赤い それ

 「憎しみをぶつけられる、良心の呵責無く怒ることのできるお前の愚かな存在に感謝を示す。 死ね。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 明確な敵
 
 寝物語に。
 
 「強いって、何ですか?」
 「は?」
 
 廃ホテルのベッドに横たわるセドレツィーナ・クルムロフに、丘・敬次郎は背を向けたまま言葉をかけた。
 ベッドには血が大量にぶちまけられ、鮮やかに染まっている。
 セドレツィーナが丘に陵辱された残滓。
 無痛症の女と、解剖性愛者の男が睦みあった跡。
 
 「やはり、答えを持ってはいませんよね。」
 「強い、ですか……。」
 
 ふむ、とセドが言葉を探したが、丘はそれを待たずに次の段階へと言葉を紡いだ。
 
 「強い、という概念は人によって異なるものです。
  心の強さだったり、
  あー、心の強さって言葉ではあれだ、足りませんね。
  傷つかなさ、あるいは健気さ。
  あるいは肉体の頑強さ、喧嘩の強さ。技術であったり単純な腕力であったり、色々。」
 「なるほど。」
 「僕の師匠を知っていますか?」
 「ああ……確か、筧・次郎という。」
 「ええ、水練忍者です。」
 「丘様のお屋形様のブログにて、お名前だけは。」
 
 忍者の首領がブログを書くというのは、聊か滑稽に見えましたけれど。
 セドは口元を押さえて上品に笑った。
 
 「ブログを書いているのは、正しくはお屋形様そのものではないんですが……まあ、信じようと信じまいとの世界です。ややこしい事は言いますまい。」
 
 静かな部屋にペットボトルの蓋を捻る音が響く。
 がぶがぶとボトルの中の液体を飲み干すと、丘が再び口を開いた。
 
 「僕のお師匠様は、強い、という言葉の定義を明確に持っている。」
 「その心は。」
 「他を下す、という事です。」
 
 絶妙のタイミングで相槌を入れたセドを、何故か丘は憎憎しげに見下ろす。
 
 「他を屈服させられる、それが強いという事。
  そして強さとは、誰を屈服させられるかという事。手段は問わない。
  油断を突く、隙を突く、力でねじ伏せる。
  どうでもかまわない、自分が相手より優位に立ったと確信できること。
  もっと単純に言えば、『殺せてしまう事』。
  それが、お師匠様、筧・次郎の定義する『強さ』です。」
 「強い……なるほど、相手を殺してしまえるのなら、確かにそれは問答の仕様の無い……
  問答が意味を為さない定義ではありますわね。」
 「あの方が恐ろしいのは、その軸がぶれない事です。
  徹頭徹尾、殺戮可能か不可能かだけを価値基準に置き続けている。
  僕みたいに、ヒーローになりたいだとか好きだとか嫌いだとかそういう感情に惑わされたりしない。
  どんな態度にも、主軸には必ず、『殺戮可能であるかどうか』というの判断がある。
  ……僕みたいに、やりたい事が幾つもあったり、そのせいであり方を変えたりなんかしない。」
 「わたくしから見れば、丘様も十分魅力的ですわよ?」
 「それでは足りないんですよお嬢さん。」
 
 悲しげな視線。
 道化のように振舞う丘が、いとも簡単に己の弱みを見せている。
 セドの心には、母性と共に幽かな苛立ちも疼いた。
 
 「僕は、あの方のコピーなんです。
  ――――これも信じようと信じまいとの世界ですが。
  筧次郎のように殺戮を望み、筧次郎のように殺戮を愛し、『しかしティーンであること』。
  僕は、打算と、そして妥協の産物に過ぎない。」
 「異な事を。
  あなたはあなたですわ。
  筧次郎がどうあれ、お屋形様が何であれ。
  丘様は丘様。違って?」
 
 セドを見下ろす目線が冷たくなった。
 
 「違いますね、明確に違います。
  僕は僕だが、僕一人のものじゃない。
  お屋形様に拾われなかったら、僕はただの変態少年殺人犯だった。
  けれど、出会ってしまったんです。
  僕は筧・次郎の生まれ変わりであり、筧・小鳩の人形だった。……。
  朱雀と青龍。」
 「はい?」
 「朱雀と青龍、です。
  朱雀は湖や池、沼を相応の地とし、青龍は流れる水を相応の地とする、と言われています。
  ならば、湖沼や河川を得意とする水練忍者は、青い鳥?」
 「もしくは、赤い龍?」
 「赤い龍。」
 「赤い龍……。」
 
 それは、黙示録のサタン。
 
 「まさか……いや、まさか、そんな。」
 「いえその通り。
  この世界に君臨する、唯一無二の強大な悪。
  その力を受け継ぎ、願いを叶える。そのために生まれたのだと知ってしまった。
  『僕は僕じゃない』。」
 「けど、わたくしは、『あなたに』興味を持ったのですわ。」
 「そんなのはただの副産物に過ぎない。
 「それでもかまわない。
  だって、それこそが『わたくし』なのですもの。」
 
 セドが起き上がり、細く生気の無い手を丘の両肩にかけた。
 そして、耳を噛み千切る。
 
 「痛いなあ♪」
 「また生えてきますわ♪バケモノなんでしょう?」
 
 妖艶な笑みを見せ、彼女は丘の耳を呑み込んだ。
 悪意と愛欲の満ちた姿に、丘は何故か心地よさすら覚えていた。
 
 
 以上。」
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