たった一つの正義

 「望むことは、いつだって唯一つだけ。
 
 唯一つだけを望む人間なんていやしない。だからそれは。人間ではないものになってしまった。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 
 妄想シルバーレイン。
 
 
 ニ ン ゲ ン
 
 「……というわけで、殺人犯に人権が認められない、のではなくて、殺人犯はヒト科ヒト属ヒトであっても人間ではないから、人権がない、ということなのです♪」
 「……。」
 
 筧・次郎が教鞭を振るうのは、筧・小鳩の組織する忍者集団の、ある一部隊。そこには、丘・敬次郎の姿もあった。
 
 「と、そろそろお時間ですので、お昼ご飯にいってらっしゃい。」
 
 声に続いて銅鑼の音が響くと、部屋に居た数十人の忍者候補たちは失せる様に部屋を出て行った。
 
 「おや?」
 「どうも、おじさん。」
 
 筧は、その場に一人残っていた丘を見つけて、首を傾げてみせる。
 
 「お昼は食べないのですか?」
 「おじさんに逢いに来ただけなんでね。」
 「鳩にではなく?」
 
 丘は、この里の卒業生だ。本来この部屋にいるべき者ではないのだが、銀誓館学院を抜け出して、暫しの里帰りである。
 
 「ええ、筧次郎に、逢いに来たんです。」
 「そうですか。」
 
 筧は笑う。いつものように。
 
 「おじさんは、何故、ゴーストハントをやっているんです?」
 「ゴーストを殺す為にですよ?」
 「……。」
 「ええ、そうではないですね♪ゴーストを、『滅ぼしたいから』です。」
 
 筧は、ゴーストハントは何かを果たす為の手段ではなく、それ自体が目的なのだと明言した。
 銀誓館学院には、運命予報士というものが居る。生徒達は彼等の運命の予報に応じ、害なすゴーストの報告を受け、退治しに行く。
 それは、一般の人間にゴーストの災厄を及ぼさないようにするための手段だ。ゴーストを倒すことが目的ではない。人に害を及ぼさないゴーストならば――――仮にそんなものがいれば、の話だが――――予報されることもないし、退治されることもない。
 対して筧のそれは無差別だ。依頼を受けて金をもらっての執行が主ではあるが、何の依頼もなくとも積極的にゴーストを殺して回っている。目覚めかけた能力者も幾人か殺害している、と、丘の耳には入っている。
 
 「ゴーストが、憎いんですか?」
 「憎いですね♪理不尽の癖に、存在するから。」
 
 これは業が深い。丘はため息をついた。存在することが憎悪の対象だなどと。
 単に憎いのではなく、『そういうものがいるという現象そのもの』が嫌なのだと。まるで人類滅亡をもくろむ悪の首領の言葉だ。
 
 「人類の英知で駆逐されるべきものが、未だに蔓延っているなんて。」
 「でもおじさん?おじさんの商売だって、ゴーストを生んでいる。」
 
 非業の死を遂げた人間の念は、ゴーストの卵になる。
 
 「全く迷惑な話ですよ。このご時勢で未だに幽霊やらゾンビやらを信じている奴がいるから、死んだ後も未練を残そうとしてしまう。死んだら0なんです。何もなくなってしまう。そうあるべきなんだ。ふざけている。ふざけた話です。」
 「信じている、から?」
 「そうですとも、全ての理不尽は、人が信じるから生まれた。神も魔も、始めはただの物語だった。それを信じる人間がいて、もはや現代社会にはいらないものになったから、なくなった。そう信じていたし、そうあるべきだったのに。」
 「……?」
 
 よくわからない。
 ゴーストやリビングデッドは『存在する』。確実に。信じる信じないではなく、現象として確かにあって、それを世界結界という機構で消し去っていただけだ。
 今はその結界がほころんでいるから、顕在化しているだけで。
 
 「でもおじさん。死んだら人は霊魂を残す。それで、リビングデッドやらゴーストやらになるんでしょう?」
 「霊魂があるかどうかは知りませんが、ゴーストやゾンビなんて御伽噺ですよ。」
 「そういうふうに、御伽噺にしてしまったのは、世界結界のいおかげであって、」
 「世界結界!あれこそが理不尽の最たるものではありませんか。魔術であり、現代科学では再現できないもの。……あの当時は確かに科学の最先端だったが、今オーパーツなのでは、オカルトと一緒です。だから、やっぱりない方がいい。」
 
 どうにもちぐはぐだ。
 信じるからゴーストは生まれるのではない。ゴーストはそこに存在していて、ただ、誰も信じていないから認められないだけ。世界結界の力で消滅してしまうだけ。
 あれ?ゴーストの存在を信じたら、それは常識ではないから、結界は壊れて、ゴーストは生まれて……んんんん?
 
 「そりゃ、殺虫剤のような手軽さで殺せるなら、文明の勝利とも見ますがね。
  今はそうじゃない。まだ、バケモノとバケモノが食い合わなくちゃ収まらない時期です。誰もわかっちゃいませんがね。」
 「バケモノってのは。」
 「当然僕にあなたに小鳩に色々。銀の雫に魅入られたゴミ共です。それらをすべてやっつけて。やっと世界は平和になる。」
 
 そうは、ならない。
 
 「それは、無理でしょう。人間が居る限り、ゴーストは生まれる。」
 「無理じゃあありませんよ。無理じゃなくなるまで殺すだけです。」
 「殺しても生まれますよ、ゴーストは人間が生むのだから。」
 「では人間がゴーストを克服できるときがくるまで殺し続けるだけです。ラスボスを倒してハッピーエンドが訪れるその日まで。」
 「……そんな。」
 「そんな単純なエンドを。僕はずっと。求めているんです。ずっと。 おなかが減りました、続きは、食堂でやりませんか?」
 「いえ、僕はもうこれで。」
 「そうですか、では♪」
 
 ひらひらと手を振って出て行った男と入れ違いに、銀髪ツーテールの女性が入ってきた。
 
 「鳩様。」
 
 丘がひざまずく。
 
 「お久しぶりです……。」
 「恐れながら、次郎様は随分とロマンチストなのですね。」
 
 丘は言ってみる。あの主(あるじ)を、どう思っているのか、と。
 
 「……裏切られ続けてきましたからね……。倒せば終わる。何度も何度もそう信じては、泥臭く世界が沈んでいくのを目にしてきた。」
 「そんな単純な終わりはありませんよ。」
 「……あると信じて、裏切られてきたのですから、せめて自分だけは、自分の理想を信じることをやめるわけにはいかない。そうでしょう?」
 「……。」
 
 彼等は、やる気だ。
 
 「いくつもの世界で。ああ、前居た世界が最もこっぴどかったが、裏切られ、だからこそ。『全て倒せばそれでおしまい』。そうあるべきゲームを探しているんです。」
 「……ゲーム?」
 「人間がいて。人間以外がいて。これまで、主(あるじ)の望むようなすばらしい結末を迎えた世界はいくつもあったので、主も、自分の居る世界をそうしようと生きてきた。それまでは、消えることができない。」
 「……全次元存在(エターナルチャンピオン)になってでも、ですか。」
 
 筧次郎は、さっき。世界結界の張られる現場に立ち会ったようにも聞こえる言い方をした。
 事実そうなのだろう。あれは、長い年月を生きている。
 いくつもの世界を歩いている。
 
 ……バケモノを自称するわけだ。強いわけだ。
 
 「……巡り会わせが悪いだけです。今度こそ。この世界こそ。きっときっと。」
 
 ああ、殺してみせるのだろう。滅ぼしてみせるのだろう。
 人が平和を取り戻す。何よりも尊い人間という群体が平和に手を取り合って、己の力と常識だけで問題を克服していく文明世界を築き上げるまで。
 
 だから、
 「だから、文明で解決できないことは、存在してはいけないことなのです。主がそう言ったので、鳩はそう信じています。鳩と主をゴミのように殺してくれる何者かが、ヒトの中から現れるまで。」
 
 鳩も出て行った。
 
 ああ、あの瞳に感じた。魂が震えた。あれは僕を作り上げたものだ。僕を、『この』地球の『この』世界の『カケイジロウ』に仕立て上げたものだ。
 あれが、『僕の』神なのか。あれが、『僕に』、ゴーストと共に、否、ゴーストという『概念』とともに心中することを望んでいる、母親なのか。
 
 
 
 
 
 そうか、 と。
 
 
 以上。」
広告

kiwivege について

nothing
カテゴリー: シルバーレイン パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中