Deus ex Vitro

 「気のせいだ。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 蛇の足を描き、龍の眼は開かれる。
 
 兵庫県加古川市。
 日岡山、稲日太郎姫命(いなびのおおいらつめのみこと)陵、通称日岡陵。
 灰色の髪をツーテールに結った背の低い女が、門に向かって手を合わせている。
 第十二代景行天皇の皇后に、何の恨みもあるわけではない。
 ただ、此処からは播磨灘が近いから。
 『あの時』を思い出しながら戦うなら、聖なるものを汚し犯し押しつぶすのが似合いだから。
 
 星の煌く空に眼を向ける。
 その眼は青く、氷のように薄い色。
 濃き群青の名を背負いながら、透き通る氷の魔眼を持つ白いその物の名は、『鳩』。またの名を、『道具』。
 
 夜空を見つめていた瞳は、やがて薄い青さえも消して闇夜の色を写す。
 血管ではなく、基盤の導線のような模様が瞳に走り、絞り上げた瞳孔からタールのような闇が噴出した。
 溢れ出す闇は瞬く間に彼女を覆いつくし積み上がり、山となる。
 きしきしきしと機械の組みあがる音が中から響く。
 溢れ続ける粘体はまるでロケットのような勢いで山を為し、闇が吹き上がる勢いのままに、頂点に白い女が飛び出した。
 その顔は眼から溢れた闇が線を引き、まるで腹話術の人形のようだ。 
 見下ろす闇はよく見ると、大小の人の顔に凹凸が出来ている。
 いや、それどころか手も足も腹も臓腑も性器も無数にあるようだ。
 それが溶け、現れ、湧き、泡立つ。
 頂点の女は、その様をただ見つめる。
 
――――イイモノを、見つけました。
 
 彼女の主はそう言って眼を抉った。
 代わりに入れたのは硝子玉。
 メガリス『二つのビー玉』。
 勿論、正式名称ではない、彼女の主が適当に付けた名前だ。
 
――――月の裏側につながっているんだそうですよ♪
 
 悪戯っぽい声でそう言ったのを、黒い山頂にて鳩は思い出していた。
 『二つのビー玉』それ自体が強烈な魔力を持った器物ではあるが、本質はもっと別のところにある。
 二つで一つのビー玉は、鍵と鍵穴。二つ揃えば何でも呼べる。
 地球に決して向けられることの無い月の裏側。そこには、黒い魔王が棲んでいて、悪意を吐き出す時を待っているのだ。
 彼女が今吐き出したのは、正に月の裏側そのもの。
 人間の悪意という悪意。残留思念という残留思念。霊という霊。リリスというリリス。ゴーストというゴースト。
 最早塗りつぶしすぎて黒にしか見えぬ混沌だが、その奥深くでは悪意を吐き出す装置が組みあがっている。
 
 きしきしきし。
 きしきしきし。
 
 灰色の機械が、闇の粘体に隠れ、そして、闇を吐き出し続けている。
 『より効率よく闇を召喚しますように』。
 その願いを聞いて、闇とメガリスが作り上げた、作り続けている、タールを吐く機械。
 
 暗黒の山の頂点で、灰色の女はベルトのバックルを回した。
 輝く両手に宿るのは、鉄と銀で出来た龍。リボルバーガントレット。
 イグニッションカードを持つことを許されなかった、銀誓館学園以外の能力者が作り上げたデバイス。
 カード遊びは平成生まれの特権だ。
 旧世代の者にとっては、やはり変身はベルトの力が望ましい。
 
 メガリスの力で、肉体どころか最早服までも灰色に輝く機械に変わった鳩。
 さあ、『銀誓館の能力者(せいぎのみかた)』達、来るがいい。
 この世から全てのゴーストと能力者と来訪者を消し去る為に。
 人が科学で乗り越えた全てのものを神話に返す為に。
 わたくしはお前達に挑もう。
 お前達と共に、妖魔も神も滅ぼそう。
 さあ、沢山殺そう。
 
 両腕の龍を打ち鳴らすと、リボルバーガントレットが盛大にバックファイアを吐いた。
 闇夜に浮かび上がる、翼を開いた天使の姿。
 
 彼女は機械仕掛けの神?否。
 彼女はガラス細工の神。
 どこまでも透明な瞳、壊れる為に創られ壊れる為に動く。
 傷つける為に脆く蟲惑的な姿を晒す。
 彼女は、ガラス細工の神。
 
 以上。」
 
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