大きな隔たり

 「悔しい……。
 
 
 ……1巻を試し読みしたことがあって敬遠していたのですが、思った以上に好印象で悔しかったのです……。
 
 相変わらず、鳩の中で決して一番になることは出来ない漫画ですが、困ったな、悪くはない……。
 
 ……これを好きだと認めてしまうことを鳩の中身が拒絶しますね。これに出会う前に、『その』席を埋めた多くの作品たちが。
 
 小野寺浩二氏みたいに、『オマージュであること自体がネタ』と割り切られていない分、これを僅かでもいいと思ってしまった鳩が余計に悔しい……。
 
 作者の狙ったとおりの感動を植えつけられてしまった事実。これよりいい格闘もの、哲学の描き方を鳩は確実に知っているのに。
 
 
 悔しいのでトール神様にちょっとだけ報復。
 
 妄想シルバーレイン。
 
 お屋形様
 
――――
    無謀なチャレンジだと思いますわ。
    ヒグマに人間が素手で挑むような。
    万が一、あなたがヒグマを打ち倒せるだけの武を身につけていたとしても、それは意味の無いことですわ。
    『彼女』はあなたにヒグマを倒せるようになってもらいたいのではなく、
    ヒグマに生まれ変わってもらいたいのだから。
――――ピジョン・ブラッド
 
 丘・敬次郎は、ピジョン・ブラッドから聞いた言葉をかみ締めていた。
 生まれ育った山の中。土の匂いがする。倒された。
 首を向けると、銀髪を揺らしながら里長、筧・小鳩が歩いてきていた。
 
 ナイフを持つ腕全体がしびれている。
 何をされたのか、思い出すほどに信じられない。
 筧・小鳩は、四つん這いで突っ込んできたのだ。カウンターも出来ないまま頭突きをもろに食らい、山中に転がされた。
 
――――熊そのものだ。
 
 なるほど、確かにこれは、『違う生き物』へのチャレンジだ、と、敬次郎は血唾を飲んだ。
 かつて小鳩は、敬次郎にこぼしたことがある。
 自分の膂力は、自分の体重ではとても支えられない、と。
 その次元において、人間由来の武術など枷にしかならない、と。
 
 先ほどの光景を思い起こす。
 両手と両足で地面を『蹴り』、突撃。
 丘の全力疾走を更に超える速度で、四つん這いのままの突進。
 恐らく、あれが一番速い走法なのだろう。
 『四つん這いという姿勢のハンデより、腕力を使うメリットの方がはるかに大きい』のだ。
 
 丘が立ち上がったのを見計らって、小鳩が腕を振った。
 右腕で立ち木を折り取り、左手でそれを投げ放つ。
 
――――嘘だろっ!
 
 両手を組んで受け止める。
 単なる物理攻撃は、能力者にとって何のダメージにもならない。
 だが、視界は確実にふさがれるし、
 
 「うおっ!」
 
 その木の重量は、丘を押し飛ばすには十分な圧力を発揮した。
 態勢を整えている隙に文字通り飛び込んでくる小鳩。
 下半身が浮いた状態のまま、上半身をねじり、銀のガントレットを捻りこむ。
 丘の腕が枯れ木のように折れ、体は山の坂を転がる。
 
――――上半身だけで、あれか!
 
 体重を込めて打つ、下半身の支えをきちんと確保して打つ。
 そんなこと無しに、この破壊力!
 10秒ほど転がり落ちて二度目の土を舐めた丘が、その認識をすぐに改めた。
 
――――ああ、そうか。体重に意味が無いんだっけ。
 
 下半身でどんなに体を支えても、それは『体重』による地面との摩擦を頼りにする技術だ。筋力で押さえ込むことには限界がある。
 鳩様にとっては、自分の体重など羽根ほどの重さも無いのだろう。
 鳩様の体重では、多分、『自分の腕力を支えられない』。
 だから、野獣のようにただ力任せに襲い掛かるのが一番強いのだ。
 空手を使う狼がいるか?
 ボクシングをする虎がいるか?
 爪と牙を使い、本能のままに襲い掛かるのが最も強いはずだ。
 顎の筋肉も前足の力も、人間のそれとは比べ物にならないのだから。
 鳩様もきっと『それ』なのだ。
 体重を基礎とする人間レベルの武術では、鳩様にとっては『ただ悠長なだけ』。
 そう気づいたから、鳩様はあのスタイルを手に入れたのだろう。
 
――――だって、今まで手合わせしたどの鳩様より、
 
 「『重い』っ!!」
 
 お屋形様を越えられると思っていた。越えられないにしろ、前よりはマシに戦えると思っていた。
 だが実際はどうだ。
 始まって二分も経たない間に、両腕を折られ。
 心まで呑まれそうだ。
 
 「どうですか。」
 
 小鳩が、口を開いた。
 
 「もう、死にたいのでしょうか?」
 「いえ……まだ、遣り残したことが、色々。」
 
 ナイフが持ち上がらない。体を起こすだけでも、腕の痛みで悶絶しそうだった。反撃なんか、できるのか?
 
 「それでは、生きていた方がよいですね。」
 「謝っても……許しては頂けませんか?」
 
 歯をきしりながら必死ににやける丘に、小鳩が四つん這いになって構えた。
 次の瞬間、丘の体が痛みに包まれた。
 
 「残念でした。聞く前に、土下座して謝罪するのであれば、まだ高得点でしたが。」
 痛みの次に聞こえたのは、小鳩の言葉だった。
 鳩様が両手両足を地面につけるところまでは見えた。確か関節を曲げ、力を溜めて。
 残念ながら、どうやらナイフを持ち上げる暇ももらえなかったらしい。体全体が痛い。
 
 「一応、生かしておきましたので。」
 
 ああ、体当たりを食らったのか。頭で突っ込まれたのではなくて、衝突の瞬間に鳩様は立ち上がり体を開いたのだ。
 五体に五体をぶつけた。ただそれだけでこの破壊力。
 ダンプに轢かれた方がまだマシかもしれない。
 喉に鉄の味の液体が詰まって息が出来ない。
 咳きこんでも咳きこんでも止め処なく溢れてくる。
 手足が痛い。アバラが痛い。何も考えられないくらい痛い。痛い、痛い、痛い痛い!頭がぐらぐらする……。
 
 「……。」
 
 小鳩は丘の首元に正座し、篭手に詰まった泥を取り始めた。
 そうして、丘が血を吐き切って首をあげるまで、その場に座っていた。
 
 
 以上。」
 
 「追記。
 
 
 
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