4で済むならば。

 「千切れるまでつねってあげる。わざわざ、このわたしが、お前なんかのために。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 生きている青
 
 畳の間。
 四人の男女が部屋の中心を向いて座っている。
 その中で最も若く見える、灰色髪を短く刈った少女が、深々と頭を下げる。
 
 「百々目鬼(どどめき)衆筆頭補佐、『玄武』、鳥越・九(いちじく)、参上致しました。」
 
 その左前に、少女と長い黒髪を左右に結った少年が座す。
 
 「生活安全部部長代行、兼、特別攻撃執行官、『青龍』、丘・敬次郎、ここに。」
 
 その丘の更に左手、鳥越に向かい合う位置に、灰色髪を左右に結った背の低い女。
 
 「倉庫番番長、兼、忍者団瑠璃総帥、『朱雀』、筧・小鳩、参りまして御座います。」
 
 そして、小鳩の左手側であり、鳥越の右手側、丘の向かい側に、黒髪で長身の男。
 
 「美化委員会名誉会長、兼、武術師範、『白虎』、筧・次郎、見参に入り申し上げます。」
 
 それぞれ、名乗った四神に対応するとおり、部屋の北・東・南・西に座り、頭を下げている。
 つい、と四人の顔が上がったところで、小鳩が声を発した。
 
 「まずは、鳥越殿。筆頭補佐就任おめでとう御座います。」
 「ありがとうございます。」
 「一献。」
 
 促され恭しく差し出した杯に、小鳩が銚子から神酒を注ぐ。
 鳥越は徐に液体を飲み干し、杯を置いた。しかし。
 
 「……げっは、げほ、げへっ……。」
 
 喉を焼くアルコホルに辛抱たまらず。
 
 「大変、失礼を。」
 
 残り三名がクスクスと笑う。
 
 「恨むなら、酒のことを最初に神の水などとのたまった輩を恨んで下さいね♪」
 
 次郎がにこりと笑って言ったが、鳥越はただ恥じ入るばかり。
 
 「さて、期せずして、里の四強が出来上がってしまった訳ですが、
  四人もいれば流石にバランスもよく見えますね。」
 
 小鳩が笑う。
 本来なら鳥越は百々目鬼衆の末席であったが、銀誓館学園に転入することになり、実力が跳ね上がった。
 故に、筆頭補佐の座を得るに至る。
 能力者のレベルは、一部の例外を除けば、属するコミュニティに規定される。
 どんなに修行をしても、そのコミュニティの限界以上のレベルに達する事は出来ず、
 逆に何もしなくても、コミュニティ内の最低レベルは維持できる。
 
 銀誓館学園に属する事によってレベルが跳ね上がったということは、
 裏を返せば、彼女の属する忍者組織―――瑠璃――――の能力者の平均レベルは、銀誓館の最低レベルにも満たないという意味でもある。
 瑠璃が特別弱いコミュニティという訳ではない。銀誓館が異常なのだ。
 日本中の遍く若年能力者諸氏を取り込み、いまや能力者の人数は万を数える。
 戦闘経験も豊富であり、数千人規模の『戦争』も何度か行っている。そしてその全てに勝利している。
 現存する能力者組織の中では、掛け値無しに最強の一角である。
 
 「この子の得意は何です?」
 
 丘が体を乗り出した。
 
 「諜報ですね。
  百々目鬼衆ですし、当然と言えば当然ですが。」
 
 小鳩が答え、鳥越が頭を下げる。
 百々目鬼衆はその名の通り、百々目鬼の如き視野を持つことが務めである。
 盗聴や潜入、証拠物件や証言の確保に特化した組織だ。
 
 「戦闘能力は。」
 「ま、これから付いてくるでしょう。
  あなたの転入当時に比べたら、倍以上の強さですしね♪」
 「本当に、銀誓館の成長率って凄いですよね♪」
 
 食い下がる丘を小鳩は切り捨て、次郎が笑った。
 銀誓館は今もその勢力を拡大している。
 丘の入学当時の、正に倍以上。
 
 「何とかなると思いますよ♪
  丘でも一端(いっぱし)になれたのですし。」
 「恐れ多いお言葉。」
 
 鳥越が小鳩に頭を下げた。丘は不満げな顔。
 
 「力が上がったんなら、生活安全部に欲しいんですけど。」
 「ダメ。」
 
 小鳩がピシャリと釘を刺す。
 丘が統括する生活安全部は、言わば雑用である。
 盗難、強盗、恫喝、拉致、場合によっては戦闘や殺人も請け負う。
 四つの分担の中では最大規模であり、仕事の量も桁が違う。
 丘としては、体力のある部下は一人でも多く欲しいところだったのだが。
 
 「それを言うなら、こっちにも欲しいですよ。」
 「お師匠様はそもそも里に殆どいらっしゃらないじゃないですか!」
 
 美化委員会は、雑務の中でも特に殺人と後始末に特化した機関である。
 暗殺、抗争、そして死体処理の一連を請け負う組織であり、その性質上、生活安全部ともよく仕事を共にする。
 
 元々美化委員会は生活安全部の一部だった。
 殺人に直接関与する部分を切り離したものが、美化委員会なのである。
 瑠璃の能力者としては突出した実力を持つ丘はよく美化委員会に借り出される。
 その間名誉会長・次郎は、瑠璃とは別件の仕事をしている。
 というより、次郎は瑠璃の仕事を殆ど請け負っていない。里にいることすら稀である。
 『清掃員』を名乗って、フリーランスでヤクザやマフィアの便利屋を営んでいる。
 瑠璃にはアドバイザー、そして、武術師範としてのみ関わっているという形だ。
 美化委員会の名誉会長を務めているのは、単に『里で一番殺しが上手いから』であり、それが本業という訳ではない。
 
 多忙な部署を抱える上に美化委員会にたびたび引っ張り回される丘が、美化委員会としての仕事を全くしない『師匠』に不満を言うのは当然の事だ。
 
 「まあまあ、丘はこれからもっと苦労があるのですし。
  諜報という意味では、倉庫番に近い人材でもあるのですよ?」
 
 倉庫番。
 情報の整理・分析、作戦立案や事務処理、文書偽造など、主にデスクワークを担当し、里全体のブレインとなる部署である。
 総帥という立場上里を離れられない小鳩が――――その割りによく大阪や京都に遊びに繰り出しているのだが――――部署の統括を兼任している。
 諜報によって得られた情報はまずこの倉庫番に送られ整理される。
 そこから分析された情報により、生活安全部や美化委員会に命令が送られる。
 
 「……。」
 
 手持ち無沙汰な鳥越。
 若干12歳であり、部署同士の確執も良く知らない、実質末席の少女には、聊か……いや、大いに、対応に困る場面であった。
 
 「実力という面で。」
 「あ、はい!」
 
 なので、小鳩に突然話を振られてびくついてしまった。
 
 「一応筆頭補佐としましたが、経験はまだ浅いと見ています。
  身体能力で大いに先輩方を追い抜いてはいるものの、力の使い方はまだまだ、先人に学ばなければなりません。
  特に諜報は、体力より技術や経験、そして精神が大きな部分を占める仕事です。
  この度は里に四人目の強者が出たとしてこの席を設けましたが、
  あなたが得た強さは、飽くまで戦闘力のみのこと。
  戦闘員ではなく、殺人兵器でもなく、デスクワーカーでもなく。
  最強の『諜報員』となることを目指しなさい。」
 「はい。」
 「あなたを百々目鬼衆に置いたのは、あなたがそれに相応しい才能を持っているからです。
  銀誓館では戦闘能力を問われる場面が圧倒的に多いでしょうが、
  それでもどうか、百々目鬼衆、即ち、里の目であり耳である事を忘れないように。
  お願いしますよ。」
 「はい。『お屋形様』。
  心得ましてございます。」
 
 白い頭を下げる鳥越に、丘は舌を出し、次郎はその頭をひっ叩いて舌を噛ませ、そして小鳩は、若い『玄武』にただ、微笑んだ。
 
 以上。」
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