最悪の気分

 「お前にも愛されて生まれた時期があったんだよな。
 
 かわいそうに。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 オリジン
 
 重い音を立てて扉が開く。
 蔵の中は頼りない電球の光で橙色に照らされている。
 圧縮されていた血の匂いがむっと押し寄せ、扉を開いた者を包み込んだ。
 
 蔵の奥にはうずくまる裸の背中。
 その奥は蛍光灯で照らされ、そこから鮮血が溢れている。
 彼の哀れな犠牲者は、投げ出した脚をぴくぴくと痙攣させている。
 
 「思い出しましたか?」
 
 扉を開いた『彼女』がにこやかに問うと、『彼』は振り返った。
 
 「ええ♪」
 
 
~~~~
 
 「いやー実にいい肉でした!!」
 「お気に召したようで何よりです。」
 
 喜び冷めやらぬ丘・敬次郎と、忍者の頭領筧・小鳩が、屋敷への道を並んで歩く。
 血の匂いはもうすっかりと洗い流し、
 先ほど丘の欲を満たしたあの肉体も、今は部下の手によって解体されている頃だ。
 
 「男でも綺麗どころがいましてね。
  不覚にもドキドキさせられたりします。」
 「女に見えれば、それは女ですよ。
  実際の性別などどうでもよい。」
 「そういうものですか?」
 「胸があって女性器があって男性器の無いものが、
  『自分は男だ』と言ったところでそのように見ることはできないでしょう?
  所詮他人など、あなたが感じたとおりのものでしかない。」
 「ははぁ、僕が女だと思えば女だと。」
 「なればこそ、お前自身も売り物になるのですよ、丘。」
 「……。」
 
 男娼をさせられた記憶がよみがえり、丘の顔が一気に曇る。
 
 「おやぁ?どうされました♪」
 「いえ、別に何でもありませんよ。
  ああ、そう言えば、あの時もケツを差し出した後のことでしたねえ。」
 「あの時?」
 
 何でもない日だったはずのその日、丘は筧の手のものに白昼堂々撃ち抜かれた。
 手足や胴が千切れたが、その事実を『シルバーレイン』は許さず、『例外』という警告とともに速やかに彼の体を修復した。
 
 丘が世界に対し激しい憎悪を抱いた瞬間だ。
 この世界は、自分が非合法な活動をしている事実を消す。
 『能力者は品行方正』と定義され、そうで無い者は『初めからいない』。
 どんなに人を殺しても、どれだけ人を刻んで絶頂しても、『そんな事実は無い』。
 己を支える悪を全否定する世界。
 
 許すものか。
 俺が殺した人を。
 俺が果たした任務を。
 俺が愛したこの趣味を。
 全部無かったことにするだって?
 死なない?殺さない?ありえない。
 
 俺は殺す為に生きていて、
 いつか殺される為に殺しているのだから。
 
 憎悪をにじませる横顔に、頭領はしかし満足げに笑った。
 
 当然だ。
 彼が世界を憎悪する瞬間を見て、彼女はこう言ったのだから。
 『やっと、あなたも我等の眷属♪』
 筧の系譜は憎悪の系譜。
 世を疎み世に疎まれる運命は変えられぬ。
 
 「丘。」
 「はい?」
 
 頭領が低く抑えた声で名を呼んだ。
 
 「先ほど、男でも綺麗どころがいる、とかおっしゃいましたね。」
 「は。」
 「それは銀誓館の能力者ですか?」
 「はい。」
 「バラしたいのですか?」
 「……はい♪」
 
 丘が暗い笑顔を宿す。
 
 「おやりなさい。」
 「……しかし。」
 「好きなようにすればいい。
  できるできないなど、単に技量の問題だ。
  あなたが好き勝手すればするほど。
  あなたはわたくしの理想に近づく。」
 「……。」
 
 もう、丘は殺人犯ではなく、一人の忍者の顔になっていた。
 
 「我慢はしても封殺するな。
  欲望のままに生き、暗い感情を肯定するのは我等の伝統だ。
  ……その為ならば、わたくしどもは喜んで手を貸します。」
 「は。」
 「若頭、あなたの手で。
  この世界にはどうしようもない奴がいるということを、
  殺すしかない奴がいる、ということを。
  教えてやってください。」
 「勿論です。」
 
 ああ、そのために生まれたのだ。
 
 丘の五体に、自分以外の何者かの意思を感じる。
 しかしもう迷わない。
 神の望みは俺の望み。俺の望みは神の望み。
 神を否定するとか肯定するとかいらないのだ。
 好きなようにすればいい。それが神の望み。
 神はそれを許してくれる。求めてくれる。
 
 「殺します。」
 「ええ。」
 「嬲ります。」
 「はい。」
 「楽しませて頂きます♪」
 「そうこなくては♪」
 
 蛇の目の貪欲な輝きに、猛禽は晴れやかな笑顔を返した。
 
 以上。」
 
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