長い尾

 「思うとおりになれ!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 
 妄想シルバーレイン。
 
 生まれついての信念
 
 「お屋形様。」
 
 もはや何度目の謁見だろう。
 丘・敬次郎は、銀誓館学院に通うようになってからも月に二度は里に戻り、里長に会う。
 
 「何です?」
 「ご機嫌麗しゅう。」
 
 頭を垂れたまま、敬次郎は膝を立てて言った。
 
 「お前は迷うと此処に来るのですね。」
 「申し訳ありません。」
 「今度は何ですか。」
 
 御簾の中の声は威厳よりも呆れに満ちて。
 
 「今度、大規模な戦闘がございます。」
 「知ってます。」
 「出来る限り殺さずとの声があります。」
 「知ってます。」
 「そうするべきですか。」
 「そうするべきです。皆が言うことは概ね正しい。
  何か疑問でも。」
 「お屋形様なら、殺すべきというと思っておりました。」
 「殺すべきですよ?当然。」
 
 何を今更、と心底呆れた風の女の声が、御簾の奥から聞こえた。
 
 「忘れたのですか。
  われらは理不尽を潰えさせるためだけに存在するのです。」
 「ならば。」
 「お前一人で全てができるならば、殺すべきです。
  でなければ身と心を潜ませなさい、馬鹿め。」
 
 沈黙。
 
 「お屋形様。」
 「何ですか。」
 「誰も争わない世界とは、綺麗事でしょうか。」
 「綺麗事でしょう。目指すべき綺麗事です。」
 「では、やはり今回の戦でも助けるべきでは。」
 「お前も狼も吸血鬼も、人間ではないのだから『誰も』にはなりません。」
 
 きっぱりと。
 いささか強く、押し込むような口調で御簾が揺れた。
 
 「バケモノ同士なのですから、どちらが飼い慣らすか、あるいは食い殺すかということしかありえない。
  『きちんと、飼い慣らし、飼い慣らされる側も納得と満足のいく関係になること』が綺麗事です。
  躾けをしなくてもいい、などということはただの怠慢です。」
 
 強い口調のその言葉を聴いて、丘は唇を歪めた。嬉しさをこらえきれないかのように。
 
 ああ!俺は 間違ってはいなかった!
 
 「『働かずにいい暮らしをしたい』というのは、綺麗事とは違う、ただの欲望です。
  それと同じこと。
  手をつなぐことが出来るのは、人類と人類だけだ。それ以外にはありえないし。」
 
 御簾の奥から、冷気が吹き込んだ。
 『彼女』に纏わりつく、雑霊どものざわめき。『彼女』がこの世界から排除した理不尽の残りカス。
 
 「このわたくしが許さない。」
 
 丘の体が喜びと畏れで震え引き締まった。
 これだ。この人類への狂信。これが、お屋形様であり、俺自身なのだ!
 
 「は!」
 「他に質問は。」
 「ございません。」
 「なれば、述べなさい。今度の戦でなすべきことを。」
 「殺します。」
 「何を。」
 「敵を。」
 「敵とは。」
 「狼を。」
 「狼だけか。」
 「彼らは彼らの行いにより、人の社会を脅かすもの。
  その敵である吸血鬼は、そのような行いに至っておりません。
  銀誓館学院の生徒達は特にテロリズムにも走っておりません。」
 「理由はそれのみなり。」
 「理由はそれにて十全。」
 「ならば行け。力を持ちながら、文明へ迎合することも知らぬ野獣共を黙らせろ。」
 「はい。その権利の一分たりとも許しはしません。」
 「殺せとは言わぬ。制圧せよ。」
 「了解。命令の更新を受諾いたしました。
  人狼の大隊を制圧することに尽力いたします。」
 「……迷いはなくなりましたか?」
 
 御簾の奥の声が柔らかく問うた。
 
 「僕は未熟者です。本当にありがとうございました。」
 「……超能力者として、為すべきことを為しなさい。
  人間になれるなどと夢にも見てはなりません。
  我々など本当は。『存在しない』のだから。」
 「然り。よって、『存在しないようにいたします』。」
 「刀を握る覚悟は、出来ましたか。」
 「戦を望んだ馬鹿共を、この社会から一人でも多く抹殺する所存。
  この命は算段に入れませぬ。」
 「よし。」
 「は。」
 「よし!」
 「は!」
 「行け!」
 「行きます!」
 
 
 
 「……未熟者というのも、また楽しからずや。」
 
 御簾の奥にて、結った髪を揺らしながら、里長は笑んだ。
 
 
 以上。」
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