借り物の爆弾

 「バカ!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 爆裂の栄光
 
――――幾千の時を越え 私は生まれたて――――
 
――――花よ咲け 咲き誇れ 今は戦いの道しるべ――――
 
――――胸の鼓動 聞こえたでしょう さあ迷わずに旅立つの
――――Glory days Glory days 生き残る旅に
――――愛の詩 奏でましょう 今は戦いの獣道
――――夜明け前 震えだせ 輝ける未来に
―――― 辿り着けるように

――――  命果てるまで
――――アルバム・流麗祭彩収録、『Natsumi Bomb』より
 
 丘・敬次郎はイグニッションを解くと、部屋の外に控えていた黒服達にニコリと笑ってうなづいた。
 
 「お勤めご苦労様です。」
 「汚れ仕事ばかりお願いして、申し訳ありませんね。」
 「仕事ですから。」
 
 黒服達は軽く会釈すると、室内に駆け込んで行った。
 
 部屋に残っているのは、ほんのさっきまで能力者だった『物』。
 忍者の里『瑠璃』は組織としては小規模であり、能力者のレベルも高くない。
 それでも普通の人間の営む『組』などに後れは取らないが、最近は能力者を擁する組織との抗争が多くなってきた。
 お屋形様曰く、『里のレベルを上げる為』とのことではあるが、能力者組織との戦いは高いリスクを含む。
 人間の兵器が無効、急所への一撃を無意識で回避などと言った防御特性、
 最大有効攻撃範囲が約20mという攻撃特性。
 これらは能力者やゴーストが共通して備える特徴であり、そのため、暗殺は非常に困難となる。
 必然的に正面からのぶつかり合いとなり、
 そしてそれは忍者にとっては本来あってはならない戦闘だ。
 
 唯一、銀誓館という大きなコミュニティに属する丘だけが、その抜群の力を使って「戦忍」として機能できる。
 
 ……お屋形様は、何を急いでいるのだろう?
 あの方自身の力は、バケモノだ。
 これは僕しか知らないことだが、あれは能力者でも来訪者でもない。
 別の世界から来た『お人形』だ。それも、飛び切りのデスマシーン。
 里最強の僕でさえ、百回斬り付けて一度も斬れず、
 気がつけば一発殴られて終わっている。
 他の能力者が何かの間違いで里に攻め込んだときには、処理の必要すらないほど簡単に粉々にする。
 
 里の地力を上げたいのは分かる。
 しかし、僕と言うワントップに頼らなければならないような戦いを強行するのは何故だ?
 そして何故自分は参戦しない?
 
 ネクタイを緩めながら、丘は考えていた。
 
 その先に何がある。
 僕がワントップとして他の組織を制圧していく、その過程の先に。
 
 考えた末、丘は携帯電話を取り出した。
 「もしもし、お屋形様でございますか。」
 「何です、不測の事態でも起こりましたが。」
 「いえ、お屋形様の手を煩わせることはなく終わりました。
  一つ、聞きたいことが。」
 「何でしょう?」
 「……。」
 「何ですか。」
 
 しばし黙考。
 疑問を最も分かりやすい文章として組み上げるのには少々時間が必要だった。
 
 「何故僕に負担がかかるような抗争ばかり行うのですか。」
 
 考えた末の言葉は、それ。
 
 「わたくしの与える任務に不満があるならば、その時点で意見を言うべきですね。」
 「任務単体のことを申しているのではありません。
  『僕が前線に出なければ敗北するような』抗争を何故強行し続けるのかと聞いて居ます。」
 「あなたが前線に出れば勝てるからですよ。」
 「それは、僕が出る前提で作戦を立てていると考えていいのですよね?」
 「ふふふ。」
 
 余裕を感じる笑い声。丘の声が少し苛つく。
 
 「僕に負担が廻る事を嫌だと言っているのではありません。
  下忍がまるで役に立たないような戦闘を強要する理由を聞いている。
  下忍が育たない、僕に対する妬みとかそういう悪感情ばかり募る。
  お考えがあってのことでしょう?お屋形様。」
 「生意気な口を聞くのは優秀な証拠ではありますが、多少は控えた方がよろしいな?
  いかにも。
  あなたの考えどおり、下忍では通じない抗争を企てているのは故意にであります。
  理由は、あなたに悪感情を集中させる為。」
 
 実は丘も、察してはいた。
 『瑠璃』を背負うものとしての経験を積ませる為ではないか。
 それ以上の合理的な説明はつかなかった。
 
 「憎まれる経験を積めと。」
 「あなたはわたくし共の分身だ。特別なのです。
  孤高に耐えられねば、話にならない。」
 「……。」
 「『わたくしと同じように』。
  ただ一人で圧倒的な支配力で里を統べる必要があるのです。
  ……嫌なら死ね。」
 「……謹んで承りました、お屋形様。」
 
 電話は丘から切った。せめてもの抵抗。
 そうか。
 僕は夜の帝王にならなければならないんだな。
 軍団を統率する長であり、
 長として申し分ない器であり、
 何よりも軍団最強であること。
 
 詰まるところ、『丘・敬次郎』以外はこの世界に必要ではないのだ。
 彼がただ一人でこの世界にハッピーエンドを齎しさえすれば、それが最高。それ以外は最低。
 
 ならば、孤高の魔の皇になるより他にない。
 それが己の生まれた理由。
 
 それが、丘・敬次郎の原動力。
 
 栄光を求めることを捨てた時、彼の身には邪悪が炸裂し、未来には幾つもの死骸が築かれた。
 手放したものは壊れる。
 時には己が身を裂くほど爆裂することもある。
 
 永劫に栄光を求め続けると言う、栄光無き道。
 それを選んだ瞬間に開かれた光なき道。
 導くのは光芒ではなく暗闇。暗い方へ暗い方へ歩いていけ。それがお似合いであり、運命であり、選んだ道なのだ。
 
 手に入らないものを求めろ。
 妬み、憎み、恨み続けろ。
 邪悪の沼に頭の先まで浸かれ。
 窒息しながら足を進めろ。
 抜け出しようがない汚濁のループを潜り続け、光を闇に貶め続けろ。
 
 
 
 
 命果てるまで。
 
 以上。」
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