綺麗

 「生きている悪。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。 
 
 無題
 
――――いや、僕は割り切って仕事してますよ?
――――嫌々やってる訳でもない。自慢じゃありませんが技術もあります。 

――――でもね……。 

――――クライアントは、『人間』なんですよ。 

――――バケモノじゃない、特別な力も持ってない、ふつーの人間です。 

――――その人間がね……。ああ、内容は明かせませんけど、 

――――攫えとか脅せとか取って来いとか始末しろとか言うんですよ。 

――――僕らはいい。僕らにゃそれぐらいしか能がありませんし、罪悪感もありゃしません。 

――――けどね、こういうことを命令する人間が実在するってのが……。
 
――――人間には綺麗でいて欲しいんですよ。 
――――僕らみたいに暴力で何でも解決するようなヤクザなんぞいて欲しくない。 

――――でも、僕らはそいつらの暴力を肯定して請け負って生きてる。 

――――時々、本当にたまらない気分になる……。
 
 

――――丘・敬次郎、ある日のブログの記事より
 
 
 「まだ、人間をやってる気分でいるんですか。」
 「そんなつもりは。
  ……無いし……そんな気持ちを持ってはいけない、ともわかっています。
  が、根っこのところには残っているのかもしれません。」
 
 銀誓館学園のプールの、底の底。
 人知れず能力者同士の研鑽が行われている秘密の地下闘技場で、筧・次郎と丘・敬次郎が対峙していた。
 筧が、丘のブログについて総評を述べていたところ。
 
 「それでいい。」
 「はい?」
 「それでいいと言ったんです。
  真に悪党になるためには、人間的な感情を体感していなければならない。
  鳩にも言ったことです。」
 「……。」
 「つまりあなたは、その歳、その経験でありながら、あの時の鳩と同じ境地に至っている訳です。
  誇ってもいい。」
 「……恐縮です。」
 
 丘はそっと頭を垂れた。
 
 「さて、もう一戦交えますか?時間はたっぷりあるようですし。」
 
 この場所は、毎週月曜に開かれ、木曜に閉じる。
 一般生徒が一切出入りできないよう、厳重にカモフラージュされた上で、
 昼休みという限定された時間の中、数千の能力者が鎬を削る場所である。
 今は土曜の夜。誰も居るはずのない時間。誰も居てはならない場所。
 筧・次郎は其処へ、平然と侵入してのけた。
 丘は彼に導かれるまま闘技場に至ったというわけだ。
 
 密談をするなら、「あるはずの無い場所」が一番だと言われて。
 
 「……はい。」
 「なにやら思うところがありそうな言い様。」
 「はい。僕はどこまで鍛えれば辿り着けるのか。不安です。」
 「そう感じるのは無理もありません。
  僕ですら、『大御神』には干渉できない。鳩も同じく。
  そしてその僕や鳩にすら、あなたは傷をつけることもできない。
  前者は絶対の理屈。後者は絶大な力の差。
  両方を埋める事を、あなたに期待している訳ではありません。」
 「……。」
 「寧ろ僕らは、あなたに殺される事さえも不本意だ。
  ゴミである僕らは、ゴミのようにあっさりと死ぬのがお似合い。
  弟子孝行なんぞで幸せに死んだら、今まで殺した人間達に申し訳が立ちません。」
 「は……。」
 
 わかっている、わかっているさ。
 
 「無論、弟子孝行をしていただけるならば、それはそれでうれしい事ではありますけどね♪
  あるべき様と、望む様とは、全然違うものだ。」
 
 ……。
 
 「どうしました?」
 「いえ。」
 
 俺にも、望む様がある。
 俺を作り出したこいつら神々を大見得切ってぶち殺し、かっこよく死ぬ。そして残された奴らが世界を平和にする。
 
 でも、あるべき様はもっと卑劣でえげつないもの。
 最後の最後まで人間を騙し、食らい、誰も信じず信じられず、全ての能力者を等しく見下したまま死ぬ。
 
 「で、続きをしますか?」
 
 筧の言葉に、丘はナイフを構えて応えた。
 
 「無論。もっと僕を、高みへ。」
 「了解しました♪」
 
 筧がベルトのバックルを回す。
 彼の体が3秒間輝き、衣服が替わる。
 白く長いスーツ、白いスラックス、胸元を開いたシャツ。

 左手は指先までを覆う、厚くは無いが頑強な手袋で覆われており、右手は同質の材料でありながらも指先は露出している。

 分厚いスーツは一見しただけでも多少の防刃処理が為されているのが見え、広くゆるい袖口は見た目以上の重量感を孕んで揺れる。

 恐らくはあまたの暗器を仕込んでいるであろうその袖から、筧は詠唱動力炉を一つ取り出した。
 よく見るとそれには銀色の指輪が二つ、バンドが一つ付属している。
 バンドで動力炉を右手の手首に固定すると、指輪を両の手の中指にはめ込んだ。
 
 「あなたと同じスタイルです、丘♪」
 
 次郎は、左手の指で鋼糸を引き出すと、大気の揺らぎに乗せるように糸を振り出した。
 
 右手首に鋼糸を固定、右手は精密作業の邪魔にならない指貫の手袋、左手は鋼糸を摘み操作できるよう指先まで覆った手袋。
 
 筧・次郎の鋼糸は、ここまでそろえて一セットだ。
 詠唱兵器『天下無双の讃岐饂飩』。

 丘の虎の子の鋼糸もまた、手袋まで含め同一の形状をしている。

 

 だが、対して丘が取り出したのはナイフだった。
 柄から刃までが一つながりの鋼鉄でできたナイフである。
 
 詠唱兵器『ばっくりディセクターR~Rack Control the Mind Twister~』
 破壊力では及ばないが、何よりも手になじんだ武器であった。
 そう、それは、解体性愛者(アナトミフィリア)として。
 
 「いいでしょう。あなたの背徳が神を殺す刃となるか、確かめて差し上げる。」
 「こちらも、神を名乗る悪魔がどれほど卑しいものか、貶めてやる!」
 
 ……。
 
 闘技場には四肢を切断された丘の体が転がっていた。
 見下ろすのは無傷の筧・次郎。つまりは。ああ、つまりはそういうことだったのだ。
 
 「ご心配なく♪
  僕ら架空の産物はあなたに何をすることもできない♪」
 
“IllegalAccessException:なんらかの毒薬や特殊なアイテム・詠唱兵器でない飛び道具などの効果は、戦闘判定に大きな影響を与える事はありません。”
“NoSuchMethodError : 詠唱銀によって発生するゴーストと戦い、怪異を取り除き、世界の常識を守る事こそ、現代の能力者達の使命なのです。 ”
 
 赤い文字が丘の傷口に注ぎ込み、彼の傷を治していく。
 
 「そう、『大御神』の管理外では、死亡や重症、失踪すらも許されない♪
  だから、あなたは我々に勝てますよ♪
  最も新しい、われらの後継者(チャンピオン)よ。」
 
 流血で薄れる意識の中、白い背中が空しげに遠ざかるのが見えた。
 
 ああ、あれはフィクションの産物、どこにでもいて、どこにもいないのだな、あれらを殺そうとするピジョンも大変だ、と少し笑った。
 
 肉体が治っても、丘はしばらくその場に寝転がっていた。
 やるさやるとも。
 
 でも、アノかたがたとの邂逅は一々情報量が多すぎて……。
 眠い。
 
 以上。」
  
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