ロックとブルース

 「困ったな、殺してしまうと貴方の苦しみはここで終わってしまう。
 
 でも、わたしが死んだら、もしかしたらあなたは幸福な人生を歩むのかもしれないのよね。
 
 困ったな。
 
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 触発されました。冒頭のやりとり以外は書いてる最中の勢いで参りまする。
 
 ……そちらの文章を読んでいると、本当に良様は、うちの丘と水と油の関係なのですよね……。
 
 敵と味方はまだ同じ人間?同士ですが、水と油はおよそ構成成分から違う。
 
 神同士の男女差かも知れませぬ。
 
 マザーグースの歌のように、男の子と女の子が元々全然違うものから出来ているのですから……。
 
 ……。
 
 HEAVEN OR HELL,
 
 Let’s Rock!
 
 
 ハードボイルド
 
 日も大きく傾いた銀誓館学園の、とある放課後。
 笑顔を向け、街田・良は最後に分かれた後輩に手を振った。
 秋風が軽く吹くと、思わぬ冷たさに良の肌が総毛だった。
 
 うう、寒。
 秋の日はつるべ落としって本当だな。
 明日からちょっと厚着にしようかな、でも日中まだ暑いしなあ、
 羽織ものとか一枚厚くするとかより、全体のボリュームを考え直した方がいいかも……。
 
 顎に手を当て手持ちの服を記憶のクローゼットから思い出そうとしていた矢先。
 
 どーん。
 
 「10点満点。」
 「危ないだろ。」
 
 丘・敬次郎が着地した。
 全身黒尽くめの背広とスラックスに、灰色ツーテールの呪髪を靡かせて、にこやかに着地ポーズをとる。
 
 「大丈夫ちゃんと離れてます。3m程。」
 「間合いじゃないか。」
 「お?やりますか?」
 「やらないよ。」
 
 拳を構えた丘に、良は心底からため息をついた。
 
 「言いたいこと山ほどあるけど……。
  とりあえず、公的なことから言うよ。
  イグニッションしてるなよ。」
 「一般人が見たってどうせ世界結界が何とかしてくれます。」
 「そして、私的なこと。
  待ち伏せするな。」
 「こうでもしませんとあなた100m先からでも避けるじゃないですか。」
 「当たり前だよ。」
 「くっは、当たり前と来ましたか。」
 
 大げさにのけぞって見せはするが、丘にショックを受けた様子は無い。
 
 「で?何の用?」
 「ゴーストタウン行きませんか。」
 「嫌。」
 
 ひらがなで「いや」。二文字。
 アルファベットで「IYA」。三文字。
 英語でNO。二文字。
 ついでにフランス語とイタリア語では「NON」。三文字だ。
 
 「ゴーストタウン嫌いですか。」
 「君が嫌なの。」
 
 嫌い、とは言わない。
 嫌だけど、嫌いではないから。日本語って難しくて楽しい。
 
 「ショック!」
 「さっきからやめようよ、その心の篭もってない言葉。
  最初っから僕がこういう反応するってキミは知ってるでしょうが。」
 「わかってても、ほかに接し方を知らないんです。」
 
 ため息をつく良に、丘は真剣な眼を向けた。
 
 「そんな眼されても。」
 「むう、リアクション薄いですな。」
 「そりゃどうも。
  で、今日宿題多いから本当早く帰りたいんだけどさ?」
 「受験生に宿題出ますっけ?」
 「……受験勉強が、ね?」
 「どこの学校ですか?」
 「教えない。教えたら着いてくるから。」
 「失礼な!」
 
 悪戯っぽい良の言葉に、やはり丘は大仰に応えてみせる。
 
 「いくら僕でも、進学先を聞き出して着いて行くなんて恋人みたいなことしませんよ。
  そんなに暇じゃないしそこまで先輩を好きでもない。」
 「それはよかった。」
 「忍者なのでちゃんと自分で調べて追います!」
 「暇なんじゃないか。」
 
 良、三度目のため息。
 付き合ってられないや、と目線を逸らして軽く拒絶の手を振る。
 
 「本当、最近忙しいの。
  出題範囲もわかったところだし、出来ない問題をどんどん埋めていかないと。
  道を譲ってよ。君も二年後にはきっと分かるからさ。」
 
 言った後、しまった、と思った。
 卒業後に丘が進学するかどうかなんて、わかるはずが無いからだ。
 “大学進学は当たり前”、同じ道を歩む受験生達の空気にほだされて、いつの間にか。
 増して、中学時代から既に忍者を自認する男だぞ?知る限りでは過激派でもある。
 学校で十分訓練を受けたら里に戻って永久(?)就職、って線が濃厚なのに。
 
 「あ、ごめん。」
 「何がです?」
 「いや、二年後にはきっと分かる、って話。
  進路は、人それぞれだからね。」
 「僕、医学部志望ですよ?」
 「ぶっ!?」
 
 飲もうとした唾が喉に引っかかって咳き込んだ。
 「失礼な」、という丘の責めが聞こえたが、喉が苦しくてそれどころではない。
 
 「……本当に?」
 「外科医になりたいのです。」
 「…………本当に?」
 「先輩、人をからかうの上手くなってませんか?」
 
 からかうのが上手くなってる?
 当然だろ?
 こっちは影に潜み影に生きる能力者だ。
 人間としての生活とゴースト退治屋の二つを両立させるには、どうしたって誤魔化しと嘘が上手くなくちゃいけない。
 何が性質が悪いって、正直に言ったところで、世界結界が邪魔して伝わってくれないんだから。
 孤独にやっていくのが、当たり前だ。
 他人との接触は最小限に。
 外面は優しく。内には闘志を忘れずに。
 いや、もっと沢山の思いがあるにはあるけど、いざ戦いの場になってそんなことを気になんてしてられないししてないし。
 
 「……。」
 「何?」
 
 自分の目を覗き込む丘に、良が気づいた。
 あ、俺、2、3秒くらい黙ってた。考え込んでた。
 
 「やっと、本当の顔になってくれた。
  ああ、疲れた。」
 「?」
 
 意味が分からない。
 
 「苦労するんですよ、良さんとのコミュニケーションって。」
 「それは僕もだよ。」
 「先輩、嘘が上手いから。
  いや、本当のことを言わずにいるのがすごく上手いから。
  僕は戯言なんて聞きたくないンですよ。本音以外に興味が無い。
  むき出しのモノを見ないと、面白くないんだ。
  でも、
  あなたはう~そ~つきだぁね~♪」
 「心は~~お~きざりに~♪か。」
 
 合わせて歌った良に、丘が吹き出した。
 
 「まさかスターダスト・レヴューが通じるとは♪」
 「名曲だよねえ、木蘭の涙。」
 「急がなくていいんですか?
  受験勉強忙しいんでしょう?」
 「君が引き止めたんだろう?」
 「でも振り払いはしなかった。」
 「そんなに勝手に振舞えるほどの間柄じゃないし。
  ご丁寧に感情で『綺麗』持ってくれてるけど、僕、はっきり言って君にそんなに興味が無いから。」
 「『そんなに』?」
 「全然無い。」
 「そうでしょう♪」
 
 拒絶の声を聞いて、丘はにんまりと笑う。
 
 「そうやって、無いのにある振りをする。
  あるのに無い振りをする。
  生まれって恐ろしいですよねえ、本職の忍者の僕ですら脱帽モノの嘘がつけるんだもの。」
 「……丘君。」
 「僕は他人なんてどうだっていいんですよ。マジ、本当。
  でも、あれだ。自己犠牲は出来ない。」
 「丘君。」
 「僕は悪いようには思われたくないんですよねえ。
  街田先輩はやんわりと遠ざけようとするでしょう?
  最低でも、相手が霧に巻かれて右往左往してる隙に逃げ切る。」
 「丘君。」
 「僕は最初から突き放しちゃうんですよ。
  悪く思われる前に、悪者だと思われて向こうから遠ざかってもらいたくて。
  丁々発止で嘘をつき続ける根性が無いんです。
  罪悪感すらある。
  いや、未熟は自覚してるんですけどねえ……。」
 「丘君。」
 「異議を認めます♪」
 
 どうぞ、と優雅に差し出される丘の手。
 茶色い瞳が、見下ろす良の眼を覗いた。
 一年前に蛍狩りに行った時の事を思い出す。
 眼の距離はこんなに近くなかった。
 この一年で、ぐっと身長が伸びたんだな、まだ全然低いけど。
 あの時は喧嘩を挑まれたんだっけ。その頃に比べれば。
 けど、全く、どこまでも……。
 
 「僕は、君が好きじゃない。」
 「へえ?」
 
 精一杯の、ごまかし。へえ、と見透かされるほど必死な。
 
 「その我慢した、嫌いだ面倒だ鬱陶しいって気持ちは、何処に行くんですか。」
 「さあね?」
 「誰に、本当のことを言うんです?」
 「君にじゃないね?」
 「自分にまで嘘をついて。
  迷わぬ自信がおありなんですか。」
 「それでも何とか生きていくさ、誰も彼もが、君みたいに忍者をやっていられるわけじゃないから。」
 「それでも忍者をやっていきますよ、僕は人間の皮を被ったバケモノをやり続けるには、弱すぎるんで。」
 
 “人間の皮を被ったバケモノ”
 
 良の心の深いところに、小さな火花が走った。
 ちくりと小さな火傷の痛み。一瞬、細切れに脳裏を走る、身内の少女に罵られた記憶。
 
 「で?何しに来たの?丘君。」
 「だから、デートのお誘い♪」
 「ダメだって言った筈だ。」
 「一度、貴方のような……。
  貴方と同じ学年で、自分を誤魔化し続けてる先輩と徹底的に話をしたことがあるんです。
  それこそ己の出自……とは言いませんが。根本みたいな部分の話まで晒しました。」
 「へえ……。」
 「……先輩。大丈夫ですよね?」
 「大丈夫、とは言い切れないけど。
  多分、何とかなるよ。」
 
 言いながら、良は丘が自分を心配などしていないことを見抜いていた。
 “これも演技だ、揺るがして本音を見るための”。
 丘も目線で気づき、下を向く。
 
 「貴方を見ていると不安になるんです。
  余りに違いすぎて、本当に同じ能力者なのか、って。」
 「同じじゃ、ないだろう?」
 「そうですね。」
 
 出自が違う。
 能力者になった経緯が違う。
 育った環境が違う。
 誤魔化さなければならないものが違う。
 興味を持つものが違う。
 
 同じところなど、一つも無い。
 
 「じゃあ、僕GT行って来ますよ。」
 「頑張れ。僕も頑張る。」
 
 擦れ違う。
 互いの背中が十歩ほど離れてから、丘が振り向いた。
 
 「ねえ、先輩。
  僕の里に来ませんか。
  貴方ほど話術が上手い人材は里でも希少ですし、能力者自体少なくて。
  親類縁者その他を社会的に誤魔化すのはこちらのが専門ですから、その心配は要りませんしさ。」
 「お断りします。」
 「そうですか。」
 
 そう言ってまた背を向けて、丘が歩き出した。良も止めていた歩を進める。
 
 そう。
 この世にはあるのだ。
 歩み寄りようの無いすれ違いが。
 こんな風に、言葉を交わして擦れ違う以上に近づけない存在ってものが。
 丘がもっと肉親の元で長く過ごして、愛と葛藤を抱きながら能力者になっていたら?
 良が幼少の頃から忍者として他者から厳しい訓練を受けて育っていたなら?
 
 それでもやはり。こうなっていたのだろう。
 愛してもいないし好きでもない。
 だからこそ興味を持つのに、全然分からないから踏み込みようが無い。
 踏み込んだところで、理解できる中身をしていない。
 心の距離が縮まらない。
 
 
 件の先輩にそう言わせた時、どれほど僕がほくそ笑んだか救われたか。
 
 良先輩。
 貴方には、そういう体験が。
 
 
 いや。やめておこう。
 『綺麗な先輩』で、脳の中の標本箱にピンで留めておく。
 内臓や骨や筋肉まで暴かれた、沢山の女の子の解剖図の横に。
 
 「……きついなあ。」
 
 敵意すらも無い敵。
 丘は、まだ。
 街田・良に対するには、若すぎた。
 
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