魂を込めて作り上げた人形

 「最近は殺意が涌かなくなりました。
 
 いいことですが、よくないことです。死ね!
 
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 
 妄想シルバーレイン
 
 地
 
 筧は、満足そうに笑った。
 
 『生きたい』
 
 その通りだ。
 罪人であれ、善人であれ。
 無くなってしまいたくは、ない。
 
 いや、死を望むことはあるのかもしれないし、
 それをひたすら願い続ける生き方もきっとあるのだろうが、
 少なくとも。
 死に恐怖し、死を嫌い、遠ざけたがることは、文化や文明の重大な一端を担ってきたのだから。
 彼が生を望むのは、ごくごく自然なことだ。
 
 「わかりました♪」
 
 うんうん、と頷いていた頭が、不意に止まる。
 ズボンから震える携帯電話を取り出し、「少し失敬。」と窓際に移動した。
 
 「はい。僕ですが。
  ……はい。はい。
  いえ?いまは神奈川ですが。
  ああ、東三国じゃないんですよ、今日は。
  うん。はい……。ああ、そういうことで。じゃあ、いいんですね?
  わかりました。ではそのように。
  はい、はい、よろしくお願いします。それでは失礼致します。」
 
 ふう、とため息一つ、携帯を二つに折り、ポケットに入れる。
 
 「楠森様、大変申し訳ありません、僕急用ができていしまいました♪
  立てます?」
 
 足はもう崩していたし、楠森はええ、と頷くと、立ち上がった。
 
 「やっぱり背が高いですねー♪」
 「今日は、ありがとうございました。」
 「最後に、イグニッションした姿、見せていただけますか?」
 「……。」
 「記念に♪」
 
 ……。
 
 2,3秒逡巡したが。
 結局、懐からカードを取り出し。
 
 「イグニッション。」
 
 掲げたカードが光り、彼の体は白衣に包まれた。
 頭部の学生帽は、ツバの部分が鋭い刃を持ったものに変わり。
 彼の傍らには、緑色に紋章を光らせる蜘蛛童・膨が現れた。
 楠森は警戒する蜘蛛童を手で制しながら、「すまない。」と言った。
 敬語が出て来なかった事に、自分で驚いた。
 
 「ありがとうございます。
  いやあ、どうしてか、子供と動物には好かれない性質でねえ♪
  まあ、好かれたら好かれたで色々としがらみとか、あるので♪
  悪くはありませんがね。
  じゃ、行って来ますね。
  此処の鍵、開けっ放しでいいですから。」
 
 そう言って、次郎が楠森の横を通る。
 
 客人の方が置いていかれる?用があったのは俺の方だ。
 
 「あの、」
 「楠森さん。」
 
 振り返る楠森に対し、筧は横顔を向けたまま。
 
 「ここ、何階に見えます?」
 「え。」
 
 8階。
 返事をするより先に、筧が続けた。
 
 「窓の外を見てみてください♪」
 
 部屋の奥に顔を向けなおす。
 見えるビルの、高さ、が。
 え?
 8階だよな?
 
 思考は激痛によって途切れた。
 背中!
 刺された。
 温い。血?痛い、痛い!
 
 直後、床が激しい音を立てて揺れた。
 目線を向けると、蜘蛛童が踏み潰されていた。
 筧の、ソックスを履いた足に。
 頭の部分が、床ごとくりぬかれている。
 
 「あ、」
 
 悲鳴か。
 哀悼か。
 名前を呼んだのか。
 自分でも分からない声が、喉から漏れて。
 
 視界の端に見えた、筧の顔には。
 どの能力者の特徴にも当てはまらない、真っ黒な紋様が浮かんでいた。
 それが最後の景色。
 喉を押さえられると同時、背中に差し込まれた刃物が持ち上がり、
 背中側から内臓、肋骨、背骨を斜めに引き裂いた。
 激痛と共に意識が消え。
 俺は。
 
 俺は。
 
 こめかみに衝撃。
 それきり。
 
 
 「もしもし?筧です。」
 
 禍々しい形をしたナイフを楠森の頭から引き抜きながら、筧は通話口に声をかけた。
 
 「ご依頼完遂いたしました。
  ええ。ここは『2階』です。丘にもそう伝えましたし。
  ……ああ、じゃあ、もう歪んでたんですね、その時点で。
  よかった。
  いや、本物じゃない、と言う意味でね。
  流石に、モノホンを手にかけたとなると、色々としがらみが♪」
 
 ナイフ――――魔皇殻・真・生贄の短剣――――を別次元の虚空に消し去りながら、筧は笑った。
 
 「では僕は、もう暫くお暇を頂くと♪
  モテる男は辛いですな……。
  あ、何ですか?ああ、また別件で?はいはい?
  ええ、勿論……。」
 
 筧が部屋を後にする。
 重い音を立て、金属の扉が閉じた。
 残された蜘蛛童と鋏角衆の死体は、輝く粒子となって消え去った。
 流れ出た体液も残さず、まるで、この世界から拒絶されるように。
 或いは、この世界にあることを彼らが全力で拒絶するように。
 
 
 
――――
 
 
 
 「……。」
 
 『どこか』の楠森統次郎に、意識が戻ってくる。
 切り離していた、夢の中にいた自分が戻ってくる。
 
 俺はここにいていいのか?
 
 その自答に、一先ず。
 筧・次郎は、『否』という答えを返した。
 それがたとえ、他者からの依頼を執行したのに過ぎないのであれ、
 『彼のいた世界』では、『消えてくれ』と誰かが言ったに違いないのだから。
 
 
 けれど。
 
 生きていてはいけなくても。
 生きているべきではなくても。
 
 あいつは。
 俺は。
 あそこに居た楠森・統次郎は。
 
 「生きたい。」と言った。
 
 殺し屋を前にしてまで、言ってのけた。
 
 「生きたい」のだ。
 「生きていてはいけない」が、「生きたい」。
 
 命は一つだ、ノゾミはひとつしかカナエられない。
 
 ……。
 
 生きていく理由が無くとも。
 死ぬべきであったとしても。
 
 元々、俺は。
 
 死ぬことなど、逃げることなど、出来はしないんじゃないか?
 償いたくて、尽くしたくて、申し訳なくて。
 それを、死ぬことで、果たして。
 本当に、逃げ切れるのだろうか。
 逃げ切れたとして、それは。
 
 それは?
 
 
 
 以上。」
 
 
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