血飛沫も爽やかに

 「ボケ!
 
 ……こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 コロンビーナのお人形達
 
 田舎の喫茶店。
 長い髪をツーテールに結った少年と、背の高い中年が向かい合ってコーヒーを飲んでいる。
 
 「知っているかもしれませんけど。
  あの狐の少女、何かあったみたいですよ。」
 
 中年……筧・次郎が、カップを置きながらそう切り出した。
 
 「文曲ですか?」
 「そう。」
 「インタビューのテープを持ってうろうろしてた話なら。」
 「タバコあります?」
 
 少年……丘・敬次郎は、少し沈黙した後、胸ポケットから皺だらけのショートピースの箱を取り出した。
 
 「どうぞ。」
 
 受け取った筧はテーブルでタバコの端をとんとんと叩き、葉を固める。
 差し出されたタバコに丘がジッポで火を点けた。
 
 次郎は口にくわえると、長く細い煙を吹いた。
 
 「すいませんね。」
 「いえ。」
 「……これが鳩の味わった、昭和の匂いって奴ですか……。」
 
 殆ど残ったままのタバコを、次郎は灰皿に押し付け消した。
 その様を丘はただじっと見ている。
 
 「あの子と同じだ。」
 「はい?」
 「この狐は、鳩と同じだと言ったのです。」
 
 次郎は口の中の匂いを消し去るようにコーヒーを飲み干し、更にパフェを注文した。
 
 「彼女も、忠誠に逸って己の変化に戸惑った時期があった。」
 
 まだ喉に煙が絡んでいるのか、何度か咳払いしてから次郎が話を続ける。
 
 「あの子は元々感情の起伏が少ない子でしたし。
  それに、魔族としての性根がありましてね。僕に忠誠を誓う以上の価値を、他の物に見出さなかった。
  だからこそ、戸惑ったのでしょうね。楽しい事はいろいろある、という事実に。」
 「そのとき、お師匠様は何と。」
 「それでいい、と。
  その楽しさを肯定し、その上で踏みにじるのが、僕らの仕事です。
  相手が何を思っているか想像もしないのでは、脅し宥めすかす事もできません。
  普通の人間の普通の楽しみを知って、その上で。それを裏切れなければ。
  ただの忠実な人形のままでは。半人前です。」
 
 パフェが待ち遠しいのか、次郎が指でトントンとテーブルを叩く。
 『ただの忠実な人形のままでは、半人前』
 そのセリフが、妙に丘の胸に残った。
 
 「ご用件は以上で?」
 「おや、お急ぎなのですか?」
 「ええ、少し。」
 
 丘が席を立つ。
 
 「貴重なタバコを吸われないうちに、退散したく。」
 「これはこれは失礼を♪
  ではここは僕のおごりで。
  ああ、一つだけ。」
 「何です?」
 「さっき僕は、人形のままでは半人前と申し上げましたが、
  あなたは既に、その段階を踏み越えている。
  存分に、忠節以外の快楽を味わったでしょう?」
 「僕はお屋形様とは違います。」
 
 丘は背を向ける。
 
 「忠実である事を誇りこそすれ、楽しいと思った事はありません。
  そうでしょう?人形は、操られていることに満足も不満も無い。」
 「あははははは!一本取られましたね♪
  あなたは中々生意気でいいですよ。女の人間なら、食べてたかも?」
 「オスのバケモノですが、お師匠様のご命令なら、今すぐにでもお相手申し上げますが?」
 「ふふふふふふ……。」
 「では、お先に失礼いたします。」
 
 革靴がリノリウムを踏み、小気味よい音を立てた。
 やがて、規則正しい旋律は店外へと出て行った。
 
 「お待たせいたしました。」
 「ありがとうございます♪」
 
 次郎はにんまりと笑いながら、大きなパフェにスプーンを差し込んだ。
 
 以上。」 
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