危機

 「犯罪は倫理の反対だ。
 
  倫理とは何か?集団潜在意識だ。
 
  『これはいい』と認められる、大多数の意見だ。当然時代や状況によって変動する。
 
  変動はするが。少なくとも今この時に、大多数から非難されるということは、今この時の倫理にお前はそぐわないということだ。
 
  個人ではなく、人間が。お前を排除したがっている。
 
  死刑や懲役や禁固とは、詰まるところ更生や贖罪の機会なんかではなく、
 
  理解不能なケダモノを隔離することで、人間が安心するための方法に過ぎない。
 
  で、俺は。お前が犯罪者であるべきで、俺の目の前からこっぴどい方法で消えてなくなるべきだと思うんだ。
 
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 
 人間とそうでないもの
 
 「麒麟、ですか。」
 「麒麟、だってよ。」
 
 銀誓館学園の食堂。
 放課後でも出入りは自由で、少数の生徒が雑談や雨宿りに使ったりするが、余り人気のある場所でもない。
 
 丘・敬次郎と、植松・弾(はじき)。
 学園では接点はほとんどないが、彼らの保護者は、浅くない因縁で繋がっている。
 
 「あなたは。」
 「いつもどおり。ぶっ潰すだけだ。」
 「僕も、いつもどおり刺し殺すだけです。」
 
 不思議と気は合う。
 丘は泣く子も黙る 忍者組織(マフィア)の出身であり、
 植松は元傭兵団員。
 ゴーストを倒すということにかけては、二人とも全く情けも容赦もかけないことで一致している。
 方法が違うだけで、己の使命に実直。
 
 「何か気になるんですよねぇ。」
 「何がだ?」
 「『大いなる災い』って名前。」
 
 今回銀誓館が総力戦で挑むのは、『大いなる災い』と呼ばれる麒麟の形をした大妖獣とそれを取り巻く妖獣の群れである。
 『大いなる災い』は、妖獣を生み出す力を持ち、また単体でも非常に強力な力を持つ。
 作戦概要に『正攻法で倒すことは難しい』と明記されているほど
 作戦の最終目標が奴の打倒であるにも関わらず、だ。
 
 「名前ぇ?」
 「『大いなる災い』だったことがあるんですよ。過去に。」
 
 考えた上で行動し作戦通りに事を進めることを是とする丘と、
 考える前に行動し逆境をいち早く打開することを是とする植松とでは、
 物事の捉え方に大きな違いがある。
 
 「……昔の話だろ?」
 「昔の話ですけどさ。
  どう見ても偶蹄目なのに、麒麟でも馬でもなく、『大いなる災い』という名前なんですよ?あいつ。
  詩的だとは思いますが、あまり感覚的ではない。」
 
 首をかしげる丘に、植松はつまらなそうにペットボトルの水を飲んだ。
 
 「だから、カンケーネーだろがよ、今回の戦争には。
  姿も形も見えてる、強さも知ってる。
  その上で叩き潰す。それ以上に何がある。」
 「単なる興味です。」
 
 はっきりと丘が言い切る。
 植松は心底つまらなそうな顔をした。
 
 「色々想像は出来るんですよね。
  荒神様みたいな扱いだったから直接名前をつけることを恐れたとか、
  そもそも当時はあんな形してなくて、もっとこう不定形の、なんだかよくわからない姿をしていたのか、とか。」
 
 丘が熱を上げて弁を振るうのを、植松は頬杖をついて眺めている。
 
 「ケモノガミとか神獣とか名前がついてたらまだわかるんですけど、
  『大いなる災い』ってことは。
  奴の姿をはっきり見た奴はほとんどいなかったのかもしれない。
  妖獣達が雲霞の如く涌くことを『大いなる災い』と呼んでいただけなのかも。
  封印した人たちも、たとえ麒麟みたいな今の姿を見たことがあったとしても、
  民間伝承レベルではあいつに名前をつけるに至らなかったのかな、とか。」
 
 はぁ、と植松はため息一つ。
 丘は構わず続ける。
 
 「だとしたら凄いことですよ?
  当時の能力者達は、千人単位で奴を封じた訳じゃない。
  そんな大人数でかかったなら、封じ方とかが民間伝承に残ってない訳ないですからね。
  飽くまで少数の、それも呪言師だけの力であのどでかいのを石の中にぶち込んだわけです。
  ……あ、いや、封印されている間に力を蓄えてた可能性もあるから一概には言えないか。」
 「もういい。」
 「『掃除屋』とはその後どうです?」
 
 飽き果てて立ち上がった植松に、間髪を入れず急所に通じる言葉を投げた。
 
 「……。」
 
 『掃除屋』こと筧・次郎。
 銀誓館創設以前から能力者として行動していた存在であり、植松の保護者とは旧知の仲でもある。
 丘・敬次郎の暗殺術の師匠であり、『魔人』とも称され謎を孕む存在。そして。
 
 「……くそ、思い出したくもねえ!」
 
 植松・弾の宿敵でもある。
 植松は何度か彼と戦っているが、いずれも敗れている。それも、死なない程度に手加減をされて。
 『掃除屋』の意図はともかく、植松にとっては甚くプライドが傷つく負けさせられ方だ。
 そして出会ったときからずっと、植松の直感が『奴は世界の敵だ』と訴え続けている。
 “負けっぱなしでたまるか。”
 “こいつをのさばらせておくわけには行かない。”
 『掃除屋』は、植松にとって不倶戴天の敵と言えた。
 
 「あんまり調子よろしくなさそうで♪」
 「何で嬉しそうなんだお前。」
 
 苛立った眼で見下ろす植松と、笑顔で見返す丘。
 
 ああ、これだ。こういう関係。これを望んでいた。
 丘の中の何かが、この距離感を懐かしみ喜んでいる。
 
 「だぁってお師匠様ですもの♪
  負けて欲しくないに決まってるじゃありませんか♪」
 「知るかよ!あの野郎はぶっ飛ばさないと気がすまねエ!
  何よりあいつ……あいつは……。
  悪い奴だ。」
 
 ぷっ、
 
 「あはははははははは!」
 「何笑ってんだてめえ!」
 「いや、だって、だって、あははははは!」
 
 丘が壊れたように笑う。
 
 「悪いのは当たり前じゃありませんか!
  僕ら、能力者ですよ?
  そして、『僕らの里の人』なんですよ?」
 「じゃあついでに『あなたも片付けて差し上げましょうか丘先輩』ぃ?!」
 
 胸倉を掴まれても、丘は笑い続ける。ゲラゲラと口を空けて、喉の奥まで露出させて。
 ツーテールの髪型にとても似合わない、『グロ』い笑い方で。
 
 「大体、傭兵団ってのもね?
  誰に雇われて金もらってんだとか思ったり、
  人間を超える力をぶん回す、いわば羆(ひぐま)だ僕らは?
  それが誇りだの何だのと、」
 「てめえ!」
 
 植松が振り上げた拳を正に下ろさんとするとき、食堂の扉が開いた。
 
 「何してるの、弾?」
 「ああ?!」
 「あぁ、どなたか存じませんが助けてください。」
 
 扉から入って来たのは井田・錐子。
 最近出来た、植松の悪友。
 当然丘は彼女のことは知らない。
 
 「高等部の先輩に殴りかかる……。
  停学ものですよこれは。」
 「てめえ違う!これはこいつが!」
 「せんせーに言いつけてやろー!」
 「やめろー!」
 
 食堂を出て走り出す井田を追いかけ、植松もまた食堂を出る。
 井田は一つウインク。『これは一つ貸しですよ』と。
 かくして、弾き弾かれる快男児は標的を変えて走り去っていった。
 
 「ふん。」
 
 鼻を鳴らし、丘は襟首を整える。
 
 認識がどうであれ、変わるところはない。
 ただ、殺すだけ。
 
 だが、ただ殺すだけしかできない俺達お前達が、何故誇りや絆や怒りや憎しみを口に出来ると言うのだ?
 
 俺達は、殺すしか脳の無い、
 
 せいぜい人間程度の知能を持って『しまった』、社会不適合な災いそのものだろ?
 
 走りこんだ校舎の扉が閉じられるまで、丘は冷淡な目で植松の背中を見送っていた。
 
 
 以上。」
  
 
  
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