その妄念。

 「チンケな無念を抱えて死ね。
 
 ……こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 まだ名もなき
 
――――あいつのパーは結構なものだ。
――――暗器を抜かせたら、勝ちを確信された時だと思え。
――――手をよく見て、何を抜くかきちんと判断し、対応しろ。
 
――――あいつのグーはかなりのものだ。
――――細身だと油断するな、骨まで砕く拳と思え。
――――所詮ボクサーでも空手家でもないアマチュアのパンチだ、きっちりガードなり回避なりするんだな。
 
――――あいつのチョキはもうだめだ。
――――その時にはお前は死んでる。
――――あの指先は、命のスイッチを切る指先なんだ。
 
 
 「振り上げた拳を下ろす先など与えない。
  お前は怒りを抱えたまま死んでいくのだ。」
 
 瑠璃の里長は元来、『ぶっ殺したなら使ってもいい』の人だ。
 部下にもそれを徹底している。
 しかし、威厳を保つ為には、有言実行が必要な場合もある。
 
 不言実行には地道な信頼が付与されるが、
 ハッタリを伴う有言実行には絶大な畏怖が賭される。
 
 反逆者を迎える。
 振り下ろされた拳を紙一重で交わし、手のひらを相手の胸に当てる。
 
 次の瞬間、反逆者の体が爆ぜた。
 
 「この程度にも耐えられぬ輩が、里一つを覆すなど思い上がりにもほどがある。」
 
 飛び散る血肉を浴びながら、『彼女』は言った。
 
 “真・爆水掌 潤封満反(じゅんぷうまんぱん)”
 
 爆水掌は相手の身体に水分エネルギーを送り込む技だ。
 これはそれの単なる応用。
 吹き飛ばす、という無駄なエネルギーをすべて相手の体内に吹き込む。
 抵抗力の低い、あるいは、己の体の膨張に耐えられない輩は砕け散る。
 
 必殺ではない。耐えられるものには耐えられるのだ。その程度の技だ。
 だからこそ、これは、『この程度は乗り越えて来い』というメッセージでもある。
 
 「始末を。」
 
 そう言って背を向ける彼女が放ったのは、畏怖。
 絶大な力と、それを行使する意志を持つ、危うい暴君。
 初めは演技であったその様も、環境と実績が追いつけば、真実へと変じていった。
 
 
――――
 
 敵:能力者
 味方:後方待機(理由:耐久性能、破壊性能に劣る為)
 
 丘・敬次郎は能力者と対峙していた。
 世界結界の裏側でヤクザ稼業を営む丘にとっては、よく出会う商売敵。
 銃もナイフも聞かず、詠唱兵器とアビリティによってのみ打倒することのできるバケモノ。
 
 対峙するそいつは大柄な女だった。
 長い剣を軽々と振る魔剣士。
 
 自分でなければ対抗できぬと部下を下がらせ、自ら前に出た。
 袖から抜いた手榴弾で視界を塞ぐ。
 握った拳で手首を狙う。
 
 だが敵も手練。
 たかだか人間の兵器による爆風などものともせず、
 拳打には冷静に剣の技で応じる。
 
 丘が取り出したのは忍者刀。
 ようやっと詠唱兵器のお出ましか。
 舐められているのかと思い苛立っていた剣士の呼吸が、幾分整う。
 
 間。
 
 足先だけの移動で牽制。
 
 仕掛けるは丘。
 左上に振りかぶった剣を斜めに切り下ろす。
 受けるは剣士の大剣。
 丘の忍者刀が真っ二つに折れた。
 
――――詠唱兵器ではない?
 
 剣士の眉が顰められるその一瞬に、さくりと微かな音が重なった。
 
 自ら伸ばした腕で幾分視界の狭くなった右手側。
 その死角から、丘の左手が伸びていた。
 ペングリップに握った細く鋭いナイフ。その刃が根元まで、剣士の首筋に食い込んでいる。
 
 「かちり♪」
 
 トグルスイッチを切り替えるように人差し指と中指を曲げると、切り裂かれた動脈から激しく血が噴いた。
 
 「貴様、」
 
 能力者の頑健さで失血のショックには耐えたらしい、謀られた怒りが青い顔を歪めていたが、
 
 「御免!」
 
 喉まで裂かれれば最早吐ける言葉もなく、血に崩れ落ちた。
 
 「ふう。完成度はまだ、40%ってとこですかね?」
 
 目指す絶対の一撃必殺にはまだまだ遠い。
 能力者であろうと人間であろうとゴーストであろうと、生きているなら必ず殺せる伝説のような、地獄のような、悪夢のような一撃。
 それが自分のできることだ。
 
 
――――丘。お前はありふれた能力者の一人に過ぎない。
――――しかし、お前の代わりはいない。
――――お前がいないということは、銀誓館学園の戦力が、確実に一人、少なくなるということだ。
――――その影響は小さいかもしれない。
――――しかし、元来人が徒党を組むのは、その小さな影響を寄せ集める為。
――――一人一人の力が小さいということなどは前提で、
――――それらが等身大の力を発揮することを期待して、大きな仕組みが動いている。
――――だから丘。
――――己の務めをゆめ侮るなかれ。
――――一人にできることは小さくとも、
――――お前が斃せる数が少なくとも、
――――その小さな戦果を、仲間の全てが欲しているのだ。
――――『出来ることが少ないから何もやらなくてもいい』と考えることは、他人がそう考えることを容認すること。
――――集団でことに当たる、ということそのものを根底から覆すこと。
――――そうなれば、『誰も何もやらない』。何もやらなくていいという理論の根底も覆る。
――――だから丘。
――――己の務めを、決して侮るな。
 
 「お屋形様。それでも僕は、大きな魚を釣りたい♪」
 
 己の務めを果たした忍者は、暗い天井に向かって、勇者になりたいと願った。
 
 
 以上。」
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