全知全能

 「逆流するように激しく、ではなく、あふれ出るようにとぷとぷと。
 
 そんな吐露があります。
 
 ……こんばんは、鳩です……。
 
 化け物め。
 
 「おうっ!?」
 
 丘・敬次郎、本日五度目の転倒。
 師範、筧・次郎に出足を引っ掛けられた。
 
 「足元がお留守だと何度言ったら。」
 「もう一本。お願いします。」
 「あいあい♪」
 
 丘が起き上がり戦闘態勢を取ると、筧も掌を突き出して構える。
 数瞬の間。
 丘が右拳を突き出す。払いのけるまでも無く避ける筧。
 避けた方へ更なる攻撃。左拳にはいつの間にかナイフが握られている。
 
 泳いでいた体を建て直し、筧はこれも避けきる。更にそこに突きこまれる右。
 当たらない。触れない。丘の暗器交じりの左右の拳は、すり抜けるように宙を舞うばかり。
 
 手応えを求めて打ち出されていた拳は、やがて自然に緊張を帯びる。
 より強く、より気持ちよい手応えのために。
 当たれ、当たれ。当たって、気持ちよくなりたい!
 
 もっと長く遠くへ!
 と体を投げ出すように打った矢先、前足が軽く蹴り上げられた。
 
 あ。
 
 声を出す間もなく、崩れた体を掴まれ、丘は地面に叩きつけられた。爆水掌のおまけと共に。
 
 「っがあっ……!!」
 
 肺に詰まった空気と、裂傷した消化管からの血を押し出され、悶える。
 
 「だ、か、ら、足元がお留守だと言ってるでしょうが。」
 
 体を大きく曲げ、『上目遣いで』見下ろす筧の姿は、鳥越・九(いちじく)には異形の怪物にも見えた。
 
 
~~~~
 
 「如何でした、九(きゅう)。」
 「いちじく、です。」
 
 畳の間。
 布団の上に、丘は上半身に包帯を巻いた姿で寝ていた。
 横に座るのは、始終を見ていた鳥越。
 
 「いいじゃないですか、キューチャン。可愛らしい。」
 「衆でもそのように呼ばれ侮られているので、鳥越と呼んで頂きたく。」
 「分かりました鳥越。
  で、僕と『お師匠様』との組み手を見学して、何か学ぶところなど御座いましたでしょうか。」
 「速いのですね。『お師匠様』は。」
 「さすが情報収集の百々目鬼衆、よく『見て』いる♪」
 
 丘は笑い、胸を押さえ二、三度咳き込んだ。
 
 「ご覧の有様です。」
 「恐れながら、丘様の攻撃は、焦って軽く早くなっていたように思われます。」
 「ええ。そこに気づいて、『足にきちんと荷重をかけスピードを増して捉えなくては』、と。
  前に出たところを狙い撃ち。」
 「焦らなければ、応酬はもっと長引かせられたものかと。」
 「応酬ならね。」
 
 丘が俯き、上目遣いで鳥越を見上げる。
 
 「あの方には、僕の攻撃を捌く技術が確かにあります。
  カウンターも入れることが出来たでしょう。
  しかし今回は避けることに徹した。
  空振りが続くと人はどんな心理状態になるのか。」
 「……。」
 「焦りますね。
  うん、そこを突かれた。
  空回りというのは一番精神的に応える。
  受けやカウンターで迎えるならまだ、こなくそと気が逸るのですが、
  徹底して避けられると……無視されているような。
  非常に空しい気分になる。
  体を激しく動かしている最中に空しくなれば、ソレを誤魔化すには更に激しく強く動くしかない。
  で、その瞬間をきっちり収穫された。」
 「……勉強になります。」
 
 丘のため息に、鳥越は、せめての後輩らしい言葉を返す。
 
 「……。
  力量差あってこその技ですよね。
  互角な相手なら、そもそもあそこまでかわし切れない。反撃も綺麗に入るとは限らない。
  鳥越、覚えておきなさい。
  あの方の行動原理は、殺すことだ。
  価値の判断基準は、殺せるか殺せないか。
  だから、体を鍛えて、自分が殺せる相手の数を少しでも増やそうと努力している。
  殺せる相手を必ず間違いなく殺すための技術を磨き、
  そして、自分が殺せないと判断した相手とは、絶対に関わらない。
  武術師範ではありますが、『より上を目指す』という意味では、少し純粋ではない部分がある。」
 「……わたしは、『お屋形様』に直接指導頂いている身分なれば。」
 「そうでしたね。」
 
 『殺戮を極める一環としての膂力強化』ではなく、『膂力を極めた結果としての殺傷力強化』を旨とする『お屋形様』。
 パワープレイがお好みの『お屋形様』ならば、この子にはきっと、違う意味での挫折や絶望を与えてくれる事だろう。
 
 「では、罷ります。」
 「はい。ありがとう御座いました。」
 
 部屋を出て行く鳥越の大きな尻に、飛びついてむしゃぶりついたものの、
 トンファーの一撃で撃退される丘である。
 
 どっとはらい。
 
 以上。」
広告

kiwivege について

nothing
カテゴリー: シルバーレイン パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中