博打打ち

 「どれだけ嘘をついてもいいから、これだけは本当のことを言うと誓ってくれ。
 
 お前は、俺が、嫌いか?
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 触発されましたので……もういっちょ……。
 
 妄想シルバーレイン
 
 天秤
 
 生まれてこの方、真正面からの喧嘩なんてしたことが無かった。
 比較になるものと言えば、武術の手合わせぐらいか。
 あれはお互いに殺さないという約束の上で、互いの技術を向上させるというWIN-WINの取引だ。戦いと呼ぶには遠い。
 
 「……。」
 
 今、丘はナイフを研いでいる。
 血錆、歪みを丹念に取り除き、僅かでも切れ味を上げる為。
 
 銀誓館学院は隠密を良しとしない。
 良しとしないという言い方は語弊があるか。
 隠密を旨とはしない。
 ゴーストとの戦闘において、隠密さが戦略に影響することはほとんどないからだ。
 得意な領域を自覚しているゴーストを、わざわざ出向いて撃退。
 軍団単位の敵への攻撃。
 何より、ゴースト自体の呆れ果てるほどの耐久力。
 そっと近づいて一撃で殺戮、なんて夢のまた夢。隠密行は丘の得意のひとつではあるが、学院という戦闘集団に属してからは未だに生きた試しが無い。
 
 正面から攻撃せざるを得ない。
 危険を冒して、敵に感知されながら戦わざるを得ない。
 それはとても恐ろしいことだ。
 
 丘は里でこう教わった。 “五分の勝負は勝負ではない”。
 五分であるということは、五分負けているということだ。
 忍者の勤めは十分の成功であり、五分の成功に賭けねばならんということは既に任務の失敗を意味する。50点では赤点なのだ。
 九分九厘を事前の準備で整え、九毛を実力で補い、残りの一毛を時の運に任せる。それが本来の姿。
 だがここは忍者の里ではない。
 ゴーストは人間ではない。
 事前の準備どころか調査の時間すらもない。
 
 事前準備はどうあれ、結局はぶつかり合いに帰する。
 そうなれば何が起こってもおかしくない。
 
 敵の刃が喉元に刺さるかも知れない。
 援護が自分に届かないかも知れない。
 思わぬ敵勢が現れるかも知れない。
 手が滑って得物を取り落とすかも知れない。
 何より、どうやっても削りあいになるので、戦闘が長引く分不慮の事故が発生する確率が高くなる。
 
 恐ろしい。
 ゴーストと斬り合う前は、いつだって足元がなくなるような気持ちになる。
 竦む。退く。まだ見ぬ痛みに怯える。
 死にたくない、死にたくない。学院に来る前から、同胞の死は目にしてきた。恐ろしいのはわかっている。
 
 それでも前に出るのは、そうしないと意味がなくなってしまうからだ。
 
 怖いから退く。
 
 作戦は決まった、こうやって戦おう、さあ、現地で会おう!
 そう約束した仲間を、そんな情け無い理由で見捨てるのか?
 皆が戦っているのに、脚を震わせている場合か?前に出なければ。前に。
 倒せば、活路が見出せる。自分が僅かでも傷を与えれば、敵は減る。敵が減れば生きて帰れる可能性が増える。
 尻込みした分だけ、死に近づくのだ。あれは倒すべき敵だ。敵だ。ナイフを振るえ。水刃を撃て。敵の破滅を祈れ。
 
 そうしているうちに、恐怖に駆られても、前に出る方がまだ怖くないと気づいたのだ。
 一番怖いのは、恐怖自体を怖がること。
 足元が失われるあの恐怖の感覚自体を恐れてしまったら、もう何もかもが恐ろしくなる。
 恐怖をもたらす自分自身を恐れてしまったら、もう何もできなくなる。
 恐怖よ来るな、怖くなるのが怖い、やめて。助けて。
 それは自分で恐怖を呼び込んでいることだ。頭の悪い行為だ。ただの思い込みだ。自分で自分がコントロールできていないのだ。
 
 命を奪われるのは恐ろしい。
 怪我をするのは恐ろしい。それは仕方が無い。
 だが、せめて自分で自分の恐れを作り上げることぐらいは何とかしたい。
 
 だから、前に出る。じっとしているとどこか知らない穴に落ちてしまいそうになるから。
 撃つのだ。斬るのだ。殺すのだ。あの日山手線に放り込んだあの能力者のように。
 そうだ、能力者だって、電車に轢かれたらバラバラになる。殺せないはずが無いのだ。
 
 
 何より。
 
 こんな、『銀誓館生徒と互角程度のゴースト』に退いたとお屋形様に知られたら、確実に殺される。
 肉の塊にされて。
 拳の一撃で、手足と首が胴体から剥がれて内臓が首から吹き出て。圧倒的に殺される。
 
 前に出て殺せば、まだ生きる可能性が残る。
 退けば、死ぬ。確実に死ぬ。間違いなく殺される。
 
 丘はナイフを研ぎ終えると、今度は燕刃刀を取り出した。
 愛用のナイフに比べれば出番は少ないが、いざ使う段になって足を引っ張るようではダメなのだ。
 
 負けられない。たとえ望まぬ五分の勝負でも。
 十分死ぬ賭けより、五分死ぬ賭けの方がマシに決まっているから。
 正面からぶつかって尚九分九厘勝てるほどの実力を手に入れなければ、お屋形様は満足しないから。
 
――――戦え。
――――戦え。
――――戦え。
――――世界に平和をもたらすために。
――――銀の産物を殺しつくすために。
――――人間ガ突き詰めた文明と合理を否定するものを叩き潰すために
 
 鏡の前で、笑顔を作る。
 恐れに触れた後の儀式。
 まだ清濁併呑できるほど大人じゃないから、仮面でごまかすのだ。
 
 「殺します♪」
 
 笑って。部屋を出る。五分の賭けに賽を投げるため。
 
 
 以上。」
 
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