実るほど

 「お前の不本意こそが本意だ。
 
 お前みたいな奴が本意を叶えるなんて悪夢だ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 秋味
 
 「米の具合は如何ですか?」
 「あら、お帰りなさい。」
 
 山里を眺めていた灰髪の少女に、黒髪の少年が声をかけた。
 どちらも二つに結った長い髪を秋風に揺らしている。
 薄茶色に実った穂が、狭い畑一杯に犇いていた。
 
 「『お屋形様』、丘・敬次郎只今帰還いたしました。」
 「米は例年通りと言ったところですね。他の作物も同様に。
  どちらにせよ大した問題ではありませぬ。うちの主たる収入源は、『貿易』ですから♪」
 「ならば重畳にございます。」
 「しかし珍しい。あなたが米の出来高を気にするなど。」
 「故郷の収穫を気にするのは、里の若頭として当然の事です。」
 「故郷ですか……♪」
 
 『お屋形様』と呼ばれた少女がころころと笑う。
 
 「時に、鳥越は一緒ではなかったのですか?」
 「ええ、僕より先に出たはずなのですが、まだ着いていませんか?」
 「いえいえ、挨拶は既に受けました。
  彼女はあなたの命令で先に来たと言っておりましたが、如何様なことかと思いましてね。」
 
 『お屋形様』の青い瞳が丘の黒い瞳孔を見つめた。
 
 「他意はございません。
  若頭より先に帰って出迎える体で無いと、部下としても見栄えが悪かろうと思った次第。」
 「あれはお前の目付けなのですけどね?」
 「一泊二日の強行軍で悪さが出来るほど、僕は出来た忍びではございません。」
 「……ま、そういうことにしておきましょうか。」
 
 『お屋形様』が踵を返すと、丘もその背を追って歩き出した。
 
 
――――
 
 「失礼致します。」
 
 丘が障子を開けると、『お屋形様』と、もう二人。
 黒髪で背の高い中年と、灰色髪を短く刈った背の低い少女が座していた。
 
 「や♪お久しぶり♪」
 「『お師匠様』、いらしていたのですか。」
 
 丘が黒髪の中年に深く頭を下げる。
 『お屋形様』の手招きに応じ、下座の座布団に座る。
 
 「お帰りなさいませ、『若頭』。」
 「只今帰りました、鳥越。」
 
 背の低い少女が頭を下げ、丘が笑顔を返す。
 
 「キュウちゃんからさっきまで学園生活について聞いていたところなのですよ♪」
 
 キュウちゃん、という呼び名に鳥越の眉が微かに動いた。
 
 「ほう、如何でしたか。」
 「まあ良くもなし悪くもなし。
  あなた使役でもないサキュバスと同衾してるとか?」
 「言う事を聞かなくて困ったものです。」
 「そのことも伺いました♪」
 「キュウちゃん余計な事言わないで良いのに。」
 「キュウと呼ばないで頂きたい。」
 
 丘に険しい顔を向ける鳥越。
 彼女は名を九(いちじく)と言うが、先輩連中からは「キュウ」「キュウちゃん」と呼ばれている。
 本人は全く気に入っていないようであるが。
 
 「ま、ちょっとね。今日は僕の所信表明、というか。
  お説教みたいなものを。」
 「……。」
 「拝聴いたします。」
 「は。」
 
 『お屋形様』が目線を向け、鳥越が頭を下げ、丘は居住まいを正した。
 
 「まず第一に。
  君らは実力の面で僕一人に遠く及ばない。」
 「……。」
 「……。」
 「……。」
 
 たった一言で空気が張り詰める。
 
 「しかしながら、君等は全員、僕に無いものを持っている。
  ……それは忠誠心です。
  己の命以上に優先するものを以って行動している。
  それは時に、無謀な選択への躊躇を消すものでもあります。

  そして、それにより、君等は必ずこの僕を越えていく事が出来ると確信している。」

 

 『お師匠様』は、どうぞ、と三人に足元の茶を促した。
 
 「僕は武術の基本もまともに身についていません。
  君等は尚更。
  しかし、基礎の土台を正しく積み上げた暁には、必ず君等は僕を超える。
  何故か?
  君等は僕に打てない一手を打てるからです。
  僕は長い事一人でこういう仕事をやってきたので、自分の命が第一です。
  常にリスクの無い合理的な手を選ぶ。
  しかし、時には合理的でない手が最善手になることもある。」
 「定石に囚われない、ということですか?」
 「ただそれだけなら素人と同じなんですがね。」
 
 質問した丘に向かって、首を傾ける。
 
 「急がば回れって言葉があるでしょう。
  僕はどうしても、回ってしまう人なんだ。
  ところが君等は、それが最も早いと直感したら、綱渡りをしてでもまっすぐ進む。
  直感とは、経験と閃きのフラッシュバックです。第六感などと言う曖昧なものではない。
  自分達が積み上げてきた経験から、脳細胞が最速で導き出した答えの事。
  論理を差し挟む余地も無く閃くから非論理的に『見える』だけで、当人にとっては最も正しい結論だ。
  危機から逃げる経験しかしていない僕には、その直感が出ない。
  任務とあらば命を捨てると覚悟できる君等は、僕に見えない最善手が見え、そして躊躇無く打てる。
  それが、僕と君等の一番の違い。」
 「……。」
 「……。」
 「……。」
 「それだけ♪」
 
 沈黙が流れる。
 秋の颪が盆地にある屋敷の障子をがたがたと揺らした。
 
 「……いずれ、自分を超えて欲しいと。」
 
 丘が口を開いた。
 
 「いえいえ。ただ、僕は決して絶対無敵じゃないってことです。
  僕は何の武術も修めていない。どれもコレも拾い食いで、好きな部分を都合よく使っているだけの半端者だ。
  体力もまだまだ鍛える余地があるし、全然弱いんです。
  そんなものを里最強などと崇められては困る、ということ。
  でなければ何のための瑠璃か?ねえ、鳩?」
 「……仰るとおりです。」
 
 『お屋形様』が無表情で応えた。
 
 「ま、皆さんそんな硬い顔しないで。
  今すぐ強くなれと言ってる訳じゃない。強さの基準も色々ありますしね。
  ただ、純然たる事実として、僕の戦闘能力程度では神を殺せなかった。
  それだけです。
 
  ……そんじゃあ難しい話はここまで!
  皆でキュウちゃんを中心に4Pです!」
 「了解しました主(あるじ)!」
 「断固抵抗いたしますイグニッション!」
 「僕が浚って来た頃はもうちょっと可愛げがあったような、なかったような。イグニッション!」
 
 断固たる抵抗は、残念ながら10秒足らずで崩壊したと言う、秋のとある山里の日暮れ。
 
 何だこれ。」
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