敵意の発露

 「くたばりたまえ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 今回はゲストを拝借。
 
 滝沢・玲魅様です……。
 
 では、妄想シルバーレイン……。
 
 
 運命の寵児、反逆する鉄拳
 
――――そうだ、渡り廊下歩いてるのを見た……。
 
 滝沢・玲魅の記憶に唯一残っていたのは、その光景だった。
 窓越しに、黒いツーテール、赤い髪留めの『男子』が歩いているのを見た。
 奇抜な格好をする人間が珍しくない銀誓館にあって、尚目を引いた異色の存在。
 
 忘れ去られるべき、ただの奇抜な他人だった。
 
 ほんの数十分前までは。
 
 「どこでその名前を?」
 「教える義理はねえ。」
 
 目の前にいる男に、烈火の如き視線を浴びせる。
 丘・敬次郎。
 ほんの数十分前に、黒いバンに少女を乗せた誘拐犯。
 だが、丘はそれが見咎められたことよりも、彼女の発した言葉を気にしていた。
 
 「筧・小鳩を知っているか」、と。
 
 
 
 コトはとても順調に進んでいた。
 いつも通りの気まぐれで、いつも通りのバンを呼び、
 いつも通り、下校する小学生を追わせた。
 いつも通りに連れ込んで、いつも通り行方不明にするはずだった。
 
 「まてこらあああああああ!!!」
 
 ベスパ乗りに見つかって追いかけられたその時は、まだ。
 世界結界で何とでもなる、と踏んでいたのだが。
 
 路地を曲がっても諦めない。
 高速道路に入っても追ってくる。
 丘は運転手に、高速道路を降りるよう指示を出し、無人の公園にて勇敢なスクーターを迎えた。
 
 「ガソリンは大丈夫ですか?」
 「女の子を返せ。」
 
 脱いだヘルメットからあふれ出たのは、金髪に染め上げられた豊かな髪。
 ベスパを降りたその女は丘より20センチ以上も背が低かったが、
 丘は中高生特有の勘で、互いの年齢差を感じ取っていた。
 
 「……バイクごと行方不明って、手間なんですけどね。」
 「できるもんならやってみろ。」
 
 女は、イグニッション、と声を発した。
 女の分厚いコートが消え去り、上半身はサラシに。下半身はニッカボッカに。
 そして両腕には、詠唱動力炉として大柄なエンジンを積んでいるリボルバーガントレット。
 黒いガスを吐き出すそれをみて、丘は深くため息をついた。
 
 これは、俺が殺せない相手だ。
 
 銀誓館の生徒を除籍、或いは死亡させる権利を、丘は持っていない。
 運命の縛りに顔を押さえた後、彼もまた、イグニッション、と発した。
 
 衣服が黒いコートに一新される。
 金糸で『筧』の文字が刺繍された、戦装束。
 
 「……返せ。」
 
 丘がバンの運転手に命じると、バンは二人を置いてエンジンを震わし、来た道を戻っていった。
 
――――ツーテール、『筧』……。
 
 もしやと思い滝沢が発した問いに、丘は顔を歪めた。
 
 
 
 「筧・小鳩が何か?」
 「もし身内なら言っておいてくれ、わたしはあんたを許さない、とな。」
 「何故?」
 
 
 それは、滝沢が能力者として目覚めた時期まで遡る。
 レディース『烙朱魅』を率いていた彼女は、ゴーストの暴走族に襲われ、惨状の中でその能力を開花させる。
 仇であるゴースト達は皆殺しにしたが、他にも同じようなバケモノがいないとは限らない。
 友人達の死が、世界結界によって『事故死』と判断されてしまった苛立ちもあり、
 彼女はゴーストによる暴走族を狩る活動を始めていた。
 まだ、ゴーストや能力者という言葉を知る前の話だ。
 そんなある日、道路の彼方に炎を見た。
 駆けつけた彼女が見たのは、腐った身体の暴走族たちがバラバラに『壊され』、乗っていたマシンが残らず炎上している風景だった。
 
 炎の逆光照りつける中、一際小さな影が立っているのを見る。
 灰色髪のツーテール。背は自分と同じぐらい。背中をこちらに向けた影は、高らかに宣言した。
 
 「シルバーレインの落とし子よ。
  ゴースト、能力者、来訪者の区別無く、業火に焼かれて死ぬがいい。
  お前らに出来る正義は、ただそれのみなのだから。
  不当な力を持つ者は、滅びなくてはならないのだ。」
 
 今でも耳に残っている。
 仲間を殺したゾンビたちを、わたしはこの力で打ち砕いた。
 それを悪だと言うのか?あってはならないと否定するのか!?
 
 「我は筧・小鳩。
  人類の叡智を信仰し、銀の落とし子を抹殺するものなり。」
 
 悪寒を感じてベスパを引きずるようにUターンしたが、
 振り返った彼女の青い眼は、はっきりと記憶に残っている。
 
 
 「筧小鳩を、知ってるんだな?」
 
 丘は返事の代わりに地を蹴った。
 滝沢が迎撃の構えを取る。
 ライトクロスを打ち込む、積もりで右のガントレットを振った。
 
 龍顎拳が丘の顔を確かに捉えた。
 が、手ごたえは重く。次の瞬間、滝沢の胸元が丘の拳に打たれた。
 
 アスファルトの上を転がされる感触。
 正直、外見と卑劣な行いから、丘のことを甘く見ていた。
 想定外の痛みに胸を押さえて蹲る。
 
 「これが返事です。」
――――はっ、言う訳にゃいかないってか!?
 
 悪態は思いついたものの、発する口には掌を押し付けられ。
 爆水掌。
 滝沢の口の中で痛みが炸裂する。
 吹き飛ばされ、フェンスの向こうへ体が浮き、背中から落ちる。
 
 丘は彼女が視界から消えたのを確認すると、その場から走り去った。
 
 「……殺されないとはありがたいことですが、
  殺せないのは、面倒極まりないですね。……まあ、まあ。
  お屋形様に言わせれば、『正義(てき)が増えた』と喜ぶべきところなんでしょうけど。」
 
 
 「あ、の、野郎……。」
 
 口の中に溢れる血を吐き出す。舌がずたずたに裂けて激しく痛む。
 だが、滝沢の脳内には敵意が漲っていた。
 ゴーストも能力者も全て同じ害悪とみなす筧・小鳩。
 おそらくはその忠実な手下である丘・敬次郎。
 何よりも、そういうヤクザものの存在自体に。
 滝沢の思考回路は、全力で拒絶を訴えていた。
 
 痺れる身体を起こす。
 もう刻み込まれた。あいつは敵だ。
 今度あったらぶちのめす。
 上下の顎を痛いほど軋ませて、滝沢は誓った。
 
 以上。」 
広告

kiwivege について

nothing
カテゴリー: シルバーレイン パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中