【IF Another despair】水際の戮

 「キリン一番絞りが一缶、YEBISU THE HOPが一缶……。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン
 
 【IF Another despair】水際の戮
 
 「……。」
 
 丘がカマクラヤマ山中に潜伏して一昼夜が過ぎていた。
 付近のカメラは既に破壊しており、彼の詳しい動向を監視する者は無い。
 その割には、静か過ぎた。この明らかな不穏分子を調査に来るものすら居ない。
 
 引き続き、警戒は強めておいた方が良いか。
 樹に背をかける丘は、ふう、と息をつく。
 
――――
 
 教団側の判断はこうだ。
 “赤錆”“絢爛たる青の偶像(ゴージャスブルー)”“亡霊(ゲスペンスト)”と、名のある能力者との戦いがここ数日で頻発している。
 その交戦において、教団一般兵の能力では、そのレベルの能力者に対し全く歯が立たないことが判明した。
 山林に潜んだこの『浮浪者』も、教団兵を遥かに凌ぐ実力である可能性がある。
 実際、不意打ちとは言え二人組みの教団兵を秒殺せしめた男だ。
 エリア・エノシマにおける大規模な兵力減少も鑑みて、彼の為に死兵を割くことはない、と結論。
 カマクラヤマの彼は、動きが無い限り放置すべきという方針となった。
 
 ……それに。
 
 
――――
 
 時間は彼に出会いを与えた。
 カマクラヤマクリニックに向かいぞろぞろと歩く集団が、彼と出くわしたのだ。
 
 「おじさん、何してるの?」
 
 少女に声をかけられ、丘はつい顔をほころばせてしまった。
 特殊メイクで醜悪に歪んだ顔が、少女を怖がらせてしまうことにも気づかずに。
 
 「あは、驚かせてごめんね♪」
 「……あなたは?」
 
 少年少女に担がれていた神父服の男が声を出した。
 見れば体中に弾痕、教団兵に追われていたのは明白だ。
 
 丘は正直に自分の名を名乗り、
 男は、我々は『祈らず(ノンプレイヤー)』であると名乗った。
 後ろに控えていた線の細い女性は、たどたどしい言葉で、『ムーンライズ』と。
 
 教団に追われていたが何やら大きな爆発音がして、教団兵は消えてしまった、私は見ての通りで碌に動けないから置いて行けと言ったのだが、子供たちがどうしても逃がそうとするので、下山している途中だと。
 
 “パレード”か。
 大音響の正体に丘は感づいてはいたが、口には出さない。
 こんな派手な一団をほっぽらかして、封鎖大隊長は何をやっているのだ。
 
 呆れ顔には気づかれたようで、『ムーンライズ』が小首をかしげて顔を覗いてきた。
 
 「クリニック近辺は、兵がいなくなってましたよ?その大音響とやらで、警戒態勢でも取りに行ったのではありませんか?」
 
 そうですか。『祈らず』は答え、再び、子らに支えながら足を踏み出した。
 その歩みを、激しい雷音が遮る。
 
 「お尋ねしても、よろしいですか?(^^)」
 
 教団兵が追撃しなかった最大の理由が、立ち塞がった。
 
 
――――
 
 気づけば空には黒雲が立ちこめ、激しい風が木の葉を揺らす。
 『彼女』の周りはおびただしい数の念動剣が『吹き荒れ』、剣に木々を剥ぎ取られた土壌が豪雨に流されていく。
 
 「はじくんを知りませんか?(^^)」
 
 何度目とも知れない問いと共に念動剣が樹を刈って行った。
 丘と『祈らず(ノンプレイヤー)』一行が、樹の間を走る。
 『彼女』の出現直後、丘は爆水掌の反動を使って『祈らず』一行ごと自身を吹き飛ばしていた。
 判断があとコンマ数秒遅れていたら、粉々にされていたところだ。 
 
 あなただけでも逃げてください、という言葉を、丘は『祈らず』自身に返した。
 
 「逃げ果せたら、報酬をください。」
 
 そう付け加えて。
 
 「ごきげんよう、お嬢さん。」
 
 水泳用ゴーグルをつけた丘が、樹の間から、進み出た。
 
 「ごきげんよう。
  はじ君をしりませんか?」
 
 『彼女』の艶やかなグリーンの髪は雨に濡れ、一層の輝きを放っていた。
 白い肌、輝く笑み。誰が見ても美人というだろう。
 
 ……その周りにグロテスクな忠臣が控えていなければ。
 彼女が従える念動剣は、およそ機能性や美とはかけ離れた形状をしていた。
 長剣に枝葉のように刃が生えたもの、捩れてぜんまいのようになっているもの、泡だて器のように先が膨らんだもの、裂けて歪んでもはや刃が外を向いてすらいないもの。
 
 そのようにデザインされた、などとはとても言えない、子供の落書きのような奇怪な形状をした念動剣が、彼女を守っていた。
 
 「はじくん、ではわかりませんね。
  フルネームは、何と言うのです?」
 「はじくんは、はじくんですよ?(^^)
  あら、学園の人ではないのかしら?あの子結構有名なんですけど♪(^^)
  『  ・ 』と言う、金髪の子なのだけど、知りませんか?(^^)」
 「いやあ、学園は大きいですからね、残念ながら、『  ・ 』という子は、知りませんね。
  学年が違うのかもしれませんよ。」
 「あの子は中学二年……あら、三年だったかしら?
  あなたは、何年生なのですか?(^^)」
 「……忘れました♪」
 
 丘が腰の刀に手をかけると、嵐は再び回転を始めた。
 
――――
 
 「はじくんをいじめたら、許さないんですからねっ!!」
 
 笑顔のまま、『彼女』は丘を睨み付ける。
 砲撃のように降り注ぐ念動剣に、丘はひたすら身をかわすばかり。
 何発かはかすり、血も滲んでいる。豪雨で緩んだ地面が脚を取る。隠れた端から木々も岩も吹き散らされる。
 「ちっ!」
 舌を打つその一瞬に異形の刃が襲い掛かる。
 『祈らず』一行はもう、見えない所まで逃げ切っている。請け負った任務は果たした。だが、丘に退く余裕などない。
 
 カマクラヤマの森が、残らず禿げ上がってしまった。
 「あは、これは……。」
 もはや丘には隠れるところもない。
 「あなた、悪い人だから、お仕置きしますね(^^)」
 『彼女』が一歩、進み出る。
 「やっとカメラが無くなった♪」
 丘はニヤリと笑うと、『彼女』の歩みに合わせて懐から手榴弾を投げた。
 
 「!」
 
 激しい爆炎と炸裂音。そして、煙。
 散った榴弾の欠片が激しく地面を削っていた。
 
 だが。
 
 「ゲホゲホッ(><)」
 
 煙が晴れると、其処には分厚い剣のカーテン。
 咄嗟に、『彼女』は炸裂を防いでいた。
 
 「あれ、音が聞こえない。
  ……耳が痛いよ。」
 
 鼓膜が破れている。爆風から身を守ることは出来ても、爆音が耳を破壊するという知識までは、持っていなかった。
 
 「お姉さん、怒りましたよ!(><)」
 
 カーテンを開き彼女が見たのは、綾取りのようにして作られた幾何学的な模様。
 鋼糸で作られた印を突き出す、丘の姿。
 特殊メイクを剥ぎ落とし、髪を再びツーテールに結った、男の姿。
 
 「あら、雨が?」
 
 止んでいる。地を叩く驟雨の音が。
 
 「多大なる水のご提供、」
 
 『彼女』が見上げた空には、巨大な手裏剣。
 丘のたどり着いた境地。
 水刃手裏剣の応用、大量の水分を集めることによる切断力の無制限強化。
 
 「ありがとうございましたっ!!!」
 
 丘が気合を放つと、『それ』が『彼女』目掛けて落ちた。
 
 
――――
 
 「ご無事でしたか……。」
 「あなた、何でまた。」
 「はは、ほら。報酬を、まだ払っていませんでしたでしょう?」
 
 『祈らず』が戻って来ていた。にこやかに丘に話しかける。
 傷は一応の手当をしたらしく、流血はもうない。
 
 「なら尚更です。
  きちんと逃げ切っていただかないと、任務失敗になるじゃあありませんか。」
 「しかし、何の挨拶も出来ませんでしたし。」
 「『瑠璃』の忍は任務の達成が至上の誇りであり信条なのです。あんまり聞き訳が無いと、気絶させて持ち運びますよ?」
 
 言いながら、丘はベルトのバックルを回した。
 丘の体が三秒輝き、その装備が一新された。
 鋼糸が消え、腰に忍者刀とナイフが一本ずつ。
 銀に輝く軽装甲冑は、胸当てと両手、両足を包み、その中の服は白く輝く女物。
 
 「あは、怖い怖い。」
 「いいから早く戻らないと、もっと怖いですよ。」
 
 丘が眼前の泥の塊を睨むと、中から念動剣が飛び出し、『彼女』が姿を現した。
 丘はもう一度頭上から水刃手裏剣の鉄槌を落としたが、今度は機敏に避けられる。
 お返しとばかりにとびきり巨大な念動剣が丘に向かって突撃してきた。
 
 『祈らず』今日二度目の爆水掌を甘受。
 弾けるようにその場から飛び退る二人。念動剣は正確に丘を目掛けて飛んでくる。
 
 「いたかったんですっ(><)」
 
 再び空が荒れる。
 
 初撃の大手裏剣は、念動剣の壁によって防がれていた。
 大半の剣を道連れにはできたものの、本体にさしたるダメージは無し。
 もう、二度目は無いだろう。
 
 ぎゅぅうん!
 
 エレキギターを鳴らすような金属音が鳴り響く。
 丘の刀とぶつかり合う念動剣。忍者刀の刃には、薄く水の刃が張り付いている。
 だが、地力が全く違っていた。
 丘の体が吹き飛ばされ、泥に埋まる。ひび割れた念動剣の群れが襲い掛かる。
 お仕舞いか。
 刃を掲げて力無い抵抗を試みる。
 
 「……?」
 
 だが、連続した激しい銃声が、丘に迫る惨劇を制止した。
 『彼女』が首を向けた場所には、神父服の『祈らず』が、詠唱ガトリングガンを構えていた。
 
 「早く逃げてください。」
 「あなたが、『祈らず(ノンプレイヤー)』さんですか?」
 
 念動剣が丘から離れ、『祈らず』に切っ先を向ける。
 
 「だから早く逃げるのはあなたの方でしょうが!」
 
 丘が叫ぶが、二人は動じない。
 
 「はじくんを、どこにやったんですか?」
 「はじくん……ん、もしかして、『  ・ 』君のことでしょうか?」
 「ん、よく聞こえません……。
  あ、耳が、痛いんでした……。
  ……でも、ま、いいか。邪魔をするんですもの(^^)
  あなたも悪い子ですよ(^^)」
 
 『彼女』が手を引き絞り、嵐の撃鉄を上げると同時、丘の体が跳ね上がった。
 爆水掌を地面に向かって斜めに打ち、自分の体を飛ばす。
 
 聴覚を奪われていた『彼女』の反応は、やや遅く。
 一泊おいてからこちらを向き、念動剣を殺到させた。
 
 水を纏った刀が剣を二本弾いて折れ、ナイフは一本弾いて折れた。胸当てが最後の一本から丘の胸を守りきる。
 丘は足元に着地。
 突き離すように出された『彼女』の手をかいくぐり……
 
 「『瑠璃』……?」
 
 丘が溜める左の拳を見て、『祈らず』は倒れたまま、微かな記憶を呼び起こす。
 『瑠璃』と呼ばれる忍者集団の首領の話。
 
 打撃音、否、爆撃音が、『彼女』の腹からこだました。
 内臓まで届かんばかりの、銀の拳のリバーブロー。『彼女』は激しく吐瀉。
 間髪入れず、銀の右手が『彼女』の胸の中心を貫いた。
 
 『祈らず』はその姿に、忍者組織『瑠璃』の幻の首領、『物言う銀拳(ガント)』筧・小鳩の噂を思い出していた。
 そうか。
 彼はまさに、あの銀の拳の後継者なのだ。
 
 
――――
 
 「……ふざけんなよくそっ!」
 
 丘が激痛に目覚めたのは、鎌倉山クリニックのベッドの上。
 集まっていた『祈らず』一行がびくりと震えた。
 
 確かに心臓を貫いたのだ。
 その直後、『彼女』は目を見開き、念動剣で丘の体を串刺しにした。
 
 ……はっきりと覚えている。
 手を伝うのは血ではなく、銀色の液体だった。
 自分の傷跡にそれがしみこんでいくのが分かった。
 
 詠唱銀中毒末期症状。
 丘にとっては屈辱的なことだ。
 ああならなければ、あれほどの強さになれないのか。
 銀と言う、理不尽そのものになってもなお、あれほどの強さに『しか』なれないのか。
 銀に心も体も全て捧げなければ、丘の望む、全ての銀の堕とし児を殺す存在には到底なれないということか。
 銀に心も体も全て捧げて、それでも、『今の俺に心臓の撃破を許す程度』にしかなれないというのか。
 人間は。否、能力者は。『俺は』。
 その理性、理想を保ったまま『魔王』にはなれないというのか。
 
 
 「お目覚めですか。」
 「…すいません、大口を叩いたのに♪」
 「いえいえ、助けられましたよ。」
 
 『祈らず』は笑顔で粥を勧めた。
 
 「よく逃げ切れましたね?」
 「『彼女』は、あなたを刺した後……信じられないことなんですが……傷口から蔦を生やして、根付いてしまったんです。
  恐らくは、回復かと……。」
 「その隙に、僕を抱えてくださったと。
  いや、頭が下がる。」
 「感謝するのはこちらですとも。
  あのままでは、間違いなくこちらは全滅でした。
  だが、あなたのお陰で我々は生きている。
  ありがとうございます。」
 「ん、この粥、なかなかいい草を使ってますね?」
 「分かりますか!いや、こんな鎌倉でもね、探せばそれなりにおいしいものがあるのですよ♪」
 「あなたは、恩人。遠慮せず、食べる、です。」
 『ムーンライズ』もお代わりを勧めた。
 
 その後、丘は『祈らず』の子達に暖かい声をかけられ。
 夜は。身に染み込んだ詠唱銀が、彼自身をどんな怪物に変えるのか想いを巡らした。
 
 俺は。『彼女』とは違う。
 もっともっと強力な、『最後の悪魔』にならなくては。
 
 『彼女』の撃破に拘ったのは、自分には少なくともあれを殺すだけのポテンシャルがあるはずと納得するため。
 そして、ある程度の戦果は得た。 
 可能性は、まだ十分にある。
 丘は、魔王への夢に喉を鳴らして笑った。
 
 ケテーイ……。」
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