いつでも昔の話を

 「そんなものは豚が食べるものだ。
 
 お前にはもったいない。
 
 
 ……こんばんは、鳩です……。
 
 岩崎・燦然世界様の感情に笑わされたので暴力を振るいます……。
 
 妄想シルバーレイン
 
 自分の瞳で見えるもの
 
 「ここならいいかな。」
 
 む?
 
 と声を上げた岩崎・燦然世界の頬を、丘・敬次郎は振り向きざまに思い切り殴りつけた。
 
 「痛!痛ー!」
 
 岩崎が派手に吹っ飛んで転げる。
 手に残る感触に丘は、この女は衝撃を消す術を心得ていると理解した。
 
 「おい。残心の姿勢でじっとすんな。痛いと言ってるだろうが。言うべきことがあるだろう!」
 「あの感情はどういうことだ!」
 「先輩には敬語を使え!あの感情ってどの感情だ。それはわたしのかそれともお前のか!」
 「お前のだ!」
 
 丘がA4の紙を差し出す。
 
 「わざわざ印刷したのか!」
 「印刷できるような公にあんたは、あんたはなあ。」
 
 その紙は、図書館にあるアーカイブの一つ、感情一覧。
 そこに印刷された丘の小さな写真の下には『ラブラブ』の文字。
 すなわち、岩崎・燦然世界は丘・敬次郎にラブラブである、ということを表す資料だ。
 ……真偽のほどは別にして。
 
 「陰湿な奴だな。」
 「あ?」
 「わざわざ校舎裏まで連れて来て殴るか。出会い頭にやらないところが陰湿で卑劣だ!」
 「……確かに、ツッコミにするにはやや勢いが衰えてる感は、あります。」
 「だろう!?ボケとツッコミは呼吸だ!リズムが無ければ死んでしまうんだ!」
 「そこは素直にゴメンナサイ。」
 「分かればいい!」
 「殴ったことは謝らない!」
 「そうか!」
 「で、何でラブラブなんですか。」
 「嫌か?」
 「ズルいな。ズルいよ、その聞き方は。
 
  嫌です!」
 「ワハハハハハハ!わたしもちょっと違うと感じてた!」
 「……。」
 
 丘が顔を押さえる。ため息も最早吐き尽したといった風情で。
 
 「お前がそんな顔をするか。」
 「岩崎先輩は、こういう直情的なぶつかり方がお好みなんでしょう?」
 「だから殴ったのか。」
 「失礼ながら、僕、先輩のことを女性だと思っていない節があるんですよ。」
 「褒め言葉と受け取っておこう!」
 「その方がお互い幸せですしね。」
 「すごいな、お前は。相手に合わせるためなら、女子を殴ることも厭わないのか。」
 「引っかかる言い方をしますね。」
 「引っかかっているからな。」
 
 ……。
 
 「そんなに嫌か。ラブラブは。」
 「ズルいなあ、本当に。」
 「そんなに嫌だったなら、謝る。
  度量が広いほうだと思っていたから、そこまで不愉快に感じるとは思わなかった。」
 「勘違いしないでください。ただのツッコミです。
  あのフリをされたら、ぶっ飛ばすしかないでしょう。そう思ったからです。
  そうでないなら、こちらこそ申し訳ない。
  乙女の面の皮に瑕を負わせるなんて。」
 「面の皮とか、確実に乙女と思ってないだろうそれは!」
 「はい。」
 
 放課後の秋風は冷たい。だが二人は震えもしない。
 丘は寒中水泳にも慣れた水練忍者だったし、岩崎は岩崎でそれなりに厳しい一族の出だったから、寒いのには慣れている。
 
 「敬語を使う気にはなれなかったんです。
  『あのフリ』には、ああいう、ハイテンションで勢いのある自分の無様を省みないやり取りが相応しいと思ったから、ああしました。
  褒め言葉と受け取ってもらっていい。
  あなたとは、殴り合いをする間柄でいたい。」
 「殴り合いは痛いから嫌だな。」
 「その特攻服は何に特別攻撃を仕掛ける為の服なんですか?」
 「知らん!
  突き進む時に、敵が何であるかなんぞ一々考えるか!
  これはいい服なんだぞ。進んでいるということは、前しか向いてないということだからな。」
 「前はどっちですか。」
 「目玉のついているほうに決まっているだろうが!」
 「アッハハハハハハハハハハハハ!!!」
 
 ぜんまいを巻きなおされたおもちゃのように、丘がけたたましく笑いだした。
 
 「ああ、確かに、確かにその通り。
  ああ、そうか。僕も胸を張って進んでいいわけだ。目玉のついてる方に。」
 「お前、自分の鬱屈を晴らす為にわたしを呼んだんじゃないだろうな。」
 「埋め合わせはしますよ。
  食べ物辺りが相場ですかね?」
 「そうだな!今度軍艦アパートで鍋をやるから、具を何か持ってこい!」
 「……軍艦アパート行けたっけな?」
 「デスパレードでもいいぞ!」
 「ああ、デスパならいけますねえ。でも敷居高いな!」
 「そうだな!結社長の前ではっきり言うな馬鹿者!」
 「敷居高いなデスパレードーーーーー!!」
 「馬鹿者ーーーーー!!」
 
 叫ぶバカ二人。
 
 「はあ。」
 「バテたか。」
 「殴ったことは謝ります。ゴメンナサイ。」
 「ん?謝らないんじゃなかったのか?」
 「なんか、そこまでしなくてもよかったような気がひしひしと。」
 「そうか。」
 
 秋風が、また吹く。
 
 「でも、殴ってよかったとも思ってます。」
 「そうか。」
 「許しますか、僕を。」
 「許す!」
 「ありがとう!」
 「今度から、ラブラブには気をつけよう。」
 「いや、あのまま悪ふざけしてた方が先輩らしいですよ。
  ていうか、殴ったのも僕の悪ふざけですから、ある意味許容の証でもあります。」
 「はははははははは!そうか!
  ややこしいな、我々は!」
 「本当に。何でこんな、ねえ。
  一発バカヤローと殴りつければそこで芝居が終わる、そんな感じがしてたんですが。」
 「Show must go on だ。O’カケイジロウ。
  生きている限りこの世は舞台!」
 「然り!
  自分が舞台の上に乗ってると気づいてない無自覚なヤクザが多いから、僕はずっとムカついているわけですけど……。」
 「それはわたしも含めるのか?」
 「いずれ思い知らせます。全校生徒に。」
 「大きな野望だな!」
 「大きな野望です。」
 「そろそろ夕飯時だ。わたしは帰る!
  うちで飯でも食ってくか?」
 「軍艦アパートには結社のつながりが無いんで。」
 「ああ、来れないか。
  ……あれ、お前?あれ?そうだったっけ?あとで文学に確認しよう。
  そうか。じゃ、O’カケイジロウも風邪を引かないうちに帰れよ!」
 
 背を向けながら岩崎はくしゃみを一つ。
 
 「あ、言い忘れていたが。」 

 
 六歩歩いたところで、岩崎が振り向いた。

 
 「何です。」
 「お前も、ズルい奴だ。褒め言葉と受け取っておけ。」
 「そうします♪」
 
 空は深く暗い紺碧。
 太陽はもう、山の奥に潜みきってしまっていた。
 
 
 ごめんよ。」
 
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