不釣合い

 「おまんこ野郎というと、どんな野郎のことを言うのでしょう?
 
 ……こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 強靭な耳目、脆弱な筋骨
 
 「百々目鬼(どどめき)衆?」
 「我が里の諜報担当なのですが……知りませなんだか?」
 
 丘・敬次郎が跪いたまま顔を上げると、御簾越しの『お屋形様』の影は少し首を傾げているようだった。
 
 「名前だけは。
  僕はお屋形様直属でございますれば。」
 「ええ……それはそうですが。
  ああ、確かにあなたには血腥いことばかり任せすぎましたな。
  説明は、外で。」
 
 御簾に映る影が立ち上がると、丘は『彼女』の顕現を直に見ないよう、足早に部屋を出た。
 
 
 乾いた土で出来た広場には、丘と『彼女』と、そして、一人の背の低い少女。
 
 「こちらが今年、百々目鬼衆末席に就任した、鳥越様です。」
 「どうも。」
 「鳥越と申します。お久しゅうございます?」
 「……?」
 「あら、覚えていらっしゃらない?」
 
 怪訝な顔をする丘に、『お屋形様』はコロコロと笑った。
 
 「いつぞやあなたが攫ってきた、忍者候補の一人ですよ♪」
 「然様で……。」
 
 しかし、丘には目の前の少女に心当たりが無い。
 鳥越という名前の女子を攫った記憶も無ければ、
 里の中に、こんな『オールバックの白髪で碧眼の少女』がいた記憶も無い。
 がっしりとした体形は里の修練で身に着けたものだろう。これもヒントにはならない。
 
 「……その節はお世話になりました。」
 「……あ、思い出しました♪」
 
 下げた頭から上目遣いで見上げる表情と声で、丘はようやく彼女が、いつ攫った子なのかを思い出した。
 
 「気づいていただけて何よりです♪」
 「大分鍛えましたね?」
 「戸籍は最近になってやっと買えまして。
  髪と目はもちろん、外見や骨格もかなり弄りました。
  どうです?」
 「……どう、と言われましても……。」
 
 そも、丘は自分が『スカウト』した少年少女たちの事など大して覚えていない。
 否、丘にとっては『その程度のかかわりの他人など』初めから興味が無い。
 
 「年下の少女なので、おいしそうかなとは思います。」
 
 それ以上でも、それ以下でもない。
 その感想に、『お屋形様』はクスクスと笑った。
 
 「ふふふ……では、鳥越。」
 「は。」
 
 『お屋形様』が、銀のガントレットに包まれた左手を突き出すと、鳥越も、トンファーの形状をした詠唱兵器を手にした。
 
 「ほぉ。」
 「丘。暫く見ていなさい。
  来ませい。」
 「いざ。」
 
 鳥越が地を蹴る。
 トンファーを持った右手、空の左手をそれぞれ固く握り、鋭く突き出す。
 その打撃を、『お屋形様』の銀の両手が柔らかく受け止める。
 
 「軽い!もっと遠くを打ち抜くように!」
 「はっ!」
 
 叱咤された白髪の少女は、より強くより大きく拳を振る。
 数十の打撃を受け、『お屋形様』はちらと丘の方を向いた。
 丘が何かを心得たような顔をしているのを確認すると、『彼女』は幽かに笑って、鳥越の顔面に正拳突きを見舞った。
 鳥越の体は2~30mも飛び転がる。
 崩れ落ちた体はピクリとも動かない。
 
 ありえない方向に曲がった首に、
 

“IllegalAccessException:詠唱兵器を装備した能力者は、ゴーストを滅ぼすだけの攻撃力とゴーストからの攻撃に耐えうる耐久力(HP)を手に入れます。 ”
“NoSuchMethodError:詠唱銀によって発生するゴーストと戦い、怪異を取り除き、世界の常識を守る事こそ、現代の能力者達の使命なのです。 ”
 
 赤い文字が巻き付いて修復している。
 
 「……『お屋形様』の秘蔵っ子でございますか。」
 「ご名答♪
  あなたはわたくしではなく我が主(あるじ)筧・次郎から指導を受けておりますが、
  彼女に関しては、わたくしが指導しております。」
 「なるほど。道理で直線的な攻撃が多いと思いました。」
 「わたくし、搦め手はあまり得意ではございませんゆえ。」
 
 得意ではない、というのは飽くまで筧・次郎と比較しての話だ。
 暗器術、特に武具の投擲に置いては、銃器にも勝る精密さと威力を誇る。
 それでも筧・次郎には届かない、というだけの話だ。
 
 「それに、忍者の戦闘に守りはあまり必要ではない。」
 「『交戦』そのものを避けるべきであるから。」
 「そう、忍者の戦いは、常に『一方的な暴力』でなければならない。」
 
 それが適わぬなら、逃げの一手のみ。忍者にとっての戦闘とは、任務達成のための一手段でしかないのだから。
 
 「だから、わたくしの技術だけでも十分育成可能かな、と。」
 「然様でございますか。」
 
 丘は、首が元に戻っても尚、口から泡を吹いたまま起き上がらない鳥越の姿を見ていた。
 
 「不服で?」
 「いえ。
  しかし、虎の教育を猫に施すのは如何なものかと。
  ましてや、偵察専門部隊の末席に。」
 「それを言うならあなたこそ、
  蛇に、龍としての教育を施されている。
  そして、一定の効果を挙げている。
  今の暴力装置としての地位も、銀誓館の力あってこそであって、元々あなたは単なる間者だった。」
 「褒め言葉として、ありがたく受け取らせて頂きます。」
 「おかげでずいぶんと生意気に育ったようですけれど♪」
 「ご命令には、忠実に従っているつもりです。
  それだけが、生き甲斐でございますれば。」
 
 顔をゆがめる丘の周りに、不意に赤い文字が現れた。
 
 “InvalidAlgorithmParameterException:この『誰かがやらねばならない仕事』を、自分が引き受けるか否か。 それは、能力者個人の心の問題です。”
 
 「こんなのもあったのか。」
 
 丘が鬱陶しそうに手で払うと、
 
 「自由とは、実に得難いものですね♪」
 
 『彼女』はまた、コロコロと笑った。
 
 以上。」
 
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