ああ、傍ら痛い

 「人間は神を名乗らない。
 
 肉体があり、言葉を話し、物を食うからだ。そこに信仰に足る信頼はないからだ。
 
 ゲームのボスのようなものは、人間の中からは決して出ない。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン
 
 神域の戦線
 
 空気の凍る、山里の十二月。
 
 冷たい畳に正座する男子は、黒髪を二つに結い左右に流している。
 対するは御簾。
 停止した空気に、石壁のごとく立ちはだかるそれの奥には、同じく二つに結った髪が影に映る。
 
 「丘・敬次郎。戻りましてございます。」
 「それで?」
 
 畏まる男子の声に御簾の奥からは、嘲るような女の声が返事する。
 
 「勝利いたしました。」
 「知ってます。おめでとうございます。」
 「ありがとうございます……。」
 「フェンリルはいかがでしたか。」
 「強うございました。」
 「具体的には。」
 「……。」
 
 上座の女性は間違いなく、少年・丘敬次郎の里の長であり、最高責任者である。
 だが、その口調は威厳よりも事務的な響きに未知、会社の上司と言った方が近い距離感であった。
 
 「体躯の高さは30mに達し、
  肉体は赤と青のエネルギーで構成されております。
  巨体でありながら能力者と同程度に機敏に動き、
  口からは爆風を吐きます。
  破壊力には、二撃を耐えられるものがいないほど。
  耐久力は……実際にアレに攻撃を仕掛けられたのは弱体化以降でしたので、はっきりとしたことはわかりません。」
 「弱体化。」
 「は。
  フェンリルは3箇所の儀式によりその力を維持しておりました。
  我等がその内の二箇所を破壊すると、エネルギーが散ったようでありました。
  爆風の破壊力も幾分弱まり、被害を覚悟すれば耐えられる程度のものに。」
 「ふむ。
  そのフェンリルは、わたくしより強かったのですか?」
 「……その質問は、答え難くございます。お屋形様とあれなるは性質が違いすぎるものなれば。」
 「世辞でもわたくしの方が強いと言いなさいよ」
 
 ぴしゃり、と言って捨てる。
 
 「申し訳ありません。」
 「即座に謝るのはよい習慣です。
  あなたぐらいの年頃では、納得のいかないことに頭を下げるのは抵抗のあるものですが。」
 「お屋形様の教育の賜物です。」
 「うん。
  それはそうと、フェンリルとわたくしはどちらが強いと思いますか。
  世辞は抜きで結構。」
 
 その言葉を受けても、丘は口を噤んだ。
 目線をちらちらと走らせ、「やはり、答え難く」ともらす。
 
 「何ゆえ。」
 「……。
  フェンリルは3つの儀式にてその力を維持しておりました。
  そして、その内の一部の儀式を破壊することで、弱体化した。
  逆に言えば、4つめ5つめの儀式を行っていれば、もっと強力な状態のフェンリルが顕現できたのかもしれません。
  それを考えると、我々が対峙していたあの狼が、真のフェンリルの実力であるとは言い切れません。」
 「なるほど。」
 「ある程度の根拠もございます。
  これは飽くまで僕……ああ、わたしの体感ですが。
  フェンリルの耐久力やサイズに比して、彼奴の炎は威力が低すぎたようにも思うのです。
  フェンリルは弱体化した状態でも銀誓館の精鋭たちが数十と互角。
  そこらのゴーストタウンの主などとは全く比べ物にならない強さです。
  わたしの感覚では本来なら、彼奴の吐く炎は、二撃耐えられないどころではなく、『跡も残らない』はず。
  鍛えられた能力者といえど防御の暇(いとま)もなく、粉々に焼け砕けるが必定です。」
 「ふむ。そこは経験のあるお前の言葉を信じましょう。
  なるほど、攻撃性能においては完全復活したとは言い切れないか。」
 
 御簾の奥の声が納得に沈静するのを聞き取り、丘は続けた。
 
 「もとより、北欧神話の中でも名のある一柱。
  畏れながら、お屋形様とどちらが強いかと問われても、世辞を唱えられるほど易い相手ではないと判断いたしました。」
 「了解しました。
  ……でもお前はアレより強くならないといけないんですよ。」
 「そうなんですよねー。」
 「そうなんです。」
 
 彼らの果たす最終目的は、銀の掃滅。
 理不尽を消去すること。
 理不尽を繰る能力者でありながら人間でありたいと願う怠惰を破壊し、生命を戒めること。
 この世界を人間の手に還すこと。
 
 お屋形様がこことは別の地球で果たせなかったその夢を、ここで叶える事。
 
 「人間生まれであることを恨めしくも思います。」
 「神話になれというのも無理難題でありますしね。
  しかし、形はどうあれ、学園は北欧神話の神を殺害した。
  神を殺せる軍団であることを歴史に残した。これは大きい。」
 「そうでしょうか。」
 「勝利の事実は、その魔性や神性を高めます。
  どんな形であれ、『フェンリルを力で叩きのめした』。
  この事実は伝説として残り、やがてその説話と、彼ら自身の記憶によって、神性に高められる。
  実際の神話がそうであったように、信じる力が魔性に変化する。」
 「そのようなものですか。」
 「神話の産物は、神話より生まれた。
  事実から神話が生まれたのではないのです。
  ゼウスはいなかったが、ゼウスがいるという物語を何者かが紡ぎ言い伝えたことから、その神が生まれた。
  神が幻想の存在であるのは、幻想から生まれ幻想に住まうからです。」
 「そのようなものですか。」
 「フェンリルを殺したお前たちも幻想に足を踏み入れている。
  ふっふっふ……。
  まあ、心配せずとも、お前はただの人間ではない。
  遺伝子は人間であっても、魂は我等と同じ。
  エターナルチャンピオンの夢から生まれた新たなるエターナルチャンピオン。」
 「それ、小説の用語でしたっけ。」
 「お前はいずれ覚醒する。
  より大きな力に。
  そのような物語をわたくしが書く。
  わたくし共がお前を信仰する。
  なればお前は最後に立つ勇者にもなろう。」
 「ありがたき言葉。
  報告は、以上です。」
 「うむ。」
 「失礼致しまする。」
 
 丘は一礼し、立ち上がって再度一礼。踵を返して冷たい畳を歩いていく。
 
 御簾の奥からその背に一言。
 
 「やはり。
  わたくしはフェンリルより弱いのでしょうか?」
 
 丘は振り返り、笑って言った。
 
 「お屋形様は神話を読む側です。破り散らすも、屠る物語を作るも、容易でしょう。
  何より、破壊はともかく殺すことにおいてあなたにならぶ『神』が『この世界』に存在するとは思えませぬ。
  フェンリルが生命持つ狼である限り、お屋形様に勝つことは不可能でしょう♪」
 
 御簾の奥で、髪が揺れて。
 
 「それで、よし♪」
 
 嬉しげな声が鳴った。
 
 
 ……以上。」

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