新説

 「失せろ!この……何、この……何?
 
 ……こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 【IF Another despair】勇気の志向
 
 「『千年女優』。」
 「何です?」
 
 丘・敬次郎はライフルのスコープを覗いたまま問い、
 『千年女優』葛葉・いなりは、彼の背に念動剣を向けたまま応えた。
 
 「撃った後は、直ぐに移動します。
  第二射は一時間後、南西一キロの地点で落ち合いましょう。」
 「はいな。」
 「向こうの情報網とブレインは凄いですからね、
  じっとしてたらあっという間に場所を割られて殺される。」
 「それやったら、機関砲で一気にぼっこぼこにしたったらええんちゃいますのん?」
 「いやあ、機関砲の連射は、音が酷いですから♪」
 「弾薬同じやから、音量も同じでしょう?」
 「何というか、金の都合もあったんですけどね。機関砲高いから。
  ただ、機関砲の場合は、独りで撃つには向かない。
  ギリギリまで、丘・敬次郎という一個体の乱心ということにしておきたいんです。
  単発の音ならまだ、『あれは何の音だ』のレベルから調査が始まりますが、
  連射音の場合は流石に即『戦争』を警戒されてしまいますからね。」
 「効率的なような、非効率なような。」
 
 暢気なため息を吐きつつも、『千年女優』の覚悟は聊かも揺るいでいない。
 即時抹殺対象たる丘・敬次郎に対し、まだ剣先を向けるだけで留めているのは、
 躊躇っているからではない。
 『機』ではないから。
 油断をしているとは限らない、からだ。
 自分が狐なら、丘も狸と呼べるほどには老獪であったから。
 
 「人間と能力者の違いって、何だと思いますー?」
 「はい?」
 
 丘からの突拍子も無い問いに、『千年女優』は演技半分本気半分で気の抜けた返事を返した。
 
 「世界結界がなくなった今、遍く人々に能力が宿った。
  いつだったか貴種ヴァンパイアの子が言っていたように、
  この世界の人はもともと皆、能力者の素養を持っている。
  我々と彼らを隔てるものは、単純な実力差だけ。」
 「ほんほん。あー、あとは見えざる狂気とか?」
 「あー、それもありますね。」
 
 世界結界は、この世からありとあらゆるオカルト、伝承、神話を締め出した結界。
 『ありえぬこと』を、『ありえぬまま』にしておく結界である。
 ゴーストをゴーストに見せず、能力者を能力者に見せない。
 常識を持った一般人に、世界は常識の範疇にあると強制的に認識させると同時に、
 世界の方を常識の範疇に押し留めさせるという大魔術である。
 
 「ゴーストは死んでも消えなくなった。
  まあ、リリスとかは魂のありようが違うから、結局消えてしまうみたいではありますけど。
  リビングデッドも死体が残るし、霊体も、形をなしていた部分は残骸が残るようになりました。
  さて。
  ゴーストを成していた残留思念は、どこへ行くのでしょうか?」
 「天国か、地獄かしらん?」
 「消えないんですよ。
  ゴーストが死んでも、残留思念は消えない。
  世界結界が消えた今、消す手段も隠蔽する方法も無くなった残留思念は、
  ずっと残り続けるんです。まさしく不死。
  思念そのものは生きてすら居ませんからね。殺すこともできない。
  
  すべての意思は、望むと望まざるとに関わらず不死になった。
  自覚の無い者が永遠に眠るだけ。
 
  では。
  自覚ある者が、指向性のある意志を持って、力を追求し続けたら、何になると思いますか?」
 「……さあ?」
 
――――ああ、なるほど。
 
 とぼけた振りをしつつも、『千年女優』の思考は全速力で回転していた。
 不死を自覚し力を追求する。
 その上、それをただ夢想とするだけでなく、
 こうして――――対物ライフルという『人道に反する』武器をこの日本で裏から調達できるほどには―――実力と成果を持っている。
 
――――ランクA-は、妥当ですわ。
 
 危険因子たる能力者のランク付けでは、通常、『能力者』と呼べるレベルのものは、Bを超えることは無い。
 A以上のランクは、能力者の範疇に収まらない、『バケモノにすらバケモノと呼ばれるほどの』、
 例えば魔狼フェンリルのような、絶大な力を持つものにだけ割り振られる。
 政府付きの能力者や警察の装備だけでは対応できないほどの『人類の敵』。
 それが、Aランク以上の能力者、およびそれに順ずる存在の定義である。
 
 『千年女優』は静かに、しかし慣れた手つきで懐から札と筆ペンを取り出し、呪を書き付け始めた。
 
――――魔人葛葉の名に於いて命ず、妖狐顕現準備
 
 彼女の今の格好は、旧帝国陸軍の軍服に模したもの。
 即ち、日本最強の陰陽魔人『加藤保憲』と同じ格好。
 
 「そして、人の文化文明を信奉して生きてきた『僕ら』にとって、
  もう、それを取り返すことが出来ないと知ったなら。
  そして、世界結界以前の歴史に、実は大いにオカルトや伝承や神話の力が本当にあって、
  その歴史は単に隠されていただけだったと知ったなら。
  つまり、『人が科学を持ってこの世を開拓してきた』という『僕ら』の信仰を、
  この世界がその始まりの時点で既に裏切っていたのだとしたら。
  僕はどのような結論を出すと思いますか?」
 「丘君、何ぞ敵が来とるわ。
  おしゃべりは此処まで。」
 「よろしくお願いします♪」
 
――――一尾「赤面」、二尾「橙面」、三尾「黄面」まで、限定解除。
 
 呪文を呟き符を掲げると、彼女の背に三つの尾の幻が出現した。
 そして、腰から念動剣『孫六』を抜き放つと、呪文と符を吹き付ける。
 妖しく紫に輝く念動剣に呪殺符をたっぷりと撒きつけ。
 
 丘・敬次郎の背に突き刺した。
 
 
 彼の肉体は文字通り霧散し、直立した丘・敬次郎の姿に結集した。
 刺された辺りを手で押さえ、少しふらついている。
 
 「……効きましたよ。呪(しゅ)を完全には受け流せなかった。
  流石は政府お付だけの事はある♪」
 「こっちも堪えましたわ。全力でぶち込んだったのに、まだ立てるなんて。」
 「ご謙遜を♪僕のような雑種では、お狐様を従えるなど夢のまた夢です。」
 「だから、自分が妖怪になりはったんですか?」
 
 不死を自覚しつつ指向性のある意志を持って力を追求し続けたら、何になるかと彼は言った。
 不死にして、超越。
 即ち、不死神(ドラゴン)。
 姿形は仮初で、命の有り様すら他の生物と大きく異なる、正真正銘の異種存在。
 
 まだ生りきっては居ないようだが、彼は確実にその領域に足を踏み入れ始めている。
 
――――間違いない、あんたは掛け値無しにA-ランクの、『全人類の敵』や。
 
 『千年女優』は残る尾の限定を解除する呪文を、決意を以って唱え始めた。
 コートの内側に潜めた白い狐の面。
 生きている間は決して、着けたくは無かったのだが。

 

 
 
 
 
 前作
 
 以上。」
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