歌え。

 「惜しみなく力を貸せる、他人が居る。
 
 恐らくは、どんな悪人だろうと、どんな生まれだろうと。
 
 「そいつに今手を貸してやらなけりゃ、俺が俺でなくなってしまう。」
 
 そんな素敵な半身を、自覚のあるなしに関わらず、きっと持っているはずなんだ。
 
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン
 
 忠節の憂鬱
 
 気づくと、この一週間の内4日は雨が降っていた。
 昨日と同じような今日も、着実に季節を前へと進めている。
 丘・敬次郎は傘を持っていない。
 寮住まいのため学園までが非常に近く、手荷物を増やしてまで雨を避ける意味があまりないからだ。
 加えて、朝のジョギングではレインコートの方が重宝する。
 
 忍びの里育ちの故か、手が塞がっている状態を丘は好まない。
 「いつでも抜ける」
 その状態が最も落ち着く。
 ポケット、袖、髪の中。
 エンピツもボールペンもナイフもハサミも、手遊びのように取り出せる。
 そんな「ニュートラル」を、彼はとても好む。
 
 「……。」
 ガラスを通して、ベランダの向こうから雨音が聞こえてくる。
 テレビの砂嵐の音のようで、しかもスイッチを切ることはできない。
 ルームメイトは恋人の家に宿泊中。
 広めの二人部屋は今、丘だけの城で、ダイスキなネットサーフィンに興じている最中ではあるのだけれど。
 
 退屈だ。
 迎え撃つべき刺客も、打ち倒すべきゴーストも、それを想定した訓練もできない。
 刺客はこのような雨を好んでやってくるから厳密には油断できない状況なのだけれど、
 丘を狙ってやってくるような凶手は転入長所から今まで出てきていないので、気にするだけ無駄、と言って差し支えない。
 
 24時間365日、一切油断してはならない、という建前はあれど。
 それは無理だし、何事にもメリハリは必要だ。
 問題は、メリとハリを己の望むようには切り替えさせてくれないということで。
 
 「お屋形様?何か軽い任務ありませんか?
  暇でして。」
 「ありません。
  忍者の任務はバイトでも暇つぶしでもありません。」
 
 意を決した打診も実を結ばず。
 ですよね、と一言吐いて、丘は受話器を置いた。
 
 命令の無い狗はどうすればいい?
 野犬に成り下がる意思もない飼い犬は、どうやって退屈を凌ぐのだろう。
 雨の中を出かけてまで暇を潰すのも、怠惰に身を任せてじっと過ごすのも、どちらも嫌だ。
 
 何てわがままな有様だろう。
 俺は楽しく生きていたいのに。
 どうしてこんなにやる気が起きないんだ。
 折角のプライベートタイムなのに、少女を誘拐してバラす気も起きやしない。
 
 丘は部屋を出て、寮の廊下を歩く。
 雨に濡れたくないが、じっと過ごすのも耐えられないという苦肉の策。
 
 本来は、この寮に住む全ての異能をいつか殺さなければならない。
 殺戮対象と一緒に生活している矛盾……。
 
 女子寮に忍び込み、興奮している自分を自覚する。
 
 ああ、そうか。今は俺は、自分自身の狗なのだ。
 俺は誰かの欲望を叶える道具になるのがダイスキで、
 それは別に俺の欲望でもかまわなくて……。
 
 雨音は止まず、丘の足音を無慈悲に消し続けていた。
 
 
 
 以上。」
 
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