夜明け生まれ来る少女のライセンスare the one!

 「たいへい
 ようでしに
ました
 ――――You are you. 少女よ今こそ 振りほどき立ち上がれ!!

――――その瞳はずっと先の自分を探しているの

――――夜明け前の暗闇が 一生を運命づける

――――その心はずっと昔 潤っていたのだろうか

――――大丈夫 少女よ 今こそ 代わりのないその腕で強く

高橋洋子:『夜明け生まれ来る少女』より
 ……。

妄想シルバーレイン……。

 片意地のグー

 「!」

 目を覚ますと布団の中にいた。

 丘・敬次郎は、己の体が容易に起きないことを自覚してから、横に座している筧・小鳩の存在に気づいた。

 微笑んで、銀の甲冑で出来た両腕をひざの上に重ねている。

 「お屋形様……。」

 自分が想定したより更に小さな声しか出ない。

 黙ってペットボトルを差し出される。
 何とか手を伸ばし、蓋を開け口にあてがうと、初めて喉が渇いていることに気が付いた。

 思い出したように水を貪る。息苦しくなりながらも、10秒もかからずに500mlを飲み干した。

 「落ち着きましたか。」

 「……は。」

 記憶を辿る。直前に何をしていたか。

 確か組み手をやっていた。
 久々の首領との組み手で、自分の成長と未熟を同時に感じながら、打ち、打たれ。
 拳を打ち込めば紙のようにすり抜けられ、
 凶器を振れば戦車のように踏み潰された。

 隙を作るどころではなく、何をどうしても敵わない。

 ならば、と軽く手を振り出す。

 相手も応じ互いに右手の甲を当て合う姿勢。
 そこから、腕を辿り掌を胴体へ。
 首領の手も同じ動きで自分の体に辿り着いたから、一瞬でも早くと、地面を踏みしめ、爆水掌を打ち込んだ。

 打ち込んだのだ。手ごたえが確かにあった。

 その後だ。

 首領の掌に肉体が吸い付くような感触が一瞬してから、水分を練り上げたエネルギーが体中に爆ぜた。

 全身から力が抜けて……

 「本物の爆水掌は、あれほど強烈なのですか……。」

 「あれは爆水掌とはまた別のものですね。」

 未熟さを恥じる丘に、小鳩は微笑んで言った。

 「では、何です?」

 「エターナルフォースブリザード。相手は死ぬ。」

 「……。」

 ししおどしが鳴った。

 「爆水掌秘儀、渇水手。」

 「かっすいしゅ。」

 うむ、と小鳩が頷く。

 「本来の爆水掌は、術式によって己の中の水分にエネルギーを見出し、敵の体内に吹き込むものです。

  ですが、わたくしが先ほど使ったのは、相手の中の水分を掌握して、吹き出させる。
  自分の手の変わりに相手の体を使って爆水掌を打つようなものです。」
 「……よくもまあ。そんな出鱈目な技を……。」
 「まともに打てば、相手はその瞬間ミイラになります。
  能力者だろうが来訪者だろうが妖獣だろうがリリスだろうがリビングデッドだろうが、
  水分がなくなれば即死です。
  霊体は即死はしないかもしれませぬが、内部からエネルギーを爆発させられてはまともではいられないでしょうね。」
 「僕……生きてますけど。」
 「当然、手加減いたしましたよ。」

 「……。」

 まあ、と一言おいてから、小鳩はペットボトルをもう一本差し出した。

 丘は手刀を切って受け取ると、貪るように呑む。

 「使えるようになるとは思いませぬ。

  少なくとも銀誓館にいる間には。
  神話の中で、思い出していただければ。」
 「神話の、中で。」
 「丁度良い機会です。
  少し、お話を致しましょうか。」

 スカートの裾を整え改めて正座すると、小鳩は懐から煙草とライターを取り出し、灰皿を引き寄せた。

 「あ……。」

 「何です?」

 銘柄は『PEACE』。

 丘がお守りとして持っていた、この里の忍者への支給品ではない煙草。
 封が切られていることといい、見た目の残り本数といい、箱の凹み具合といい、

 同じ銘柄、ではなく、同じもの、だ。

 「いえ。」

 「そうですか♪」

 小鳩は笑い、灰皿で片方の切り口をトントンと叩くと、もう片方の切り口を咥え、マッチで火を点けた。

 それは間違いなく丘の所持していたものだ。
 一体いつバレて、いつ抜き取られたのか。懲罰はあるのか。

 落ち着きのない丘の表情を見るともなく見ながら、小鳩はゆっくりと煙を吸った。

 「わたくしは、『筧・小鳩』ではありますが、

  元々は鳩という名でした。」

 知っている。その話は聞いたことがある。

 「わたくしは元々別の世界の住人でして。

  詠唱銀とは異なる動力源を持ち、稼動する悪魔でございます。」

 その話も知っている。

 「わたくしのほかにも、鳩は何人かおります。」

 それは。

 「初耳です……。」

 「わたくしは、この世界に数十年前からいた、『ということになっています』。
  この瑠璃という組織を立ち上げるのに必要な期間が必要だったからです。
  ……必要な期間が必要、というのは変な言い方ですが。
  『粘土でも捏ねて作り上げる』にも、それなりの説得力といいますか。
  この世界における、誰にも干渉されない程度の事実というものが必要でして。
  丘、あなたもたとえば、生まれたばっかりだからといって日本語が全然出来ない、って訳には、いかないでしょう?」
 「あの。
  神から見た事実がどうであれ、
  僕の出自が誰かに創られたものである、ってのをあんまり声高に言わないで頂けませぬか。
  何だか、空ろな気分になります。」

 「ふふ。」

 小鳩が薄い煙を吐く。酸味と独特の甘みが混じる、香ばしい匂い。

 丘は、他人の煙草の煙はどちらかと言えば嫌いだったが、火を点けたての最初の一吐きだけは好きだった。

 小鳩が話を続ける。

 「ところが。

  鳩は、一人ではないのですよ。
  わたくしが元来生まれた、アクスディアの世界で生き続けているものもいます。
  また別の世界では東京で魔人のマフィアを経営し、
  更に別の世界では別の東京で掃除屋をやっている。
  並行世界、というと陳腐ではありますが。
  彼女らとわたくしは、同じであり、別のものだ。」
 「……。」
 「わたくしと彼女らには、ある共通した命令が主から与えられていました。
  そして、わたくしと彼女らには、決定的な違いがある。
  それが何か、お分かりですか?」

 「……いえ。」

 小鳩がまた一つ煙を吐く。

 ポン、と灰皿の淵を一叩き。

 呼吸よりも慎重な吸い方のおかげで、灰になったのはまだ先端部分のみ。

 「鳩に与えられた命令は、『主(あるじ)を超えること』。

  そして、わたくし以外の全員が、それを実行している。
  具体的に言えば、筧次郎と真正面から戦い、叩き殺し、コンクリート詰めにして播磨灘に捨てたのです。
  いや、東京のマフィアの頭目だけは別だったかな?
  ともかく、わたくし以外の全ての鳩が、今現在……という言い方はあまり正確ではありませんが……。
  筧次郎を殺しています。」

 「……。」

 丘は相槌を打てずにいる。

 どこか遠くの世界の話のようで、同意も否定も促すこともできない。

 いや、事実として『どこか遠くの世界の話』ではあるのだけれど。

 「わたくしもまた、いつか主(あるじ)を殺さなければならない。

  既に主を殺してしまった別のわたくし達は、どんな気持ちだったのでしょうか?
  どんな気持ちで生きているのでしょうか?
  主のノゾミをカナエ切れていないことだけははっきりしているのですが。
  いつ、どのように決意して殺すに至ったかは分からないままだ。」

 「……。」

 何度目かのししおどしが鳴る。

 「……お屋形様も、次郎様を殺すおつもりで。」

 「そのつもりですが。ですがね。」

 煙草の燃焼が幾等か早くなった。

 小鳩は煙を吐くと、自分を落ち着けるように煙草を灰皿に休ませる。

 「あなたがいる。」

 「僕ですか。」

 青い瞳が丘の目を見つめる。

 「我々の最終目標はハッピーエンドだ。

  だから、別に。主のその命令にこだわる必要はないんですよ。
  なにしろ、銀誓館に今正にいて、シルバーレインの事象に触れているのは、
  わたくしや主ではなく、あなたなのだから。
  そこが、わたくしと他のわたくし達の一番大きな違いです。
  わたくしか主のどちらかが生き残り、
  やがて訪れる銀誓館の終幕に立つ貴方を見ることが出来ればいい。
  いや、貴方が終幕に立ちさえすれば、わたくしも主も死んで構わない。
  現に、この先の未来を描いた別の世界では、
  わたくしは主を既に殺していて、わたくしも死んでしまい、貴方だけが生き残る。
  そんな神話も、あるのです。」
 「……僕は。」

 「貴方は、貴方です。」

 何の根拠もない言葉ではあったが、未熟な丘が納得するには十分だった。

 実の所、見も知らぬ何者かに『愛した主人を殺すよう動かされる』ことを強要された鳩の方こそ、

 『わたくしはわたくしではない』という思いを感じているのだから。

 「けれど、命令は絶対だ。

  果たせるかどうかという結論はおいておいて、わたくしにとっては、『主を殺すのは絶対』です。
  恨めしくも思う。
  今の今まで殺さずにいた自分を。
  これからどうやって殺せばよいのか。
  瑠璃という組織を足がかりとして作ってしまった今、主を超えることに何の意味があるのか。
  何より、既に殺してしまった別の鳩達は、それをどんな糧にしているのか。

  少なくとも、十字架を背負っていない分、彼女らよりわたくしは、『軽い』。」

 小鳩が休ませていた煙草を咥える。

 ししおどしの音も今は空しい。

 「……次郎様は、何故そのような命令を?」

 「アクスディアの世界では、魔皇、すなわち、
  主と同種の魔人は覇権を取れない情勢にあったのです。
  我ら逢魔の方がまだ綿密なネットワークと上下関係を持っていた。
  だから、世界から異分子を排除する組織を作るには主より鳩の方が向いていた。
  鳩が組織を作る第一歩として、
  鳩は『最低でも筧・次郎程度の魔皇は殺せなければお話にならない』。

  実際あの世界には、主や鳩を超える力を持つ魔人達がゴロゴロしていましたから。」

 地震。

 丘は警戒態勢を取るが、小鳩は煙草を咥えたまま。

 「世界結界がまた割れたんでしょう。

  この手の話は、この地球、この次元の常識を大きく歪めますから。」

 「……。」

 それは、大変なことではないのか。

 抗議の視線も小鳩は流す。 
 「どんな気分なのか。
  自分が。一番最初に一番愛して一番信頼した外道の男を、
  自分の手でまっすぐに殺す、というのは。
  そして、それを背負って生きていく、というのは。
  あなたなら……いや。聞くまい。」
 「……。」
 「隙あり♪」
 「ぎゃああああ!!」 
 銀の拳が布団の上に振り下ろされると、丘の股関節が死んだ。
 右太ももの付け根に手を伸ばすが、痛すぎて体が曲がらず届かない。
 緊急イグニッションするも、不意打ちだったためダメージが抜け切らない。 
 「では、今日は良く休んで行ってくださいませね♪

  久々の里帰りですから♪」

 そう言って煙草を灰皿に捨てると、小鳩は立ち上がった。

 障子戸を開けると、首輪をつけられた少女とティッシュ一箱が姿を現す。

 「折角ですから、骨休めしていってくださいませ♪」

 ティッシュ箱と少女の首輪をそれぞれ片手に持ち、丘の枕元に『置く』。

 「では、良い夢を。」

 障子戸は音もなく優雅に閉じられた。

 「……。」

 丘に供された少女は、年の頃12,3と言ったところ。手錠と足枷と猿轡をされ、衣服は浴衣一枚のみ。

 泣き腫らした目で、丘を見ている。

 浴衣の胸元に書状が挟まっているのが見える。

 丘が手に取るとそこには短い文。

 『抱き枕。まだ分解しないこと。

              筧小鳩』


「『まだ』。ですか♪」

 寝そべったままくつくつと笑い出した丘に、少女は絶望の予感を感じ取り、また泣いた。

 灰皿からはショートピースの煙が細く立ち上っている。
 以上。」
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