急げ 若き勇者よ

 「カスが!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 百目
 
 部屋のチャイムを何度か鳴らされたが、丘・敬次郎は構わず机に向かっていた。
 鳥越です、とドアの外から名乗りが聞こえてから、ようやく席を立つ。
 
 「どうも。」
 「丘様、お忙しいところだったのでしょうか?」
 
 ドアの前に立っていたのは背の低い、灰髪碧眼の少女、鳥越・九(いちじく)だった。
 
 「いえ、名乗らない客には出ないと決めてまして。
  大抵ろくでもない勧誘か何かなんで。」
 「然様ですか。」
 「学生寮に入ってくる勧誘員なんか殆どいないからあんまり意味が無いんですが、
  一応、身分を明らかにしない訪問者には警戒するってことで。」
 「それは失礼致しました。
  今、お時間を頂いても?」
 「……屋上、行きましょうか。」
 
 ヘッドホンをしてパソコンに向かっているサキュバスに留守番を頼むと、丘は部屋を出た。
 
 ――――
 
 「丘先輩、じゃなく、丘様ってことは、里からの伝言ですか?」
 「はい。」
 
 九月も終わり頃ながら、日中の日差しはまだ強い。
 二人は光を避け、日陰で対面していた。
 
 「身分を明らかにせよ、と。」
 「……お目付けでしたか。」
 「お察しのとおりでございます。」
 
 鳥越は頭を下げた。
 彼女は、丘の要請をうけて里から派遣された。
 丘にとっては、自分の結社の管理を任せる以上の意味はなかったのだが、
 里からは別の、それなりに意味のある命を受けていた。
 
 「あのお屋形様が本当にブログ管理続行のためだけに人材派遣とかありえませんからねー♪」
 「そうですね。」
 
 鳥越は丘の笑みから目をそらす。
 
 「で、身分ってのはそれだけですか?」
 「は?」
 「何のための目付けなのか。そこまでの説明は要らないので?」
 「……『本当にハッピーエンドを見届けたがっているのか』を、見るように。と。」
 
 ふむ、と丘が息を吐く。
 
 「では、僕が道を外れそうになった時は、あなたが僕を制御すると。」
 「わたしはただの計器です。
  制御装置の一部品でしかありません。」
 「なるほど。
  ハッピーエンドって何ですか?」
 「お屋形様が幸せに終わる事です。」
 「また淀み無く応えましたね。」
 
 丘がまた溜息を吐いた。
 高々小学六年生の少女が、ハッピーエンドという抽象的なものの定義を躊躇無く応えられる。
 それは、正に『ハッピーエンドとは何か』を教えこまれたからに他ならない。
 
 里の中でもごく一部しか知らない――――というより、丘のみが知っていた――――お屋形様の正体を知っているということだ。
 
 鳥越自身に自覚があるかは分からないが、彼女はもう、里にとって切り離す事のできない存在になってしまった。
 
 丘と同じく、『お屋形様が幸せに終わるための人形』に。
 丘は自分がそうだと知って、心穏やかではなくなった。
 里は、そんな丘を制御するために鳥越を教育し派遣した。
 丘が組織の手を離れ、スタンドアローンになりつつあるのを察して。
 
 「期待を裏切るつもりは無いんですよ。」
 「もしそうなら。
  とっくに抹殺命令が出ているはずです。」
 「ですよね。」
 「でも、転入当初の丘様と今の丘様は、明らかに違う。」
 「でしょうね。」
 「丘様。里からの託(ことづけ)がもう一つ。」
 「何でしょう?」
 「丘様は、何になりたいですかと。」
 「ん。」
 
 丘は、たっぷり数十秒思案してから、応えた。
 
 「正義のヒーローに。」
 「……では、そのように報告しておきます。」
 「鳥越さんは?」
 「わたしはスチュワーデスになりたいのです。」
 「本当にいい教育をされてますね♪」
 
 では、と鳥越が去った後も、丘はしばらく、風を浴びていた。
 
 以上。」
広告

kiwivege について

nothing
カテゴリー: シルバーレイン パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中