俺を許してくれ

 「禁酒したら、炭酸飲料の消費量が如実に増えた。アル中を抜けたらカフェイン中毒になっていそうだ。
 
 空けた穴に慣れるってのは、想像してたより難しいな。 なあ?
 
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン
 
 死者の世界
 
 箪笥の引き出しに今回の分の報酬を投げ込んだが、丘・敬次郎の心は晴れなかった。
 たまに、こういう気分になることがある。
 任務は無事に終え、年頃にしては不相応な額の報酬を受け取る。
 だが、その内容を確認しても、溜め込んだ札束を眺めても、何も感じなくなってしまうことがある。
 
 単に気分が乗っていないだけだ。
 どんな人間にも波というものは合って、落ち着く波と沈静するきっかけが無意識、意識、偶然必然含めて綺麗に重なってしまった。
 ただそれだけ。それ自体はよくあること。問題じゃない。
 
 問題なのは、人はこういうとき、碌でもないことを考えてしまいがちだということで。
 
 「……。」
 
 いつもは高揚するはずの瞬間も、心は暗く穏やかだ。
 一体どうしてしまった、という不安すら起こらないほど、気持ちが凪いでいる。
 
 誰の為の。
 何の為の。
 将来は。将来は?
 仕事をただ続けるだけか?
 目標に辿り着けるのかよ。
 誰もいない荒野にしてしまえるのか?
 
 こんな、小さな仕事ばかりしていて?
 
 目の前にある現実以上の夢想など無理だ。
 明日はきっと、明後日はもっと。強い水練忍者のはずだ。
 たとえそうであっても、忍者という道の果てに、あの皆殺しの夢はあるのか?
 全然そんな気がしないぜ。
 もっと何か。
 もっと違う。何かにならなければ。
 俺には無理だろ。
 俺だから無理だろ。
 俺でしかないから無理だろ。
 
 『ハッピーエンドを寄越しなさい』
 
 至上命令を噛み締める。
 彼の表情は、何も映さないままただ虚ろ。
 
 誰のハッピーだ。
 誰がハッピーだ。
 さっきどこかの誰かをアンハッピーにしてきたばかりなのに。
 このまま日々を過ごして、どうしてハッピーエンドに辿り着けるんだ、想像できない。
 
 彼の心は凪いでいる。
 寝て起きればまた明日が始まる。どうせ忘れてしまうただの気分に過ぎない。
 けれど、今は確かに凪いでいるのだ。今だけは確かに。
 
 微か揺れる水面に酔う。
 
 誰の為に?
 何の為に?
 何が楽しい?
 何の意味が?
 
 抽象的な問いは、典型的な酔いの症状。
 見えなくてもいいものが見えてしまう、波の無い海、雲のない闇空。
 
 ベッドに身を横たえる。
 酔いしれる為に。
 同居人は既に隣の寝床の中、独り言を言わないように気をつけながら、自我を任せる。
 
  俺はただの人形だけれど、
  いつかは皆殺してしまわなくちゃ
  その果てに、その果てが
  ハッピーエンドなのだから。
  俺たちは居てはいけないもの。
  本当は今すぐ死ぬべきだけれど、
  俺が死ぬだけじゃ誰も一緒に心中なんかしてくれないから
  皆殺してから死ななくちゃ。
  本当は自分自身が一番にいなくなるべきなのに、
  そのためには皆が死ななくちゃいけない。
  皮肉。矛盾。面白い。
 
  人間の為。
  全ては人間の為だ。
  バケモノなんかいなくていい。いちゃいけない。
  俺たちもバケモノだから。
  俺たちがバケモノなのに。
  さっき始末してきたのも人間だから。
  さっき始末してきたのは人間なのに。
 
  俺たちが一番いなくなるべきだろ。
  それなのに、ほかの全部を殺さないと死ねない、何故?
  ああ、同じバケモノだからだっけ。
  同じ。同じ?本当に?
  人間になりたがっているカタギっぽい奴も
  いや、そういう奴こそが一番に死ぬべき偽善者なんだ、バカでクズなのだ。
 
  お屋形様は、いつ殺そう?
  殺せるのか?届くのか?
  想像も出来ない。『アレ』は、人間が能力を持った能力者、じゃない。
  バケモノがたまたま人間に似た形をしていた、という類の存在だ。
  恐竜と哺乳類を比べるぐらい意味の無い比較、隔絶した違い。
  ……ならば、バケモノと能力者の違いは?
 
 心地よい凪の海の彷徨。
 突如波を切り裂いて巨大な銀塊が現れた。
 来たなアリス症候群、鼓動が早くなる、突如の変化に脳が呻く、恐怖とも驚愕ともつかない感覚。
 
 「わたくしはね……。」
 
 穏やかな声。
 
 「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 
 次の言葉をまたず何か巨大なものが追いかけてくる。逃げる。
 
 「わたくしはね……。」
 
 穏やかな声。
 
 「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 
 次の言葉をまたず何か巨大なものが追いかけてくる。逃げる。

 
 「わたくしはね……。」
 
 穏やかな声。
 
 「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 
 次の言葉をまたず何か巨大なものが追いかけてくる。逃げる。

 
 「わたくしはね……。」
 
 穏やかな声。
 
 「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
 
 次の言葉をまたず何か巨大なものが追いかけてくる。逃げる。
 
 これが、ただ続く。
 幻想の終わりかけに見た部屋の空間には、西部劇のガンマンの幻影が見えた。意味など無い。
 
 携帯電話が震える音が響いた。
 丘は驚愕の余韻を押さえ込み、ゆっくりと手にとって開く。
 同居人を起こさないように、ベランダに出てから会話を始める。
 
 「……もしもし。」
 『わたくしはね……。』
 
 すわ、アリスの続きか?現実と幻想の間が揺らぐ感じがした。
 
 『あなたにこそ、殺して欲しいのだ。』
 「もしもし?お屋形様ですよね?」
 『龍、ドラゴン、鬼、蛇、悪魔。何でもいい。』
 
 会話が成り立たない。が、困惑もしない。
 夢だからか。それとも凪いだ心のままだからか。
 
 『あなたもいずれ。突然に踏み越える。
  だから、今は。安心して踏み外し続けなさい。』
 「……は。」
 『全ては神の自己満足なのですから♪』
 
 見上げろ、と言われた気がして、丘は首を上げた。
 
 都会の明かりで薄暗いはずの夜空は漆黒に染まっている。
 煌く満天の星は花火となり、次々に弾けた。
 火花は更に弾け、群れからはぐれた者は消え去り、密集したものは更に炸裂する。
 それを繰り返し、少しずつ光の密度が薄れていく。
 
 「Lifegame。」
 『そう、正にそれ。』
 
 ネットサーフィンでいつか見た生命シミュレーターの名前が口から出た。
 
 『夜空の星が、そのように無機質に弾けて消えたら。“という神のお遊び”だ。』
 
 それは、実の所どうしようもなく絶望的な言葉の筈だったのだが、丘は気づかない。
 
 そして、薄れて消えた火花は地上に落ちてくる。
 全ては小さな銀の粒。
 シルバーレイン。
 
 「そんなばかな。」
 『“ここ”では、何でも起こる。だから、何も心配することはありませんよ。
  わたくしもあなたも。神の都合の悪いようには動く筈が無いのですから♪』
 
 ああ、だから僕は龍にでも悪魔にでもなれるし、皆全部殺しつくしてハッピーハッピーに出来るんだ。
 人を殺しても銀誓館にいられるんだ。
 何をやってもいい。
 そうか。そうか。
 
 『前にあなたは訊いたでしょう?“ひょっとして自分は、14歳の丘・敬次郎としてわたくしが粘土でも捏ねて作ったのではないか”と♪』
 
 そうか。
 
 それこそが。それこそが真実なのだ。それこそが。それこそが。
 
 
 それだけが。
 
 思い通りにならないことなど初めからない。
 なぜなら、神に為せないことを我らは発想することすらもできないから。
 
 なんだ、自由だ。果てしなく自由じゃないか。
 胸がすく気分。
 
 『酷い話だが、極上ですよね、若頭♪』
 「全くです。お屋形様。」
 
 星空は既に、都会の薄暗闇に溶けて。
 シルバーレインの模倣など、もうとっくに“初めからなかったこと”になっていた。
 
 ここは舞台でありながら既に、到達すべき地平なのだ。
 ここは。ここは?ここは!
 
 ここ、が。
 
 以上。」
0971_wt03pcicon01_w3a379oumab25240_bust_1
広告

kiwivege について

nothing
カテゴリー: シルバーレイン パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中