悲劇の無い人生

 「チンカス野郎!
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 粘膜
 
 「よろしかったのですか。」
 「ん?」
 
 ゴーストタウン・ホテルいちご貴族。
 丘・敬次郎と鳥越・九(いちじく)は、友人達が去った後の片づけをしていた。
 
 「目的を知らせても。」
 「ここには誰もおらず何も起きていない。
  そういう約束のオフ会だったはずです。」
 「しかし。」
 
 “シルバーレインによって齎されたすべてを消す事”
 それを丘は余人に漏らした。
 オフレコであるとか信用がある相手だとかそんなことは関係ない。
 これは口にしてはいけない言葉だったはずだ。
 
 「嫉妬してたのかな。多分。」
 「何にですか?」
 「ヒトとそれ以外の線引き。」
 「はい?」
 
 このオフ会の最中に、アリスティド・ブリュアンは言った。
 『どこまでを『人間』『人類』でくくるかというか、正味の話、銀誓館に与している土蜘蛛やら人狼やら吸血鬼やらも合わせて隔てることになるのかい?』と。
 
 「そんなことを気にすることが出来る精神構造に。」
 「はあ。」
 
 丘の中では、バケモノの定義はごく簡単。
 『人間社会に害を為すもの』がバケモノである。
 それが障害者であれ犯罪者であれゴーストであれ能力者であれ野獣であれ、
 最大多数の幸福を阻害するものは、丘の中ではバケモノだ。
 そして、人間は社会に害為すバケモノを倒すことで発展してきたと、彼は信じている。
 
 丘は、能力者もゴーストも、『人が制御できない力を持っている』という一点からバケモノだと断じている。
 等しくヒトが信頼できない存在であり、ヒトの敵であると。
 
 どこまでを『人類』で括るかなど、愚問。
 丘は元々、能力者やゴーストに人権を認めていない。
 彼らはたまたま今幸運にも人間っぽい生活が出来ているだけで、
 丘は本来それはあってはならないことだとすら思っている。
 
 「だって、純然たるヒトですら、ひったくりをしたら警察官に取り押さえられ制圧されるんですから。
  そこに人権はない。つまり、ヒトの間にいきる「人間」ではなくなるんです。
  ましてや銃器で殺せない力を持つものが自由に生きる。これが害でなくて何が害だと言うのか。」
 「それが嫉妬ですか?」
 「多分ね。主張の対立による苛立ちも否定はしませんが、やはりこれは嫉妬です。」
 
 スナック菓子の残骸は全てゴミ袋に収まった。口を結び、鳥越が持ち上げる。
 
 「ゴミ捨て場は近くにございますか?」
 「ありません。諦めて持って帰りましょう。」
 
 丘は空のペットボトルを詰め込んだゴミ袋をもち、揃って廃墟を出る。
 
 
 ツーテールの少年と灰色髪の少女がそれぞれゴミ袋を持って月明かりの下を歩く。
 奇異な光景ではあったが、この深夜に見咎める者は居ない。
 
 「気になりますか。」
 「何がですか?」
 「僕の嫉妬。」
 
 鳥越は丘を見上げるが、表情からは何も読み取れない。
 
 「やっぱりどこかで憧れてるんだと思います。
  ああいう、人間的な悩みに。」
 「お屋形様には秘密にしておきます。」
 「それはありがたい♪
  まあバレてるでしょうけどね。」
 
 彼らの寮まではまだ距離がある。
 丘が何事か話すらしいのを鳥越は感じ取った。
 
 「どこかでズレがあるんでしょうね。
  忍者として効率を求める僕と、そうでない僕。」
 「そうでない?」
 「忍者をやってるとストレスが溜まるってのは、要するにそれを求めていないってことです。
  恥ずかしい話、僕、アニメや漫画大好きなんです。
  それもヒーローがバトルで勝つ漫画が。友情、努力、勝利!
  俗に言う『熱い』展開が好き。」
 「そうなりたいと。」
 「僕は。凡百の英雄なんだな、とどこかで思ったことがある。」
 「ボンピャク?ですか?」
 「銀誓館のありふれた、数千数万の能力者の一人、ってことです。
  この世界のエンディングを見届ける、どうって事ない勇者の一人。
  僕は、そうなんだ。
  でも、僕の仕事やアイデンティティは英雄とはおよそかけ離れたところにある。
  そのズレがね。」
 
 運動靴の足音が夜空に響いた。
 
 「僕は、あー、あれだ。
  他人のために怒ったり悲しんだりってのは、残念ながら出来ない性質ですから。
  僕の人生に悲しみはない。想像もつかない。敢えて言うなら、それが悲しいかな。
  誰かが怒っているときに、泣いている時に、僕は一緒に怒ってやれない、泣いてやれない。
  そうあるべきだし実際僕はそうなんですが、そうでありたくはないんです。面倒な。」
 「お屋形様には、秘密にしておきます。」
 「ありがたく。」
 
 月は高く、星は脆弱に光る秋の夜。
 
 以上。」
 
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