奈落にて

 「生まれて来たことは許してあげたんだから早く死になよ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 度数の高いアルコールは、甘い……。
 
 妄想シルバーレイン
 
 今日の記事はいつにも増して残虐なので、反転処理。
 
 生まぬ胎内
 
 「学校は楽しいですか?」
 「今聞かないでくださいよ……。」
 
 笑顔を向けたお屋形様から、丘は顔をそむけた。
 丘の格好はハーフパンツ形の水着にゴーグル、口にはマスク。
 サイドまで覆う立体マスクだが、それでも臭気が堪えるらしく、眉はひそめたまま。
 対するお屋形様は全裸。情けも容赦も無く、一糸まとわぬ全裸である。
 
 「……まあ、里よりは楽しいです。正直。」
 「そうですか♪」
 
 大浴場一杯に死体を広げて処理したりしないから。
 お屋形様が手斧で豪快に腕を切り取ると、それを背に、丘は包丁で腿肉を骨から剥がして行く。
 全ての死体はとりあえず四肢に切れ目を入れ、血抜きをしている。
 並行して、一体ずつ解体。
 蛇口は全開にしているし窓も開け放っているが、立ち上る匂いは、『咽返る』なんて生易しい強度ではない。
 体液のみならず汚物の匂いも容赦なく、おまけに季節は夏。熱気と湿気が演出する生々しい匂いは、殺人的であった。
 
 「うーん。これだけの血肉があれば何か魔術的なことができそうな気がするのですが。」
 「しかし現実は非情です。」
 「勿体無いことです、折角我等は、詠唱銀の魔性を取り入れられるというのに。」
 
 ちらりとみたお屋形様の白い体は、ペンキでも被った様に真っ赤。
 丘自身も、拭い様が無いほどに血塗れている。
 
 「お屋形様腕の産毛長いですね!」
 「多分日本人ではないのでしょうね、わたくし。」
 
 二の腕を擦ると、黒く乾いた血が毛を巻き込んで零れ、その上にさらに新鮮な血液が塗りたくられていく。
 二人の手は止まらない。
 お屋形様が四肢を分解し、丘が続いて骨から肉を引き剥がす。
 骨と肉では、処理の仕方が違うのだ。
 
 「……あ、ヤバい。」
 「どうしました。」
 「テンション上がってきた。」
 「やめてくださいよもう。」
 「殺戮~タァ~ッチの~♪夜空の~絵~画は~♪」
 
 鼻歌交じりに斧を振り下ろす。
 
 「この血の匂い、馴染む、実に馴染むぞ。」
 「やめてくださいよー。」
 
 丘も生粋の変態だし、今更血肉の一つや二つで動じる忍者ではなかったが、
 それでも分解自体が楽しいと思ったことは無い。血肉の匂いは臭いばかりで、肉体という芸術品の逃れ難い欠陥だ。
 それを、お屋形様はまるで美酒のように味わう。
 
 「もともと殺人者上がりなもので♪」
 「殺人者上がりって。」
 「下がり、かな?」
 
 そういう問題じゃない。
 
 「あー、もう。髪についた!」
 「あーあ、大変ですよたんぱく質は。髪につくと取れないから。」
 「……何でたんぱく質?」
 「……体液は、大変ですよ?」
 
 恥らうんじゃない。顔を赤らめるな。何を思い出しているのか、この白い女は。
 丘がふと手を止め、見渡す。血管を切っただけで手付かずの死体が、まだ過半数。
 
 「お屋形様、今日一日これですか?」
 「休んでもかまいませんが、一昼夜ほったらかしにした後のことは考えたくもございませんね。」
 「そうですよね。」
 
 ここは山里。蟲だって蛇だって獣だって湧く。
 ただでさえ死体処理に使った後の大浴場は1週間は使えないのに、
 『熟成』なんぞさせた日には。
 
 「……はあ。」
 「ああ、テンション上がる。」
 「脳が零れた!」
 「あ、駄目ですよ!詰まる前に掬って!早く!」
 
 骨と肉を分かち、血抜きをした後は、肉を細切れにし、骨を焼き、風呂を掃除するというフェイズが待っている。
 剥がした遺留品の処理は別の忍者が請け負っているが、正直丘は彼らが羨ましい。
 
 「丘、肉は好きなのに解体させるといっつも愚痴りますよねえ。」
 「美しくないんですもの。臭いし。味わう暇もないし。
  そもそも僕は死体が好きなわけじゃないんだから。」
 「それはそれで救い難い♪」
 
 そう、救い難い。
 丘は内臓が好きだ。肉が好きだ。筋が好きだ。硬い骨の中に血液や神経がつながっている神秘について語らせたら、夜が明ける。
 それでも殺戮が好きなわけではない。彼が好きなことを追求していたら、「たまたま」人は死んでしまうだけなのだ。
 趣味の過程の中に、当然に死があることを、しかし彼は受け入れ切れていない。
 
 「……。」
 「ヤクザだぞ!って人を脅すのは、考えてみれば愚かな話ですよね。」
 「は?」
 
 切り掛けていた鼻をきちんと削ぎ落としてから、丘は振り向いた。
 
 「だって、真っ当な生き方ができないクズだぞ!と宣言して脅しているつもりになっているのですから♪」
 「『僕は犯罪者だぞ!』ってのは恐ろしい宣言ではありますが。」
 「同時に情けなくもある。
  自分が特権を持った、選ばれた人間だぞ、それでも逆らうのか、という自負が内包されている。」
 「……言われてみれば。
  それって、苛められっ子の思想ですよね。」
 「言い得て妙、です、丘♪」
 
 自分は愚物だ、『だから』崇めろ。慰めろ。配慮しろ。それが当然だ。
 
 「翻って、わたくしやあなたは、自分たちがヤクザであるとか人殺しであるとか以上に、
  もっと卑小なレベルで、救い難い。」
 「はい?」
 
 がしゅり。
 足首を掲げ持ち、膝から折り取る。
 
 「わたくしも、あなたも。
  自分の満足のためなら、他人を踏みにじる。無自覚に。相手が配慮してくれるはずだと甘えて。
  あるいは、それすら意識せずに。」
 「例えば。」
 「あなたが少女をかどわかして殺すこと。
  わたくしが自分の理想をブログに書き連ねること。
  他人が、あるいは被害者がどう思おうがそんなことは関係なく。
  それどころか、他人は自分の理想を叶えるための道具に過ぎない、そう完全に割り切っていて、
  心根まで染み付いている。悪気すらも無い。」
 「……一応、僕は背徳感ありますけど。」
 「だからと言ってやめますか?」
 
 ボキリ。
 斧を振るのもわずらわしかったのか、お屋形様は左手に持った首を握りつぶした。
 
 「やめてくださいよ、それー。骨をはずすの面倒になるから。」
 「わたくしは生まれた世界を捨てた。
  くだらないと言い捨てて。
  それはつまり、捨てられた世界に残った全ての人を侮辱する行為だが、わたくしには罪悪感すらないのです。
  知ったことではない、あの世界がぶち壊れてくれれば、わたくしが満足しさえすれば。
  わたくしに見えぬ、わたくしに関わらぬ人間がどう思おうが知ったことではない。何も感じない。
  そして、あなたもわたくしと同じ魂を持っている。」
 「やめてください。」
 
 ぞぶ、ぞぶり。
 二の腕を切り開き、骨を抜く。
 まだ体液の残る骨は、浴室の一角に投げ捨てられても鈍い響きしか返さない。
 
 「僕はまだ、
  まだ。もうちょっと仲良くしていたい。」
 「あなたの言う仲良しというのは、自分の機嫌を良くする以上の意味はあるのですか?」
 「やめてください。」
 「ふふ、悩めばいい。
  まだ、あなたには熟成が足りないし、
  そういえばあなたは足りないように作ったのだから。」
 「やめてください。」
 「うふふふふ。」
 
 丘は再び手を止め、見渡す。手付かずの死体が、まだ過半数。
 肉を細切れにし、骨を焼き、風呂を掃除するというフェイズが待っている。
 
 「……。」
 
 季節は盆。
 リビングデッドになることすら許さぬほどバラバラにし尽くすが、地縛霊になったときは、きちんと退治してやろう。
 早く片付けないと、風呂が使えないと先輩忍者が喚き出すし。
 
 ……ああ、こういうことか。死体がどうなろうが知ったことか、自分が困るのだけが嫌なのだ、という今このときのこのエゴ。
 これのことか。
 
 「お屋形様、陰毛まで白いんですね!」
 「どこ見てるんですかあなた。」
 「股間です。」
 「腋毛も白いですよ。」
 「ホントだー!」
 「丘、脛毛の剃り跡が生生しくていやらしいですよ。」
 「ツーテールのキャラ作りってマジ苦労しますよ、楽しいですけど♪っう、うぉえ……」
 
 ビチャビチャビチャ。
 
 「あらら。」
 
 喋ったせいでうっかり臭気を吸い込みすぎてしまった。
 本日三度目の嘔吐。
 
 「何で平気なんですかお屋形様?」
 「バケモノだから♪」
 「そうですか。」
 
 なるほど、確かにバケモノだ。

 血の池地獄の獄卒だって、『片付けて洗え』と言われたら首を振るに違いない。

 お盆休みは後2日。とっとと終わらせて帰ろう。
 
 「あ、この人ボクシングやってましたね、左腕の筋肉がジャブを打つ付き方してる。」
 「ステップ見てから銃殺余裕でした♪」
 「ひでえwwwwwせめて殴り合いしてあげてwwwwwwwwwwwww」
 
 おえー。四度目。
 もう、胃液しか出ない。
 
 「あらあらまあまあ。」
 
 そしてそれ、似合わないです、お屋形様。
 
 以上。」
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