世界 を 救え

 「きれいごとがダイスキだ。だからお前は消えろ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 その 男
 
 「全ての始まり」と、丘・敬次郎は評した。
 「随分と詩的な言葉ですわね?」
 「事実です。彼がいなければ僕はいなかったし、
  おそらくはあなたもここにいなかった。」
 
 質問した金髪の女性はム、と顔をしかめたが、黒髪の女性がそれは何故と先を促した。
 
 「……信じようと信じまいと、の世界ですが。
  彼は神の作った理想像です。
  そういうものがいて欲しいと願って作られたもの。
  ……これ以上はやめましょう。もう少し現実的なお話を。」
 
 同席する人間の顔色をみて、丘は肩を竦めた。
 此処から先は宗教の世界だ。証拠も何も無い。
 この世界における、彼が為した事実のみを伝えることに切り替える。
 
 「殺すと言うことにおいては、およそバケモノと言っていいレベル。」
 「それは、わたくしたち自身をバケモノと呼ぶあなたが、と言うことでいいのかしら?」
 「……その僕ですらも、存在することが信じられない、という感じですね。」
 
 金髪の女性が質問し、答えに歯を軋らせた。
 丘は能力者そのものがあってはならぬバケモノと幾度と無く公言しているが、
 『奴』はそれ以上だと言う。
 
 「戦闘能力なら軍人の方が高いかもしれない。
  破壊力なら銀誓館の軍団には勝てないでしょう。
  でも特定の標的を殺す、となると、僕はあの方以上を見たことがない。」
 
 丘が彼らしくない険しい顔で言葉を紡ぐ。
 
 「例えば……。
  ある仕事では、一ヶ月ぐらいふらふらしてたんですよ。
  期限もギリギリという頃になって、『じゃあ行って来ます』と出て行った。
  で、一時間もせずに帰ってきた。
  何も言わずに荷物を集めて、不動産屋に電話かけてました。
  どうしたんですかと聞くと、仕事終えたのでヤサを変えるって。
 
  ずーっと身辺調査してたそうです。
  一番隙の出来るタイミング、適した場所、武器。事故に見せる場合もあるんで武器というのは広い意味があります。
  んで、最短時間でしとめてクライアントに報告をして金もらって帰って来たと。」
 「殺し屋……。」
 
 ぽつりと出た言葉に丘が頷く。
 
 「効率的に仕事を行う、効率的であることを最優先する、正真のプロの殺し屋です。
  断言してもいい、銀誓館では絶対にアイツを倒せない。
  戦争なんて起こそうもんなら間違いなく異変を察知して逃げますし、
  運よく少人数で囲めてもまあ無理です。」
 
 金髪の女がまた険しい表情をするのを見て、丘はパソコンを操作した。
 動画を再生。
 それは、『彼』とそのパートナーである『お屋形様』がゴーストタウンで戦っている動画だった。
 
 「お屋形様がネットに流したものなんで、もしかしたら知っている人もいるかもですが。」
 
 それは、彼らのゴーストタウンにおける戦闘記録、などというものではなかった。
 手が掠めれば地縛霊が真っ二つになり、拳が当たればリリスが肉片に変わる。
 能力者の戦闘において急所を狙うことは命中率の低さから禁じ手とされているが、そんなことは何処吹く風。
 まるで豆腐か乾いた枯れ枝のように、ゴースト達が急所から砕け散る。
 
 誰もが見入った。
 レベルの違いなんて言葉では言い尽くせない。
 羆と小動物の戦いを見るような、存在の差を見せ付けられていた。
 余りにもあっさりと敵がバラバラになるから、却って想像がつかない。
 
 「断言します。ここにいるメンツが、僕含め全力で彼を倒すプランを立てても、
  奴と目を合わせる事すらできない。
  僕は『お屋形様』と手合わせしたことがありますが、切り傷一つすら入れられなかった。
  その『お屋形様』と『奴』が公開試合をした時、『奴』は力で圧倒して押し切った。」
 
 一同が黙る。
 
 「銀誓館の戦争においては、大体、想像よりも良い結果で終わることが多い。
  それは状況判断が適切であるからだと思いますし、銀誓館の戦力が強大だからでもある。
  それは僕も認めます。
  でも彼の介入だけは絶対に許してはいけない。何をされるか、彼と一番身近に居る僕ですら想像がつかない。
  『お屋形様』が彼と離れている間だけがチャンスです。」
 「一つ、質問を。」
 「どうぞ。」
 
 黒髪が手を上げ、丘が応じる。
 
 「何故丘君は、自分の上司である筧・小鳩の討伐に賛成するんですか?
  失礼な話、わたしは裏切るとも思ってるんですが。」
 「僕がエゴを捨てきれないからです。」
 
 丘が自嘲する。
 
 「そして、多分、『お屋形様』も。
  でなければ、蓄えた力を大放出して宣戦布告なんかしない。
  あの方は、『倒されたい』んですよ。自分が悪である証明の為に。
  銀誓館がハッピーエンドを齎すために。
  だから、倒して差し上げるのが僕の任務。
  ……これもまた、信じようと信じまいと、ですが。」
 
 丘は水を少し飲んでから続けた。
 
 「だから、今やるべきだ。
  学園がやる気である今の内に。
  『奴』が居ない今の内に。
  『奴』が参戦すれば、その分こちらの戦力を削らなければならなくなる。
  それは勝機を薄める行為ですし、それに……。」
 
 潤したばかりの喉に、丘はもう一度水分をしみこませてから、はっきりと言った。
 
 「『奴』に巻き込まれた能力者は、全員ただでは済まない。」
 
 生命賛歌の力を以ってしても。
 いや、生命賛歌が銀誓館の戦争におけるエネルギー源であると知っているからこそ、戦闘不能程度では済ませない。
 傷つき倒れた生徒達に、躊躇い無くトドメを刺しに来る。
 結果、奴に割いた分だけ戦力を損失することになる。
 
 そう丘は語った。
 
 「買いかぶり過ぎでは?」
 「そう思うなら今から電話して呼んで差し上げますよ?
  実際に戦ってみるといい。とっても楽に死なせてくれるはずです。」
 
 丘の表情は、挑発ではなく、悲しみの篭もった本気の目。
 発言した能力者も溜息を吐きながら俯いた。
 
 「『奴』には構わないのが一番。
  構われるのが最悪。
  それが僕の結論です。」
 「しかし、いつかは倒さなければならない。」
 「ええ、いつかは必ず。
  『奴』は人間社会に生かしておいてはいけない男だ。
  でも、『お屋形様』の片手間で殺されてくれるほど甘い男でもない。
  先ほども言ったとおり、構えば構うほど被害者が出る。毒を持つ蛇蝎が群れたような男だ。
  お互いにそっぽを向き合っている今以外に、『お屋形様』に手を出すチャンスは無い。」
 「後れなど取りませんわ!蛇蝎如きに!」
 
 その声に背を向け、丘は部屋を出た。
 
 「だから、『蛇蝎の群れたような』、と言ったでしょう?
  致死の毒を受けずに戦うは至難、完全に始末するはそれ以上。
  これはハッタリなどではなく、客観的な評価です。
 
  ……仮に『筧・小鳩』が二体参戦したとしたら。
  しかもその内の一体は劣勢において躊躇無く逃げるとしたら。
  本当に両方とも潰せますか?」
 
 ドアの閉まる音が響いた。
 
 冷徹な音は、合理的な判断を願うという丘の意思表示でもあり、そして。
 丘自身は、それには乗らない、という決別の音でもあった。
 
 以上。」
 
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