お試しサキュバスさんの受難。

 「気持ちよくやってたのに、邪魔するんじゃねえ糟!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 調教の有様
 
 「丘・敬次郎、参上仕りました。」
 
 御簾の向こうの影に向かって、少年が跪く。
 その横には、白く長い髪の少女が同じく跪いていた。
 
 影は、うん、と声を返すと、「サキュバスの方、前へ。」と発した。
 
 白い髪の少女はその声に頷き立ち上がり、御簾の直前で再び跪いた。
 影が「名前は?」と問うと、少女はただ首を振った。
 
 「然様ですか。」
 
 影が今度は少年に首を向けた。
 
 「彼女、実力のほどは?」
 「詠唱防具無しの殴り合いなら、アビリティ込みでも僕が負けますね。」
 「淫魔を飼うには確か、防具の強さを封じる必要があったのでしたね。」
 「実力で劣る以上、僕の方が飼われているような気さえします♪」
 「ふふ♪」
 
 影が再び少女に首を向ける。
 
 「お立ちなさいサキュバスの方。
  軽く、手合わせをいたしましょう。」
 
 
 忍者の里、瑠璃。
 ひっそりと暮らしていた水練忍者達を、筧・小鳩が襲撃したのが十数年前。
 能力者とも来訪者とも違う魔人の力に、里は瞬く間に制圧された。
 名も無き里は瑠璃と改名され、その忍者の力を存分に発揮する『悪の営利団体』となった。
 手練の水練忍者を一人で蹴散らし、反逆する気すら起こさせない圧倒的な実力。
 そして、手に入れた人材は貪欲なまでに有効に使い切る政治的手腕。
 それがお屋形様こと鳩の巨大なカリスマを支えていた。
 
 『お屋形様』は、灰色の髪をツーテールに結った小柄な少女の姿をしている。
 銀のガントレットで覆われた両腕を軽く構え、両足を前後に開き、眼の前を見据える。
 
 対峙するサキュバスもまた、少女の姿。
 ゴーグルのような器具を装着した目はきちんと筧・小鳩を見据えている。
 こちらは拳を構え、爪先でトントンとステップを刻む。スカートから覗く蛇がリズミカルに揺れた。
 
 「どうぞ。」
 
 小鳩が言うと同時、サキュバスの手から衝撃波が放たれた。小鳩の顎が跳ね上がる。
 サキュバスの少女はそのまま衝撃波を連打。
 小鳩の顔面が揺れ、胸元が破けるが、出血は無し。
 それでもサキュバスは怯まない。構わず衝撃波を連打する。
 
 小鳩が動きを見せた。
 衝撃波が銀の篭手に弾かれるようになったのだ。
 やがて小鳩の上半身が緩やかに動き、衝撃波をかわし始めた。
 ならばとサキュバスも動きにくい下半身を狙うが、これも身体ごとかわされる。
 
 そばで見ていた敬次郎は、これを当然のことだと思っていた。
 お屋形様の最も信頼でき、そして最も恐ろしい点は、『喧嘩が強いこと』。
 同じ攻撃を繰り返して学ばないような、甘い相手ではない。
 自分が選んだサキュバスは、それさえわからぬ馬鹿だったのか。
 
 だが筧・小鳩は全く逆のことを考えていた。
 
 防御の姿勢を見せても微塵も躊躇せず、自分の戦法を変えない。
 それは、自分のスタイルを信じているからだ。
 自分を信じるに足るキャリアが彼女にあるからだ。
 
 ならば。
 
 小鳩は両腕で前面をガードするとサキュバスに向かって突き進んだ。
 サキュバスは更に鋭く衝撃波を打ち放つが、小鳩は腕力と脚力に任せて掻い潜り踏み込む。
 零距離の対峙。小鳩が拳を引くモーションを見せた時、丘は、終わったと思った。
 
 だが、銀の拳は空を切る。
 丘は思わず声を上げた。
 サキュバスはいつの間にか小鳩の横に回りこんでいたのだ。そのまま両手を突き出し抱きついて精気を吸い上げる。
 
 「……なるほど♪」
 
 カウンター狙いだったか。
 小鳩の笑みに、サキュバスもにこりと笑顔を返す。そしてステップバック。
 しかし、逃げる身体を小鳩の肘が捉えた。
 サキュバスの体が十数メートルを転がる。
 彼女が顔を上げた頃には、既に小鳩は彼女に拳を向けていた。
 
 サキュバスの体が、強張り動かない。
 
 サキュバスは、元々はリリスと呼ばれる、快楽を糧にして生きる種族だった。
 リリスには能力者や来訪者を感知する能力がある。
 近くにいるかいないかが分かる程度の大雑把なレーダーではあるが、銀誓館の討伐組を困らせるには十分。
 
 今このサキュバスも、敬次郎、そして里に潜む多量の能力者の気配をおぼろげに感じている。
 
 だが、目の前にある気配は、その眼で見据えていながら正体がつかめずに居た。
 感じている全ての気配よりずっと巨大で、禍々しく、深い闇。
 花畑の香りの中に死体の腐臭が混ざったような激しい違和感と嫌悪感。
 あまりの威圧に、サキュバスはこみ上げる胃液を飲み込んだ。
 
 その肩をそっと、敬次郎が支える。
 
 『あなた、この世界 何年』
 
 サキュバスが流暢な手話で問うと、小鳩もまた手話で返した。
 
 『二十年くらいでしょうか。あなたは?』
 『四十年から先は数えていない。』
 『ああ、やはり。戦い方に迷いが無いはずだ。経験を感じました。』
 
 『あなた  何?』
 『それは秘密です』
 
 丘には二人の会話が全く読み取れなかったが、ともかく、闘いは小鳩の満足する結果で終了したようだ。
 
 
 再び謁見の間。
 「丘、その方を大切にしなさいよ。」
 「は。」
 「なかなかいい筋をしている。
  鍛えれば、もっと伸びますよ。」
 
 サキュバスの少女は『痛いの嫌い』と手話で訴えたが、御簾の向こうの小鳩は知らぬ振り。
 
 「丘、名前をつけて差し上げなさい。」
 「名前ですか。」
 悩む丘の手に、サキュバスが「あ」「け」「み」と書いた。
 
 「あけみ。」
 『最後に食べた人間の名前。』
 
 ノートパソコンに打たれた文字を見て、丘は大きく笑った。
 
 「分かりました。『明美』、よろしくお願いします。」
 『丘・敬次郎。よろしく。』
 「仲睦まじいやり取りですな♪」
 「では、我『等』はこれにて。」
 「うむ。」
 
 音も立てず、二人は消えた。
 
 「また、新たな不確定要素ですか。
  芝居はアドリブがあるから、面白い。」
 
 がしゃり。
 御簾の奥で、白磁の人形が倒れた。
 
 以上。」
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