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 「そのセリフ、自虐なら口を閉じていろ。他人を評したつもりなら命を閉じろ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 夜明けはもう来ない 
 
 「そうですか、またあなたが丘のお世話を。」
 
 忍者の里瑠璃、謁見の間にて。
 御簾の奥から若い女の声が響く。
 使役ゴースト、真サキュバス・ドールとその主人である丘・敬次郎が並んで膝をついている。
 
 「宜しくお願いしますね、明美様♪」
 
 真サキュバス・ドールの明美は、ただ頷いた。
 元々、サキュバスは言葉を発することができないのだけれど。
 
 頭を下げた拍子に胃の中身を吐き出しそうになり、思わず口を抑える。
 
 「如何しました?道中でゴーストの毒でも受けましたか?」
 
 御簾の奥からの声に、首を振って否定を示す。
 前に遭った時と、何も変わっていない。
 ゴーストとしての本能に訴えるほどの暗黒が、御簾一枚隔てた向こうから香ってくる。
 
 彼女に究極の悪とは何かと問えば、間違いなく『そこにいる』と応えるだろう。
 
 「そうですか。お体は大切になさって下さいね、丘の大事なパートナーなのですから。」
 
 明美は下げた頭を振って肯定を示した。それが精一杯。
 
 「では、明美様?
  使役という雇われの立場とはいえ、瑠璃衆の若頭の側にたつのですから、その間は瑠璃衆としてふるまって頂きますよ?」
 
 明美は顔を上げ、――――その勢いでまた吐き気を催してしまったので口を押さえてから――――手話でそれを否定した。
 
 『わたしの主は 丘敬次郎 一人』
 
 「では丘、彼女に命じなさい。」
 「は。」
 
 天魔に向かって健気に張った意地は事も無く受け流され、彼女の主人は魔王の命に忠実に従う。
 
 「明美、瑠璃の忍びの一人として振舞いなさい。」
 「……。」
 
 顔を覗き込む丘の目は、否定を許容していない。
 恨めしげに見つめ返すものの、ゴーグル越しでは伝わりもしない。
 
 軽く奥歯を噛みながら、明美は深く頷いた。
 御簾の奥から満足そうな声が響く。
 
 「よろしい。それでは早速任務を与えます。」
 
 ――――
 
 「では突入します。4、3、2、」
 
 カウントしながら丘がドアノブにショットガンの銃口を向ける。
 明美は任務を受ける際、あの『御屋形様』の前から逃れられるなら何でもいいと思っていたが。
 
 銃声。
 
 「突入!」
 
 まさかその日のうちに上海に渡り、特殊部隊紛いのことをさせられるとは思わなかった。
 丘配下の男達が詠唱兵器を手に部屋へとなだれ込む。明美自身も銃を持って突入する。
 
 12月9日昼ごろ、東支那海にて、能力者集団を載せた空母の存在が確認された。
 公式な発表はまだないが、銀誓館もこの情報をつかんでおり、情報筋では、強力な吸血鬼集団と交戦予定であることが既に伝わっている。
 
 瑠璃は独自に情報を集めるため、吸血鬼の一派が潜伏している拠点に赴いたという訳だ。
 
 「貴様ら、」
 
 蝙蝠を展開する貴種ヴァンパイアに対し、丘は口上も許さず散弾を撃ち込んだ。
 ヴァンパイアが衝撃を受け派手に背中から倒れる。
 他にも室内には従属種が三体おり、丘の手勢が彼らに射撃武器の掃射を浴びせた。
 
 能力者、来訪者とはいえ、物理攻撃に対し無敵と言うわけではない。
 首を締められれば窒息し、機械に巻き込まれれば圧死もする。
 無意識で急所を避け、銃弾すら避けることも出来るとされる能力者でも、
 散弾の全てを交わすことは不可能であり、着弾してしまえば衝撃も受ける。
 人間を超える強度の肉体であるから弾丸は貫通せず、人間並みの体重しかない体は押し倒されるほかない。
 
 「おのれ、」
 
 開いた口に銃口をねじ込み、丘は引き金を引く。
 くぐもった悲鳴と煙が貴種ヴァンパイアの口から漏れた。
 
 「大丈夫です、あなた方はこの程度じゃ死にませんから。」
 
 そう言って丘はもう一度引き金を引いた。
 
 その様子を横目で見つつ、明美も銃を撃つ。
 が、吹き飛んだ従属種が手で虚空を掴む用な仕草をすると、椅子やテーブル、棚、ソファから牙が生え、明美に襲いかかった。
 
 「!」
 
 ジャンクプレス。
 吸血鬼の強力な魔力をポルターガイスト現象に変換した遠距離攻撃のアビリティである。
 その場にあるものが周りから襲いかかってくるという特性から、回避が非常に難しい。
 明美は身をかわす暇も無く、家具に押しつぶされた。
 
 「明美さん!」
 「カシラのサキュバスがやられた、援護しろ!」
 
 丘配下の男たちが騒ぎ出し、援護に動く。
 その時、家具の塊が内側から破裂した。
 ジャンクを砕いた手が、そのまま、彼らに制止を促す。
 銃を投げ捨て、唇を動かした。
 
 『なめるなよ ガキが』
 
 挑発された、と気づいたらしく、右手の吸血グローブを握り締め従属種ヴァンパイアが走りこむ。
 体を丸め突っ込んでくる。膂力に任せ体重をそのまま強烈な衝撃に変えるアビリティ、ローリングバッシュ。
 
 だが、飛び込んだ先に彼女はいない。
 避けられたか。
 両脚をついて態勢を立て直した瞬間、後ろから抱きすくめられた。
 
 仄かに香る女の匂い。首筋に吹きかけられた吐息がヴァンパイアの背筋を凍らせる。
 程なくして、精気を吸い上げられたヴァンパイアは膝を折って倒れ、そのまま立ち上がらなくなった。
 
 「余所見しない!」
 
 配下に背後から迫っていた従属種を、丘の放った水の刃が食い止めた。
 明美の戦いに魅入ってた忍者たちは改めて戦闘態勢に入る。
 
 「全く。」
 
 がきり。
 足元から、金属がぶつかり合うような音。
 
 「この僕がキャパシティの殆どを注ぎ込んでやっと使役出来るサキュバスなんですよ?」
 
 貴種ヴァンパイアが、銃口を噛み潰し丘の心臓を指差した。
 
 「あなた方に心配されるほどヤワな訳ないでしょう?」
 
 ヴァンパイアの指先に、丘の生命力が吸い上げられていく。
 丘は銃を手放すと、笑みを浮かべるヴァンパイアを、ただ冷たく見下ろした。
 
 ナイフを抜いて詠唱動力炉を回し、振り下ろす。
 その先端から、細かな水滴の刃が散弾の如く降った。
 
 ――――
 
 「じゃ、ずらかりますか。」
 
 丘が身支度を整える。
 聞きたいことは聞いた。生きるか死ぬかは彼らの生命力に任せる事にする。
 手足の腱を斬られ、肉をくまなく開かれたヴァンパイアが失血死して解剖標本になるか、その状態から復活出来るのか。
 それは今回調べるべきことではない。
 丘配下の手勢も多少の傷は負ったが大事はなく、全ては滞りなく終わった。
 東シナ海戦線について彼らは碌に知っていなかったが、「碌に知らされていない」という事実はそれはそれで有益である。
 
 「明美?」
 
 明美は、息も絶え絶えの貴種ヴァンパイアを見つめていた。
 突然、剥き出しになった内臓に蹴りを入れる。
 ヴァンパイアの体はびくりと大きくのけぞり、それっきり動かなくなった。
 倒れた体から夥しい量の血が溢れ出す。どうやら心臓を蹴り潰したらしい。
 
 「どうしたんですか?」
 
 丘が尋ねたが、明美は首を振るだけであった。
 
 「カシラ?」
 「今行きます。」
 
 男衆が丘を呼び、明美もその後に続く。
 
 「どうしたんです、さっきは?」
 
 明美は答えない。
 丘もその様子を見て、もう尋ねなかった。
 
 『あんなにわかものが 吸血鬼なんて立派な名前で蠢いているのが 気に食わなかっただけよ』
 
 彼女がサキュバスになったのは、丘が入学するより前。
 リリスになったのは、丘が生まれるよりずっと前。
 人として生きていたのは、もう思い出せないくらい昔のこと。
  
 淡い恋の記憶と、惨たらしい裏切りの記憶が彼女の頭をかすめた。
 彼女を悪しきリリスへと変貌させた、失意の記憶。
 
 明美は丘の肩をつかむと、イグニッションカードに入れて、とジェスチュアした。

 人間の日々は戻っては来ない、魔物としてあの暗黒の主には届きもしない。

 結局何もかもが八つ当たりだと気づいて、うんざりしてしまったから。

 
 『今日はもう 寝る』
 
 丘には、ただそれだけ告げて、彼女は平たいカードの中に吸い込まれて行った。
 
 
 
 以上。」
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