【IF Another despair】豊満の暗闇

 「刹那主義は好きです。
 
 だから怒りも不愉快も否定しない。できれば我慢すらしないのが正しいあり方だと思う。つまりお前を殺したい。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 
 【IF Another despair】豊満の暗闇
 
 雨と風に晒された赤土が丘の足を捉える。
 抱えた女体から滴る銀の液体を、手で拭って口に運ぶ。
 飢えは満たされるが、すぐに吐いてしまう。
 血混じりの銀の反吐は、胃が詠唱銀に耐えられないことを表していた。
 
 ダメだ。全然ダメだ。全くお話にならない。
 
 人間由来の肉体は何と脆弱なのだろう。
 いっそ遺伝子の一片まで余すところなく書き換えてくれたらいいのに、詠唱銀のもたらす変容は、ただ彼の体を捻り上げる。
 
 「……。」
 
 数キロ向こうの空に、黒雲が浮かんでいるのが見える。ああ、きっと『嵐公女』だ。
 俺の知らない魔術を使って、あの場所に現れたんだろう。
 今まさに自分が『嵐公女』を抱えているという矛盾はしかし、何の意味も持たない。
 この世界は、何でもありなのだから。
 
 死者の妄執すら。
 詠唱銀が具現化するのだから。
 
 死者に出来ることが、生者に出来ないことがあろうか。
 丘の二本の脚を支えるのはその信奉のみ。
 
 痛みに耐え切ったら。
 より強い痛みを味わったら。
 強烈に『あるべき自分』をイメージしたら。
 詠唱銀が姿をくれる。
 そう信じて。
 
 ずり落ちかけた女を抱えなおす。
 ああ、きっと『幽霊せせり』先輩は驚いているだろう。
 倒した筈の『嵐公女』が、『祈らず』に襲い掛かっている場面に。
 だから言ったのだ、御伽噺も馬鹿にできない、と。
 
 肢体から溢れる銀をまた啜る。
 
 飢えが満たされ、飢えの苦痛を遥かに超える痛みが内蔵からこみ上げた。
 吐く。吐き出す。銀を吐く。
 
 この肉体がいけない。
 どこぞの人間の遺伝子に縛られた肉体がいけない。
 僕はただ、理不尽を殺す装置だ。そのためなら、身を構成するものは螺子の一本から中央演算装置まで、完全に改造できるべきなのだ。
 
 
 
 丘は女を肩に乗せたまま、ナイフを抜いて左手の指を落とした。
 
 『出来上がれ』。
 
 指のない手を肢体の傷口に差し込んで祈る。望む。
 やがて引き出した手には、真新しい指が出来上がっていた。
 
 
 やった。やったぞ。
 いや、当然だ。『この程度ができなければ全世界の能力者の掃滅などできるものか』。
 
 体が銀を拒絶するのが限界ならば、銀を受け入れられる体を作ればいい。理不尽を形にする銀の力で。
 
 いずれは手を。
 いずれは腕を。
 いずれは足を。
 いずれは脚を。
 いずれは胴を。
 いずれは臓を。
 いずれは腑を。
 いずれは首を。
 いずれは脳を。
 
 僕の望むように作り上げる。遺伝子の、DNAの、蛋白質の、分子の、原子の一片まで。
 親からもらった体など、枷に過ぎない。塗り替えてしまえ。作り変えてしまえ。
 腕を落とし、脚を切り、臓を捨て、首を挿げ替え。
 
 銀の堕とし児を絶滅させるための僕ならば、
 銀に翻弄されるのは愚かなことだ。
 苦しむのは利の無い事だ。
 僕は。純然たる僕自身になろう。
 
 
 そうすれば僕はマオウになるはずだ。なるはずだ。
 
 左手を今度は、肘から切り落とし、その手を銀の滴る『嵐公女』の体に突っ込んで。
 歩みは強く、重く。『嵐』へと、丘はただ歩を進めている。
 
 以上?」
 
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