パンツ

 「あなたは殺さない。死に目を見たら目が腐りそうだから。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 
 いかん。いかんですよ、可愛い、可愛いぞ。これは真の意味で心の底からけしからんと……。まずいぞ、男の子なのに……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 下僕の名
 
 「たとえばね、生活保護とか。」
 
 丘・敬次郎が膝を立て、目の前の背の低い女性に話をしている。
 上座に胡坐をかく女性はただそれを聞いている。
 丘の口調は、傅くようなその格好とは似合わない明るさだった。
 
 「不要な人間に配ってはならないというのは、確かに正論だと思うのです。
  ただ、既にもらっている人間から減額すると、やっぱり困窮するだろうなと。
  今手に入っているお金が最低限、に、なるように生活している方が多いはずですから、
  たとえ、他人と比べて多少裕福であったにしろ、その人なりの最低限度の生活は崩されるわけで。
  絶対に反発はあるだろうな、と。」
 
 女性はいささかうんざりした口調で、それがどうしたのかと問うと、丘は、頭を掻いた。
 
 「いや、分相応、というか、どんな人間にも、彼らなりの安定があるんだよな、と思いまして。
  僕も最近は、夜食を食べないと落ち着かなくなってしまって、いやお恥ずかしい。
  お小遣いが少ない頃はやりくりする方で必死だったのに。」
 
 女性は黙っている。先を促しているのか、返す言葉も思いつかないのか、表情からは判断できない。
 
 「だから、別に、悪いことをしてる人も正義感の強い人も、そんなに違いは無いんじゃないかなと思って。
  皆昨日と同じような今日をすごしているんじゃないかと。
  いい悪いじゃなくてね。事実として。それが他人のと比べてどんなに違っても、その人にとっては普通で安定した生活って言うのがあるんだなと。
 
  ふと思ったんです。」
 
 女性は黙っている。行き場の無い手を口元に持っていったのを見て、丘が茶を飲みますか、と勧めた。
 失礼を、と言い残し出て行ってから、盆に急須と湯飲みを載せて帰ってくる。
 丁寧に茶を注ぎ、女性の前へ出す。
 女性はありがとうといい、丘は彼女が一口飲むのを見届けてから湯飲みを手に取った。
 
 「『あなたが誰であれ』、僕の毎日は多分それなりにそれなりだったと思うんです。
  でも、『あなたがあなたであったから』、僕は今の僕になった。
  一日に使うお金が300円から500円になっただけで、元に戻すのに苦労するのに。
  もし出会わなかったらなんて想像もつかない。」
 
 ああ、口説いているわけではないんですが、何だかクサイセリフになりましたな、やだなあ。
 丘がまた頭を掻いた。
 
 「知ってのとおり、あんまり嘘をつけない性格なんです、僕。
  あー、誤魔化したりはしますけど、言いたいことは言いますし、言いたくないことは言わない。」
 
 熱いお茶をゆっくりと口に含んで、丘は喉を滑らかにする。
 
 「だから、限界があるんですよね。
  僕はもう、嘘をつけないものを知っちゃったから。
  自分に嘘をついてまで何かをやり遂げるってことができない。
  政治家とかそういう役職には多分なれないな。王様とか。
  もしかしたら里の跡継ぎには向いてないかもしれない。
  誰かとか利益とかの為に、自分の楽しみを邪魔されるなんて。」
 
 まっぴらごめん。丘はくすりと笑う。
 女性はうんざりとした様子。丘がまた席を立ち、今度は干菓子を持って帰ってきた。
 丘はまた、彼女がそれを口に運ぶのを見届けてから、話を続けた。
 
 「強くなくてもいいかな、って思っちゃったんですよね。
  忍者の癖に、って感じはするんですけど。
  女の子って、可愛いんだなあと思っちゃって。」
 
 女性が干菓子を平らげるころになって、丘は初めてそれを竹串で二つに切った。
 
 「どうして欲しいのかとか、どうなりたいのかとか、思いつかないんで。
  困らせることになるかなあとも思って黙ってたんですが。」
 
 丘の様子に急に落ち着きがなくなった。
 指先が膝をぱたぱたと叩く。
 
 やがて、ままよとばかりの気合を込めたまなざしで、上座から見下ろす目を見つめた。
 
 「好きです。」
 
 女性の目が見開く。
 
 「明日も、昨日や今日と同じくあなたの顔を見てドキドキしたいんです。
  あー、こんなことを言うなんて自分じゃ想像もしてませんでしたが、今になってようやっと、告白するしないで騒ぐ理由がわかりますよ。
  これは言わないと落ち着かない。」
 
 上座の目は伏せたまま。
 
 「困りますよね。
  同じ立場でも困ると思う、僕も。
  ごめんなさい。
  僕ばっかり満足だなあ。よくない。」
 
 女性の瞳は伏せたまま。
 
 「言うだけ言わせてください。何を思ってくれても構わないから。
  こうやって目の前にいるだけで、ほら、もう落ち着かないですよ僕は。
  この、なんていうか、ドキドキしているのをずっと味わっていたいんです。
  好きになって欲しいし一緒にいて欲しい。
  ……あーーーーダメだなだめだ、何だこれ、何だこの感情!
  お菓子持ってきますね。ちょっと落ち着いてください、僕も落ち着きたい。」
 
 相手に配慮はしつつも、帰るとは言わせないように誘導する。
 だって、返事なんかどうでもよくて、今、ただ、もう一緒にいたいから。明日からずっとと言わず、今もうただときめいていたいから。
 
 羊羹を切り分ける手に解体願望が宿っていないのを自覚する。
 きっと今の顔は眉を顰めて頬を緩めているんだろうな。
 丘は、嬉しいような悔しいような妙な気持ちで、包丁の柄を握り締めた。
 
 
 ……どうしてくれよう。特にターゲットはいない。こそばゆいのを書いてみたいと思った。
 
 以上。」

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