瞬きの間に

 「叩かれ潰れろ。
 
 
 へー、語源は、「敵」、「反対する事」ですか……。
 
 ……。
 
 じゃあそれで。
 
 妄想シルバーレイン。
 
 我が応酬丸よ、飛べ。
 
――――そして、世界結界以前の歴史に、実は大いにオカルトや伝承や神話の力が本当にあって、
――――その歴史は単に隠されていただけだったと知ったなら。
――――つまり、『人が科学を持ってこの世を開拓してきた』という『僕ら』の信仰を、
――――この世界がその始まりの時点で既に裏切っていたのだとしたら。
――――僕はどのような結論を出すと思いますか?
――――丘・敬次郎のようなもの
 
 
 「わたくしは唯物論者です。」
 
 御簾の向こうにおわす里長が、跪く丘・敬次郎に声を降らせた。
 
 「全てはあるべきようにある。
  過去の一瞬が次の一瞬を完全に決定する。
  未来を変えるとか、運命を変えるとか、そういうセリフは、わたくしは心底嫌いだ。」
 
 ぴしゃり、と扇子を閉じる音。
 
 「変わる可能性などありはしないのだから。
  我々にあるのはただ、『未来の完全予知が不能』という盲目のみ。
  盲いた脳が、自我という幻を見せ、あるべき場所を求めて争う。」
 
 苛立ちの篭もる声。
 
 「わたくしは、唯物論者だ、丘。」
 「は。」
 
 頭を下げたまま、丘は鋭い声で答えた。
 
 「しかし、わたくしもまた盲いている。
  望む結末と、其処へ辿り着く最も正しい道のりがこの脳に刻まれた。
  その通りに事実が進むかどうかに関係なく、
  わたくしの脳の構造は、中身はそのように構築された。
  だからわたくしは眼を閉じたまま高らかに吼える。
  『我らは敵である』と。」
 「は。」
 
 敵。
 
 「我等はバケモノだ。
  故に人に殺されなければならぬ。
  我等は人を食う敵だ。

  故に人に殺されなければならぬ。
  我等は人の正義を信じている。
  故に人に殺されなければならぬ。」
 「は。」
 「だが、人は我等をまだ知らぬ。
  故に、我等を殺すに至らぬかもしれぬ。
  我等は人の作り出した文明文化を信仰している。
  故に、それを否定するものを許しておけない。
  我等は人の歩んだ歴史と科学を崇拝している。
  故に、ことによっては、人によって未だ止められぬ怪異を破壊せねばならぬ。」
 「は。」
 「我等は人を信じている。
  故に。人を信じぬ輩を殺さねばならぬ。
  我等はあってはならぬもの。
  故に消え去らねばならぬ。
  我等の理想は誰も受け継がぬ。
  故に我等が殺さねばならぬ。
  その果てに、遂に我等は死ねるのだ。」
 「は。」
 「復唱せよ。」
 
 すぅ、と呼吸音が聞こえる。
 
 「我等は人の敵なり!
  我等は人間の敵なり!
  我等は人類の敵なり!
  我等は人類の勝利を信じるものなり!
  悪であり魔であり怪異である我等の行いを以って人に仇為し、
  悪であり魔であり怪異である我等の打倒を以ってそれを証明するなり!」
 「我等は人の敵なり!
  我等は人間の敵なり!
  我等は人類の敵なり!
  我等は人類の勝利を信じるものなり!
  悪であり魔であり怪異である我等の行いを以って人に仇為し、
  悪であり魔であり怪異である我等の打倒を以ってそれを証明するなり!」
 「我等は運命を信ずる!
  我等が、人の勝利に向かって歩んでいることを信ずる!
  人を食い、人を殺し、遂に人に殺されるなり!」
 「我等は運命を信ずる!
  我等が、人の勝利に向かって歩んでいることを信ずる!
  人を食い、人を殺し、遂に人に殺されるなり!」
 「それならざるならば!
  我等自らの手を以って、人の歴史を冒涜する全ての銀の落とし子と心中するなり!」
 「それならざるならば!
  我等自らの手を以って、人の歴史を冒涜する全ての銀の落とし子と心中するなり!」
 「そしてもう一つ。」
 「は。」
 
 丘の声から、気が抜ける。
 
 「世界結界の破壊の果てに。
  人が紀元前から作り上げてきた科学と文明が、銀の雨と怪異によって支えられていたことが完全に確実に判明した暁には。
  この瑠璃は、この世界そのものを否定し、この世界における地球を、いかなる手段を以ってしても破壊する。
  そして、科学による文化文明が確かに歴史を築いたと信じられる世界に、転生する。」
 「……。」
 
 表情は、困惑。
 
 「復唱!」
 「はっ!
  世界結界の破壊の果てに!

  人が紀元前から作り上げてきた科学と文明が、銀の雨と怪異によって支えられていたことが完全に確実に判明した暁には!
  この瑠璃は、この世界そのものを否定し、この宇宙における地球を、いかなる手段を以ってしても破壊する!
  そして、科学による文化文明が確かに歴史を築いたと信じられる次元に、転生する!」 
 「よろしい♪」
 
 里長:筧・小鳩の信念。師匠:筧・次郎の憎悪
 丘には未だ理解できていない。
 人間世界が蹂躙され、バケモノが量産された彼らの歴史を。
 息を潜め、ヤクザものとしての自覚を持ち、カタギと一線を引くことだけがプライドだった彼らにとって、
 「人は愚かだ」とエイリアン如きに断じられた事実がどれほど重いか。
 魔や神の力に覚醒した元人間達が、どれほど己の異常性に無自覚であったか
 挙句、人間は進化論とは全く異なり、『知恵の実を食べ楽園を追い出されたもの』であった、
 何の歴史にも残っていないが、原初、神と悪の争いがあった、などと非科学的な事を否定できない形で明かされ、
 その事実がどれほど、筧次郎の価値観を踏みにじったか。
 
 筧次郎は終わらない。
 憎悪は止まらない。
 たとえ何人殺そうと。
 たとえ何回殺されようと、
 たとえいくつの世界を渡り歩くことになろうと。
 たとえその世界に幾度裏切られることになろうと。
 
 “筧次郎だけは、筧次郎を裏切るわけにいかない”のだ。
 
 『降りかかった全ての理不尽を打ち倒して、真っ当な人間が元通り生きられるハッピーエンド』
 其処に辿り着くまでは。
 
 丘には理解できていない、まだ。
 
 
 以上」
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