不明のもの

 「自分を基準にすることは間違ってはいない。
 
 だが、その判断の結果が間違っているかもしれないと、疑わないことは、間違っている。
 
 皆が皆貴様のように、嘘で塗り固めるだけのコミュニケーションをしてきたわけではない。
 
 真実と事実を何よりも信頼する我々の価値観は、貴様には理解できないのか。
 
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 
 書かなければ死ぬ。
 
 魔
 
 筧・次郎は死んだ。
 逢魔・鳩が殺害した。
 鳩は二頭の恐竜型魔獣殻を従え姿を晦まし、当局が足取りを掴む頃には、彼女の資金と手ごまは既に官憲の中枢まで伸びていた。
 
 筧・次郎が鳩に命じたのは、『筧・次郎という魔皇一個体程度を圧倒的に叩き潰す実力を手に入れること』と、『隠れ家瑠璃の司になること』の二点。
 司とは、隠れ家を支配する歴代の逢魔のことであり、常に、魔皇という主人を持たぬ個体がその地位を受け継ぐ。
 鳩の主の命令は、それ に、なることであった。
 
 柔らかい椅子に就き、白銀の篭手を打ち鳴らす。
 背の低い鳩は、椅子に包まれているような格好ではあったが、それでも両腕の太さと、燻されたような黒錆がついた篭手は、彼女に足りない多少の迫力を請け負っていた。
 
 彼女の篭手は、初めから白銀だったわけではない。
 元は真っ白な、プラスチックかセラミックのような印象の篭手であった。
 打ち据え打ち据え繰り返し、汚れ、歪んでは焼き直し。激突と修繕を繰り返すことで、白磁の篭手は白銀に至った。
 
 玉座で彼女は考える。
 これはまだ玉座ではない。
 例え警察に口利きができたとしても。
 例え強大な資本を手に入れたとしても。
 それは主の望みには遠い。
 
 国家権力と結びつきは、生きながらえるための知恵であり。
 全てを支える資本は、生きながらえるための糧に過ぎない。
 古今、マフィアが民族浄化を成し遂げた例は、ありはしない。
 
 鳩が望むのは。筧・次郎が望んでいたのは。神魔の殲滅。
 この世界を、天使が降り立つ前の世界に戻すこと。
 人が科学だけで文明を推し進めて行ける世界に戻すこと。
 全ての神通力を神話の中へ押し戻し、全ての魔力を迷信に貶め直すこと。
 
 己を含めた、全ての。神の落とし子を殺しきり。
 人に全てを委ねなおすこと。
 
 
 鳩はキーボードを叩く。
 画面の向こうにはバーチャルな世界。
 それは陳腐なゲームで。
 だが、酷く自分の世界に似ていた。
 だから、彼女はいつしか手に入れた眼力で、そのモニターを見つめ。
 視線が境界を揺るがすと、伸ばした手が、液晶の中へと吸い込まれていった。
 
 
 山里。座敷。これが自分の望んだ、僅かながらの自分の領域(せってい)。
 傅く一人の忍びに、彼女は名前を与えた。
 
 「丘・敬次郎」と。
 
 以上。」
 
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