残響する敵意

 「弱音を吐くときは、同情と慰めが欲しい時なんだ。正論をぶつ奴は理由の如何にかかわらず帰れ。
 
 やりたいことをやるべきことも自分が知っているし自分で決めるし自分でやる。
 
 うじうじした態度がイライラするんだというなら、正論はいらん、喧嘩しよう。その方がまだ、お互いの気持ちにまっすぐ正直で、さらに、すっきりする、という点からも建設的だ。
 
 ……こんばんは、鳩です……。
 
 天国というものがあるのなら、きっとそれは、自分を理解してくれるものだけがいてくれる場所です……。
 
 ……今の自分を自分たらしめてくださった他人たちに、当然多少の感謝の念もございますが、それでもやはり抵抗なくわがままの通る場所は何より増してすばらしい極楽のはずです……。
 
 妄想AsuraFantasyOnline
 
 成功の極意
 
 「お金は?」
 「……ありません。」
 
 パン屋の主は、みすぼらしい身なりの少年を見つめて、まっすぐに問うた。
 少年も、落ちぶれてもパリっ子らしく、多少丁寧に、敬語で返す。
 明かりもついておらず鍵もかかっていなかったから、半分誘われるように押し入ったのに。まさか迎えられるとは。
 
 「お腹は減ってますか。」
 「はい。」
 「よろしい、では奥へ。」
 
 ふん、明日の蓄えは手に入らなかったが、ご馳走ぐらいはしてくれるのか。
 甘い大人だ、と多少嘗めた気持ちで、言われるまま奥の部屋へと入っていく。
 濃厚なスープの匂いに、少年は「思ったとおり」と唾を飲んだ。
 
 「何がそんなにおかしいのですか?」
 「いえ。」
 
 緩んでいた顔を引き締め、少年は店主の向かい側に座った。
 
 「大切なことは――――」
 
 言いながら店主は立ち上がると、スープ鍋の元へ歩いていった。
 
 「やりたいようにやることです。」
 
 二枚皿を取り出し、おたまで注ぐ。
 漂っていた香りは更に濃厚に部屋に満ちた。
 
 「あなたのようなクズを、招きたいと思ったので招く、とかね。」
 
 店主は自分と少年の席にスープを置くと、少年に向かってスプーンを投げた。
 大きな尻をどっかりと椅子に下ろし、にこにこと少年に向かい合う。
 
 「何もしたくないので、しない、とか。あ、どうぞ。食べてよし、です。」
 「……いただきます。」
 
 少なからぬ不満をにじませたまま、少年はスープを飲み始めた。飲むというよりは、押し込むといった方が正しいかもしれない。
 
 「早食いは頂けませんね。
  ゆっくりのんびり味わって食べるのがよろしい。
  焦って食べる男は、ベッドでも女の子に早いと嫌われます。」
 「……。」
 
 意味がわかったのかわからないのか、少年のスプーンは少しだけ動きが緩やかになった。
 
 「何と言いますか。
  この辺りで最近ガキの泥棒が出てると聞いたのでちょいと招いてやろうと思いましてね。
  お察しのとおり、僕はイギリス育ちでして、いまだにノルマン語は達者ではない。」
 「……。」
 「狙いやすい状態にしておけば来るかとは思ってましたが、
  まさか初日で釣り上げられるとは思ってもいませんでしたので。」
 「……。」
 
 スープを飲みながら上目で見る店主の顔は、変わらずニコニコと笑っている。
 少年には、却ってそれが恐ろしい。
 
 「泥棒が悪いと言っているわけじゃないんです。
  正確に言えば、世間的には悪いことですが、あなたが泥棒をしたいと思うのは誰にも止められない。
  ただ、泥棒をするのであればもちょっと意識を持ちませんとね。
  プロとしての。
  僕、自覚のない悪党って嫌いなんです。」
 「……。」
 「まあ、僕は気まぐれで、どちらかと言えば異端な人間ですので、
  泥棒であるあなたを招いてこんな風にスープをご馳走したりもしていますが……。」
 「……。」
 
 沈黙。
 少年のスプーンが早まる。ニコニコとこちらを見つめる目が、わからない。怖い。早く抜け出したい。
 
 「物を盗まれるというのは、そりゃあひどい気分になるものです。
  泥棒からすれば相手がどんな気分になろうと知ったことじゃないんでしょうが、
  ひどい気分になるのだ、ということは知っておいた方がいい。」
 「……。」
 「あなたにとってはたかがパン一つでも、
  売る側にとっては20C(カッパー)になったはずのパン一つ。
  売るつもりで作ったものを盗まれるのは、思ったとおりに事が運ばないという不幸です。
  おそらくは、あなたが思っている以上に不愉快なことだ。」
 「……。」
 「『人が商売でやっていることを馬鹿にして、たかだか自分の腹を満たすためだけにパン一つの金を惜しんでまで俺を不愉快にしやがって。』
  ……そう思っているパン屋が。
  泥棒のことを許すと思いますか?」
 「……。」
 「そこは、わかっておかなければならない。
  盗まれた側は、盗んだ側のことをずっと覚えている。
  八つ裂きにしたいと思っている。恨んでいる。
  ……『あいつは俺を心底恨んでいるだろう』と思っておくのは、おそらく、泥棒としての基本的な心得でしょう。
  身を守るためのね♪」
 「……。」
 
 かちかち、と、自分のスプーンの音が妙に響く。響くほどの沈黙が、恐ろしい。
 
 「人を思いやる、というのは、必ずしも善意ではないということです。
  相手の身になって考えるのは、自分の身を守るため。世の中をうまくやっていく手段なのです。
  あなたは、そこまで考えて盗みをしてましたか。
  ……僕が貴方を心の底から恨んで憎んで叩き潰したく思う、と、想定しましたか?」
 「……。」
 
 返す言葉がない。
 返せるわけもない。
 
 「スープを飲んだら帰りなさい。
  僕はお説教をしたので満足です。それでは。」
 「……はい。」
 
 そう言って店主は奥に引っ込んでしまった。
 湯気の立つスープを残したまま。
 
 ……残したまま?
 
 少年のスプーンが止まる。
 味には問題はない。
 店主用のスープと自分のスープには、色も匂いも違いがない。
 
 「きちんと残さず全部食べ切ってくださいね♪
  せめてそれが。あなたの出来る礼儀というものです。」
 
 奥から声が聞こえてきた。
 
 「あんまりたくさん残されると、その。
  か く し あ じ がー、効きにくいのでー♪」
 
 振り向いた鍋の横に黒い瓶を見つけた少年は、椅子を蹴倒して一目散に逃げ出した。
 
 
 「多少は薬になりましたかな♪」
 
 夜の冒険者街に、パン屋のゲラゲラと笑う声が幽かに響いた。
 
 
 以上。」
 
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