やらなければ死ぬ。

 「生きている価値も無いが、殺してやる義理も無い。困ったものだ、クズというのは。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 非常事態宣言
 
 「僕、本当に働きたくないんですよねえ。」
 
 とある廃屋の屋上。
 丘・敬次郎が張・潤風の隣に立っている。
 
 「ほう。」
 「サラリーマンとか。書類に向かってるとか、頭を下げて叱られてとか。
  いや、お百姓さんでもいいや。
  そういう、地道に働くことって、絶対楽しめないと思うんですよ。」
 「今、忍者をやってらっしゃるんじゃナイノデ?」
 
 張が首を傾げると、丘は苦く笑った。
 
 「ええ、忍者やってます♪
  でも、正直忍者なんていないほうがいいのはわかってる。」
 「同意、してもイイんですかネ?」
 「第一次産業、っていうんですか?
  二次も三次もですけど、そういう、ね?
  なんだろな。ふつーに地道に生きてる人が世界を回してるのはわかるんですよ。
  不況だなんだと言ったって、あれだ、商品を納品しなきゃ、僕らはコンビニでお菓子も買えない。」
 「ありがたいことですネェ。」

 
 忍者の仕事は決して、胸を張って言えるような内容ではない。
 張もまた、チャイニーズマフィアの出身であり、それでいて義侠を大事にしたいと願う男だから、
 丘が持っている複雑な感情を少なからず理解できた。
 

 「でも、僕は嫌なんですよね。

  そういう地道なことが出来るとも思えないし、それを一生、数十年やっていくなんて、絶望そのもの。」
 「うは♪」
 
 張が肩を竦めて笑う。
 
 「そう思いません?」
 「そこハ、同意しないでおきマス、人間として♪」
 
 今度は丘が笑った。
 
 「……。
  困ったことに、出来る出来ないじゃなくて、『したくない』んですよねえ。
  だから、本当に自分がクズだと思う。
  恩恵を受けていながら、恩恵を与える側には回りたくない。その苦労は、ヤだ、という。」
 「近頃流行のニートの子、ですカ♪」
 「お願い~♪お願い~♪親死なないで~♪」
 「ブハ!」
 「わはははは!」
 
 一頻り笑った後、丘は話を続けた。
 
 「だからねえ、僕。
  自分が能力者で、命張って仕事してることが、本当に嬉しくて申しわけないな、と最近思うのですよ。
  だって、死ぬかもしれない戦場にいる間は、皆同情してくれて、まともな労働を免除してくれるんですもん。」
 「サイテーすぎマス!」
 「明確な人類の敵がいる間は、僕は、殺し合ってりゃいいんですから。
  地道に少しずつ積み上げたり、色々叱られたり、そんな変わり映え無い数十年を生きる必要は無いんですよ。
  しかも、それを責められることもない。」
 「怖くないんですカ?殺し合うの。命を張るって、地道に生きるのと同じぐらいきっついリスクだと思いますけど。」
 
 当然の疑問。
 張も、人や能力者、ゴーストの生き死にを見てきた。
 それがどんなに恐ろしくて悲しいことかも、身を持って知っている。
 だから不思議でたまらない。
 明日死ぬかもしれないという日々の方が、地道に平和に生きるよりマシだという、丘が。
 
 「怖いは怖いですよ。
  でも、あれだ。毎日一生懸命になれる。
  いや、僕が言うとクサすぎますけど。
  明確な敵を倒す。
  そのために鍛錬する。
  覚悟を決める。全力を振るう。
  そういう、フツーじゃない生活の方が、楽しい、というか、ハリがあると思いません?」
 「ヒーローになりたいと?」
 「銀誓館学園の生徒としてゴーストと戦っている以上、
  凡百なヒーローの一人である自覚はありますよ。」
 「凡百なヒーロー……。
  ああ。」
 
 自分の手で護ると誓った一人の少女の姿が、張の脳裏をよぎった。
 
 陳腐な、ではない。
 弱い、でもない。
 強い、ですらない。
 『凡百な』、ヒーローの一人。
 
 人間の科学では認知も対処も出来ないゴースト達。
 自分や丘は、それに立ち向かう、万を数える能力者の一人。
 
 突出していない。
 目立ちもしない。
 けれど、確実にヒーローなのだ。
 『凡百な』、ヒーローの一人。
 自分の名前を知っている仲間の方が少ない。
 そんな、世界を護るヒーローの一人。
 
 「ただ、英雄は何も生み出さない。
  商品も作らない。売らない。
  この世界や社会を支えるほんのひとかけらのモノさえ作らない。
  それどころか、ぶち壊しすらする。
  それでも、僕は働きたくない。」
 
 張が、くつくつと顔を押さえて笑いを堪えている。
 酷い奴だ。コイツは、本当に酷い奴だ。
 英雄としての自分に酔いしれ、しかもそれを自覚し、楽しみ、
 その上で、『平和はいらない』と言っているのだ。
 
 忍者の稼業がどれだけ後ろ暗いものかは、張自身の身の上を振り返れば容易に想像が付く。
 それでも、カタギより『そっちの方がいい』と言うのだから。
 
 「あなた……ヤクザにもほどがありますヨ。」
 「でしょう?だから忍者やってるんですよ。
  世の中上手くできてますよね♪」
 
 かくて我は悪そのものなり。
 
 「あなたはどうです?
  能力者として、ではなく。
  この日本に生きる一人として、社会貢献できると、胸を張れますか?」
 「……張れますヨ♪」
 
 張はニッコリと笑って。
 
 「だって、僕は……。
  少なくとも、丘先輩と言う悪が日本に居る事を知ってますモノ♪」
 「おー、こわいこわい♪
  あ、風が強くなってきましたね、下でお汁粉でも食べましょうか。」
 「小豆缶、まだ残ってましたカネ?」
 
 一月の冷たい風に身を縮めながら、二人は、屋上の重い扉の中へと戻っていった。
 
 以上。」
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