殺し屋なんていない

 「自分が稼ぐ食い扶持には、葬式代だって含まれている。
 空しいってんじゃないぜ?生きるってのは、死んだちょっと後までのことを含むって言う事なんだ。死は生の反対側なんかじゃない。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン
 
 切り裂きK
 
――――あなたは僕に踏み込んでいい。
――――あなたは僕を殺していい。
――――あなたは僕を好きなようにしていい。
――――でも僕は、あなたの好きなようにはなれない。
 
 
 夜。
 白いドレスの少女が、アメジストの嵌った虫篭を持って立つ。
 アスファルトの上。
 黒いコートの少年が、ナイフを片手に持って向かう。
 
 セドレツィーナ・クルムロフと、丘・敬次郎。
 どちらが言ったでもない。血を浴びる生き方しかしらない二人にとっては、必然とすら呼べぬただの途中経過だ。
 
 少年が仕掛けた。
 黒いブーツで地を蹴りナイフを突き出す。
 少女は刃を虫篭の網目に絡め取り、篭から黒き群れを吐き出す。
 
 少年は手に絡みついたもやのようなモノをすぐに払ったが、既に無数の噛み痕が残り、火ぶくれを起こしている。
 視線は少女から外さないまま、手に意識を集中する。
 すると、少年の腕にも皮膚の下から黒い蟲の群れが沸き立ち、膿みかけた傷を癒した。
 少女はくすりと笑い、篭を掲げ自分にも蟲を纏わせる。
 
 またしても少年が先手。
 少女は虫篭で受けようとするが、刃の軌道はくるりと歪み、籠を持つ手が裂かれた。
 鮮血。
 少女は一切構う様子なく、篭を振るい血しぶきと共に蟲の群れを浴びせかける。少年の顔面へ。
 庇う手は間に合わず、蟲は彼の視界を黒く塞いだ。
 毒虫を満載した篭を振りかぶり、少女が踏み込む。
 
 「くっ!」
 「お?」
 
 苦悶の混じる少年の声と、困惑した少女の声。
 少年が顔を拭うと、解せぬと言った表情で、少女が身体をくの字に曲げていた。
 腹に蹴りを受けた少女は、どすんと尻餅をつく。
 痛む様子はない。だが、けほけほと咳き込む姿にはダメージが見て取れた。
 
 畳み掛ける。
 少年の左手に水が集まり収束する。
 右足を下げ半身に構え、掌を前へ。
 起き上がりかける少女の頭部に。
 
 だが、掌打は逸れた。
 
 「ぬおっ!?」
 
 少女は起き上がらず、ぐらつくままに身体を倒し、踏み出してきた少年の左足を横から蹴り飛ばしたのだ。
 バランスを崩した少年の顎に、体ごと伸び上がるような蹴りをもう一打。口から血を吐きながら少年が倒れる。
 
 少女の顔に余裕はない。
 この程度で倒せる相手ではないのは分かっている。立ち上がり、倒れている間にもう一撃。
 
 「?」
 
 足に力が入らない。
 腹に残る圧力とはまた違う、直接的な痺れ。
 みると、左足に赤く長い線が引かれていた。
 
 「大変ですねぇ?痛みを感じないってのは♪」
 
 悪い笑い声が聞こえる。
 少年の右手のナイフを見ると、血がねっとりと巻きついていた。
 
 蹴られながら切っていたのか。
 
 立てない脚など要らぬ。
 少女は残った脚で無理やり身体を振り、血塗れた左足を鞭のようにしならせた。
 爪先を、肝臓へ。突き立てろ。
 
 「ちぇりゃあ!」
 
 しかし。
 気合一閃、少年の蹴りがしなる脚を無残に折った。
 
 「あ。」
 「ふふ。」
 
 バランスが崩れ反射的に両足が戻るが、もはや役目を完全に放棄した脚は、体重をかけられ粘土のように曲がった。
 反対に、少年は両の足でしっかと地を踏みしめる。
 
 「ああ。」
 「ははは。」
 
 少女が振り出した虫篭は、手首を打って落す。
 拳で打たれたはずなのに、鋭い墳血。
 少年の手は、研ぎ澄まされた水の刃に覆われていた。
 
 倒れかける少女の襟元を、少年の手が掴む。
 笑う。
 もう片方の手に、水で出来た刃を宿して。
 
 
 「時よ止まれ。そなたは美しい♪」
 
 
 血飛沫が舞う。
 指を飛ばされ、肘を刺され、肩を外される。
 膝を切られ腿を破られ腹を割かれ。
 肝が。脾が。腸が。肺が。穴を空けられる。
 
 抵抗できない。しようがない。
 動くべき筋肉が切られた。
 動かすべき神経が切られた。
 生かすべき血管を切られた。
 
 何も出来ないまま殺されていく。
 まるで時が止まっているかのように。
 
 ついに、少女は倒れる。
 少年は覆いかぶさり、臓腑を覗くと舌なめずりをして笑った。
 
 「時よ止まれ。そなたは美しい♪」
 「お優しい方。」
 
 微かな声に少年が顔を向けると、少女は血に染まった顔でウインクをした。
 
 「……うっぐあああああ!!!」
 
 少年が目を押さえて呻く。
 黒い蟲使いの切り札、「呪いの魔眼」。
 強力な毒を含む視線を、両目に諸に浴びてしまった。
 
 「大変ですわね、痛みを感じるというのは♪」
 少女はそのまま両目を閉じる。失血に薄れる意識は、まるで死のように冷たく。
 
 “NoSuchMethodError : 詠唱銀によって発生するゴーストと戦い、怪異を取り除き、世界の常識を守る事こそ、現代の能力者達の使命なのです。 ”
 
 彼女の傷を赤い文字が血のように包み、身体を修復していく。『ありえぬものをありえぬように』。
 
 少年は、目から血を流しながら、ナイフを振るう。目を犯す呪毒はまるで燃え立つように激しく。
 
 “OutOfMemoryError : 全力で戦闘を行っている場合は、相手の隙ができた場所を攻撃するのが普通ですので、特定の部位を狙って攻撃する事はできません。”
 “InternalError : 特定の部位を狙って攻撃した場合は、攻撃の命中率が大きく下がってしまいます。また、必ずしも狙った場所に命中する訳ではありません。 ”
 
 火のように赤く踊る文字がナイフの血を拭っていく。『ありえぬものをありえぬように』。
 
 
 セドレツィーナ・クルムロフと、丘・敬次郎。
 どちらが言ったでもない。血を浴びる生き方しかしらない二人にとっては、これは、
 必然とすら呼べぬただの途中経過だ。
 
 
 以上。」
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