汝の名を徒労と呼ぶ

 「さあ死ね、今死ね、すぐ死ねぇええええ!!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 我、強し
 
――――若いうちの苦労は買ってでもしろ、
――――何もかも上手く行く人生は退屈、
――――これは嘘ですね。
――――誰だって苦労なんか無い方が良いに決まっているし、それでも多少の苦労は避けられないもの。
――――そんな当たり前のことから目を離し、望んで身を投げろという。
――――教訓でもなんでもない、悪しき体育会系的思考ですよ。憎むべきだ。
 
筧・次郎
 
 
 丘・敬次郎の育った里、瑠璃。
 忍者達が半径50mほどの輪になって囲むのは、二人の魔人の戦いであった。
 
 『師匠』、または『先生』、里の武術師範、筧・次郎。
 『お屋形様』、或いは『鬼嫁』、里長、筧・小鳩。
 
 二人の拳から蹴りから、間断なく爆音が響いている。
 
 「若頭。」
 「ん?」
 
 一人の忍者が、ギャラリーに混じっていた丘に声をかけた。
 
 「見えてますか?」
 「一応は。」
 「……流石ですね。」
 
 魔人達の戦いを見ているのはいずれも水練忍者として覚醒したものばかり。
 一般人では、いかなる凶器を使っても到底勝てないような手練の者。
 それでも魔人二人の動きを眼で捉えることは出来なかった。
 
 瑠璃の数多の忍者と違い、銀誓館学園に所属し能力者同士の戦いの最前線に立っている丘は、抜きん出た実力を持っている。
 なればこそ彼らの戦いを『見る』ことも出来るのだろう。
 
 そう納得し、先ほどの水練忍者が呆れたような声を発したのだろう。
 師匠、お屋形様、そして『若頭』はやはり、雲の上のバケモノなのだな、と。
 
 『若頭』はその認識を軽く否定した。
 
 「お屋形様の方はね。」
 「……は?」
 
 丘が乾いた笑みを見せる。
 続く、「半分ぐらいは」という言葉は飲み込んで。
 
 「周りの人にも伝えておいてください。
  お屋形様だけ見るように、と。」
 
 戦況は、一貫して次郎が押していた。
 直線的に攻める次郎に、小鳩が丸い動きで攻撃を捌いている。
 
 小鳩は元来、己の有り余る膂力をぶつけるような戦い方をする。
 肉食獣の如き攻撃に、対峙したものは一撃と耐えられず肉塊と化す。
 反対に、次郎は師範と言う立場上からも『受ける』場面をよく見せていた。
 掌を使って力を逸らし、菩薩のように笑みながら『弟子』達の攻撃を受け止めていた。
 
 今見ている構図は、まるでその逆。
 
 ならば優勢なのは相手の攻撃を見下ろして戦っている小鳩かと思われたが、丘は違う結論を出していた。
 
 小鳩の武術も元は、師範たる次郎から伝承されたものだ。
 ならば、里が興る前、果たして次郎は受ける技術と攻める技術のどちらを重点的に教えたか?
 
 当然、攻める技術のはずだ。
 何故ならば、彼らの出身は刺客。
 抵抗の隙すら与えず殺してしまうのが本領。防御をさせられたらその時点でプランが崩れている。そういう存在。
 つまり、今驟雨の如く打撃を打ち込む姿こそが次郎の本来のスタイルであり、
 小鳩はそれとまともに打ち合うことが出来ないので受けざるを得ない状況に『追い込まれている』。
 
 小鳩が部下の前で受けの姿勢を見せること自体、異常事態であった。
 技量ではなく埒外の膂力によって従わせる小鳩にとって、防御など無用であったから。
 
 小鳩が押されていると判断する理由はもう一つあった。
 爆音、埃と共に、鮮血が散っているのだ。
 無論攻め立てる次郎のものではない。受けに回る小鳩のものだ。
 
 『お屋形様』の実力を持ってしても、防御の隙間から細かい攻撃を受けている。或いは防御の上から潰されている。
 筧・小鳩を攻め押して血を流させるなど、とても丘が出来る芸当ではない。
 
 だからこそ丘は部下に、小鳩以外は見なくていいと命じたのだ。
 小鳩を追い詰めるほどの次郎の手練手管は、瑠璃の忍者では到底真似出来ない。
 
 攻防を続けるにつれ、筧・小鳩の流血量が徐々に増していく。
 そして遂に、彼女はがっくりと膝を折った。
 
 周りの忍者が拍手し始める中、丘だけは表情の無い目で勝ち名乗りを上げる次郎を見つめていた。
 これに、勝てなければならないのだ、と。
 
 次郎はその目線に、ただ笑みを深めるだけであった。
 
 以上。」
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