ToKiMoNaTaKaNiMeKaT

 「死ね!このゴミ!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 ……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 駆逐の邪龍
 
――――蛇や龍の神が天の神に滅ぼされるという神話は世界各地で見られる。
――――ヒッタイトにおける、嵐神プルリヤシュと蛇神イルルヤンカシュの対決しかり、
――――ウガリットにおける、慈雨神バアルによる水神ヤム・ナハルの討伐しかり
――――日本におけるスサノオのヤマタノオロチ退治しかり。
――――蛇、龍に模される河川や海への信仰から、
――――その発生源である、天候への信仰へと転換していったことを示しているといわれている。
――――建御名方神も、語源が「水潟」から来ているとされており、
――――そう考えれば、建御雷神と対決し、そして敗北する一節も、
――――水神信仰から天への信仰への転換を表すものの一つ、とも捉えることが出来る。
 
 「おはようございます♪蛇です。」
 
 コンビニの袋を提げて窓を叩いた来訪者に、滝沢・玲魅が何度目とも知れない溜息を吐いた。
 
 「帰れよ。」
 
 硝子越しに声をかけるも、『奴』は耳に手を当て、『聞こえません』とジェスチャーをする。
 窓を開け、もう一度「帰れ!」と叫んだ時には、隙間からするりと『奴』が入り込んでいた。
 
 「……帰れよぉ。」
 「つれないですねえ。」
 
 初対面こそ憎悪と怒りを携えて対峙できたが、正直今となってはうんざり。
 そんな感情が顔中に現れている。
 そんな彼女の様子などどこ吹く風で、丘がビニール袋からお菓子や食べ物を広げ出す。
 蹴り出すなり、叩き出すなりしたいところだが、時刻は夜中の12時。
 大きな音を立てるには聊か覚悟が必要な時間帯であった。
 無論、『奴』はだからこそこの時間を選ぶのであるが。
 
 『奴』、こと丘・敬次郎は初遭遇から一週間後に、彼女の部屋に現れるようになった。
 
 最初のうちこそ追い出し叩き出ししていたものの、
 
――「ストーカーか!」「はい。」
――「餌付けのつもりか!?」「あわよくば。」
――「警察呼ぶぞ!」「どうぞ。」
――「ぶっ殺してやる!」「頑張ってください。」
 
 こんなやり取りを繰り返させられては、疲れもするというものである。
 

 「……とりあえず、おはようございますじゃねえよな。」

 「こんばんは。」
 
 丘はとっくにお菓子を広げ終わり、ビーフジャーキーをパクついている。
 
 「何が目的なんだ。」
 「女遊びです。」
 「絶対違う。少なくともこれは絶対違う。」
 「まあいいじゃないですか!」
 「いい点なんて一つもねえよ!」
 
 丘が自分を訪ねてくる理由は、今もって不明である。
 
 「殴ったお詫び」と言ってはいたが、そんなもの滝沢は求めていないし、
 仮にそうだとして、窓から入ってくる理由にはならない。
 
 はい、と差し出された紙コップのお茶を、苦い顔で受け取る。
 
 「まだ人攫いとかやってんのか。」
 「人攫いなんてやってませんよー、家まで送ってあげてただけ。」
 「嘘付け。」
 「あの時の子だって、ちゃんと返したじゃありませんか。」
 「返して済むんなら、警察も法もいらねっつーの。」
 「ああ、そりゃそうですね♪」
 
 丘との会話は、とにかく一方的に疲れる。
 襟首掴んで怒鳴り散らそうが、ガンを飛ばしてねちねち責め立てようが万事この調子。
 
 多分これが丘なりの処世術なのだろう、と気づいたのは、彼の初の来訪から一ヶ月ほど経ってからだった。
 
 丘と滝沢とは、信条としては完全に敵に当たる。
 丘の望むカタストロフを滝沢は容認していないし、
 滝沢が拠って立つ性根を丘は肯定しない。
 
 それでも会話はできる。
 分かり合えないことを前提にしてはいても、意見交換は可能だ。
 
 「今度の戦争、ポジションどこですか?」
 「ラストスタンド。」
 「僕サーチャーです。後ろヨロシクです。」
 「ああ。お前だけ背中から撃つかもしんないけどな。」
 「よろしい、わたしはあなたを許します。」
 「何気取りだ!」
 
 今度の戦争、とは、銀誓館学園二度目の欧州大遠征のことである。
 メガリスの代償によって生まれたエネルギーを利用し、世界結界を破壊せんとする人狼の勢力と、
 それを叩き潰しエネルギーを横取りせんと狙う吸血鬼の勢力。
 その場に介入し、両勢力に何も起こさせないのが今回の銀誓館の作戦である。
 
 「吸血鬼に押し切られるって分かってるんだったら、
  奴らに任せとけばいいのにねー。」
 「そうもいかねえだろ。
  儀式ごと吸血鬼が持って行ったらおなじことじゃねーか。
  作戦概要読んでんのかこのバカ。」
 「しかし僕らは便利屋じゃないんですよ?
  よしんば便利屋だとして、クライアントはどこだっつー話です。」
 「金じゃねえだろ。
  世界結界が壊されたら、ヨーロッパにゴースト共が溢れかえる。
  それこそ何人死ぬか分からんぞ。」
 「世界結界が壊れたら、人間が元々持っていた能力者の資質もよみがえります。
  必ずしも悪いことばかりじゃない。」
 「だから指くわえて見てろってか?アホ。」
 「……何かね、職業・忍者。の僕としては、利益も正義もない戦争って腑に落ちないんですよ。
  いや、理屈はわかりますよ?
  ことの起こりは無関係って訳でもない。
  ほっといたらえらい事になる。
  介入したいという欲求と、彼らに勝てるだけの力とを両方持ってるのは我々しかいない。」
 「だったらやるだけだろ、ぐだぐだ抜かすな!」
 「決定には従いますよ、ええ。
  銀誓館には恩義もありますし。」
 
 丘が喉を潤すようにコーラを飲み干す。
 
 「しかしなんつーか。
  闘神の渦を誰の手にも利用させない、でも自分達も利用しない、ってのは……。
  他人から見て『本当かよ』ってな主張に見える。
  奴らにしてみれば、
  『俺達がこんなに欲しがっているものを、何でお前らが欲しがらない訳があろうか』
  とか思ってんじゃないかなーとか。」
 「じゃあ聞くがよ、
  闘神の渦を銀誓館が手に入れたとして、どうするのがいいんだ?
  鎌倉から遠く離れたコルシカ島の大渦を、それこそわたしらがどうやって利用するんだよ。」
 「だーかーら。それだと
  『利用価値のねーものを何でお前らがしゃしゃり出て守りに来るの?』ってなるでしょう?
  或いは、『守るからには利用価値があるんだろう』とも思われるかも。
  傍から見たら不気味としか思えませんよ、銀誓館の作戦行動は。」
 「他人からどう見られようが関係ない。
  理不尽に人が殺されるのが我慢ならない。それで十分だろ?」
 「正義に燃える数千人のバケモノ旅団ですか……。
  まるで中国かアメリカのデモみたいだ。」
 「お前、本当に人でなしだなあ。」
 「いや、だって独立独歩の正義の集団って、凄い危なっかしいんですもん。
  10人や20人ならともかく、超能力者数千人ですよ?
  しかも世界結界のせいで、一般人にはまともに見ることも感じることも出来ない。
  そんなのが、金でも単純な欲望でもなく、ただただ信条で力を振るうって、怖くありません?」
 「ん……。」
 
 滝沢が茶を口に含む。
 滝沢も丘も、実は互いに性善説を信奉する者だ。
 ただ、立脚点の決定的な違いにより、互いを敵と認識するに至る。
 滝沢にとっては丘は『狂った正義』の権化であり、
 そういう点から見れば、己の信条だけで突っ走るものの危うさを身近に感じているとも言えた。
 
 「でも、今回はシカト決め込める立場じゃねえだろ。」
 「確かに。
  ただ何というか。何だろうな、はっきりしない作戦目標ではありますよね。」
 「『闘神の渦を使わせるな』だろ?至極簡単じゃねーか。」
 「シンプルですがイージーではない。
  『闘神の渦』の完全制圧が一応一番単純な目標ではありますが、
  どっちの勢力を叩き潰す、ってわけでもない。
  ……あー、そうか。これは、陣取りか。」
 「いつもそうだろ。」
 「そうですねえ。」
 
 銀誓館の戦争は、常に自分から喧嘩を売る制圧戦である。
 一歩一歩駒を進めるように、要所要所を完全に制圧してから次の拠点へと進むという方式を取っている。
 敵の鎮圧はそのための手段に過ぎない。
 だから、過去の戦争では要所を制圧はしつつも敵戦力は取り逃がした、ということが何度も発生している。
 
 「喧嘩好きなんだなあ、銀誓館。」
 「喧嘩できるだけの強さがあるんだから、やるしかないだろ。」
 「アメリカだなあ。本当、銀誓館合衆国陸軍だ♪」
 
 丘は眉を顰めながら笑った。
 
 
 「ありゃ、雨降ってきた。」
 「春先だからな。」
 「泊めてもらえます?」
 「アホかぁ!」
 「仕方なし。春雨じゃ、濡れて参ろう。
  そんではまたー♪」
 「もう来るんじゃねえ!」
 
 窓から飛び出した丘はイグニッションと叫び、白い戦闘服に身を包んで夜の道を走っていった。
 その背中には、金の糸で刺繍された蛟が光っていたが、すぐに闇の中に消えて行ってしまった。
 
 「……あー!もう2時じゃねえか!明日バイトなのに!
  寝るぞ!寝るっ!」
 
 しかし既に眠気のピークを超えていた滝沢は、3時過ぎるまで布団の中で悶々としていた。
 くそう寝られねえ丘め今度シメるくそう眠くないぞ!
 と。
 
 
 以上。」
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