』『主に忠実であるもの』『主の秘密を唯一人知るもの』『主の上を唯一人行くもの』
 
 
 心のどこかが違うと言う。
 
 それは主の望む鳩であって、鳩の望む鳩ではないという。
 
 違和感がある。鳩は、『そうあるべき』なのに『そうなりたい』と願っていない。
 
 明日もまた、彼に叩き潰されますように。明日もまた、彼に傷をつけられますように。
 
 違う。違う。違う。『そうありたい』のは『そうじゃない』。
 
 FMラジオから流れてくるのは破滅的な愛の歌。
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』
 
 あなた の 憎しみ が
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』
 
 鳩 の 愛 が
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』
 
 貴方を殺したい。貴方に殺されたい。貴方を殺し続けたい。貴方に殺され続けたい。痛みを感じたい。痛みを味わわせたい。ずっと『そうでありたい』
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』

 

 ナイフを突き立てられたい。骨を折られたい。
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』
 
 ツメを立てたい。肉を砕きたい。
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』
 
 抱かれたい。
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』
 
 抱きしめたい。
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』
 
 『そうじゃない』 『そうじゃない』 『そうじゃない』
 
 鳩は会計を済ませると、ふらふらと家に戻った。
 
 結論は出ていた。ずっと考えていたこと。ずっとわかっていたこと。
 
 結論は出ていた。叶わぬ願いを凍らせて。尊い永遠を築き上げて。
 
 結論は出ていた。違いを、埋めよう。甘い幻想の永遠を終わらせて。望まれた真実の有限を始めよう。
 
 だから明日の稽古は……
 
 
―――――――――
 
 
 「主(あるじ)。」
 
 振り返った主に首を向けた鳩の手元で、魔装の篭手がかちりと音を立てました。
 
 「今日を主の命日にしとうございます。」
 
 主は一瞬、珍しく驚いた顔をなされていたので、恐らく、鳩は今までで一番感情の篭った目をしていたのでしょう。
 
 以上。」
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