クリーナー、スイーパー、チョッパー、マッシャー。

 「葬式代など気にするな、お前が生き続けるコストに比べたら安いものだ。
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 妄想シルバーレイン……。
 
 輝かしきごみ漁り達
 
 佐世保市矢岳町。生きた死体の一団が、夜風に死臭を撒きながら進んでいた。
 彼らの足がふと止まる。
 
 「女。銀誓館のものか。」
 「いいえ?」
 
 軍服姿のリビングデッドが目の前の女に銃を向け問うと、彼女は微笑みながら応えた。
 
 「ですが、部下が銀誓館学園に世話になっております。」
 
 二つに結われた灰色の髪を揺らし、その節は、と頭を下げる。
 
 「部下の不始末を拭うのは上官の務めでございますから。」
 「では、敵には違いないな。」
 「いえいえ。あなた方を殺しに来たと言うのではありません。
  わたくしは、自分の部下があなた方へ為した無礼を贖いに参ったのです。」
 
 リビングデッド達は怪訝な顔をする。
 お供のサキュバス達も困惑した様子をみせている。
 
 「……どうするつもりだ。」
 「わたくしを差し上げます。」
 「何?」
 「わたくしの字(あざな)は筧・小鳩。真なる名は鳩と申します。」
 
 理解に苦しんでいる死霊達もどこ吹く風と、鳩は深く深く頭を下げた。
 
 「この度は、部下の丘・敬次郎が大変な不始末を。申し訳ありません。
  お詫びの印として、僭越ながら皆様に、わたくしと正面から戦う権利を差し上げます。」
 
 そう言ってベルトのバックルを回すと、彼女の体は光に包まれた。
 三秒後に現れたのは、両腕に肉食恐竜を模したリボルバーガントレットを装備した鳩の姿。
 
 「貴様!」
 「あなた方は幸い、銀誓館の運命予報士にも未だ捉えられていないという情報が入っていますれば、
  名乗る時間も差し上げられます。
  どうか免じては頂けませぬか。」
 
 リビングデッド達は鳩に向かい小銃を斉射した。銃弾の衝撃に鳩は倒れる。
 更にサキュバスが走り込み、彼女の体から精気を奪う。
 
 「……名乗るにも値しない、と。」
 
 だが、鳩は平然と立ち上がった。
 
 「わたくしもそう思います。」
 
 突如、彼女を中心に衝撃波が発生し、まとわりついていたサキュバス達が肉片に変わった。
 突風と血煙が消えた跡には、鳩が一人、龍顎拳を放った姿勢で立っていた。
 その拳は、虚空を打っただけ。
 脚を踏みしめ拳を打ち出す。何も特別な事はない。
 単に、生じる余波で十分にゴーストを殺せるほど、その所作が速かった。
 『ただそれだけ』。
 
 ここに来て初めて、リビングデッド達は目の前に居るものが何であるかを理解した。
 
 「……撃てぇっ!」
 
 そして、『理解しないように努めた』。
 必死になって抵抗し、思考を敵愾心で埋め尽くす。銃声と銃火で聴覚と視覚を埋め尽くす。
 
 
 鳩にとって、彼らの目の前に現れ名乗りでる事が、正に最大の譲歩だったのだ。
 手に取った虫に一噛みの抵抗を許すような、なけなしの。出来る限りの。
 なんとなれば、彼女は自分らに全く気づかれないまま、自分らを粉々に殺してしまえた。
 アレは、我々を手に取り、顔の高さまで持ち上げ、微笑み名乗った。せめてひねり潰す前にと。
 『それが虫けらに対して出来る最大限の礼儀だから』。
 
 そんなものが、いてたまるか!そんなことを理解してたまるか!
 何のためにリビングデッドになった、リリスになった!!
 撃て、撃て、撃ち続けろ!
 
 
 二筋の光芒が走る。
 
 龍撃砲。
  リボルバーガントレットが吐いた息吹は、慈悲深かった。
 彼らの人生から、発狂に至るまでの時間を取り去ってやったのだから。
 彼女の瞳は景色を飲み込んで尚透き通り、白い顔には何の感情も見えない。
 
 「……。」
 
 灰色のツーテールが羽毛のように揺れる。
 彼女は、世界を食らう双頭の翼竜。
 龍王、世羅(せら)。
 
――――
 
 一方、予報されながら生徒には伝えられなかった運命もある。
 
 その運命予報士は、妖獣戦車の一団が立神町を踏み躙って行く様を確かに幻視したのだ。
 だが、一瞬光と音を感じたかと思うと、獣達はバラバラに切り裂かれてしまっていた。
 何が起こったのか、何度思い出しても分からない。
 何かが起こったのは間違いないのに、それを説明する言葉が見当たらない。
 調査として銀誓館生徒を差し向ける事も考えたが、直ぐに諦めた。
 
 幻視の中で微かに見えた白い影は、遥か山の向こうへと飛び去って行ってしまったからだ。
 
 「まだまだ、全然ですね。」
 
 白い服を着た長身の男が、佐世保からかなり離れた金比羅山の林で腕を振った。
 
 「僕を殺すどころか、」
 
 袖からばらばらと落ちたのは、折れ壊れた刃物の残骸。
 燕刃刀、忍者刀、ナイフ、鎖鎌、獣爪、電光剣と言った、水練忍者と白虎拳士が装備出来る詠唱兵器である。
 それらはもはや超常の存在として形を為し続けることが出来ず、地面に落ちた端から詠唱銀の屑となった。
 
 「僕が殺すのにすら足りない。」
 
 男の名は筧・次郎。
 彼は、空を跳び命を切り取る光の虎。
 悪鬼、光虎(こうこ)。
 
 
――――
 
 佐世保港に接岸した二つの揚陸艦の側に、それぞれ二台ずつの大型トラックが停っていた。
 
 「何と言うか、やっぱりゴースト風情、って感じですねえ。」
 
 イワン・ロゴフ級揚陸艦に乗り込んでいるのは、瑠璃忍者団生活安全部部長代行:丘・敬次郎とその使役ゴーストである真サキュバス・ドール。
 配下の忍者が忙しく駆け回る中を、ゆるゆると歩いている。
 
 ゴースト達は軍艦を単なる船としてしか使っていなかった。
 砲撃も無く、レーダーを使った形跡もなし。推進力すらも影の城の魔力に大きく頼っていたほど。
 アーミーらしさと言えば下っ端のリビングデッドが銃器を手にしていたぐらいがせいぜいである。
 
 ため息を吐く丘に、お供のサキュバスが携帯電話のディスプレイを見せた。
 丘がそれを覗き込む。
 使役ゴースト『サキュバス』として目覚めたリリスは言葉を発する事ができなくなるため、
 このように独自の手段でコミュニケーションをとる必要がある。
 
 『何がゴースト風情?』
 「近代的武器をどこまでも侮っている点がです。」
 
 丘がもう一つため息を吐いた。
 
 吸血鬼の艦隊を迎撃するに当たって、銀誓館の生徒は艦砲の射撃も警戒の対象として考慮していた。
 だが蓋を開けてみれば、それらは艦隊と呼ぶにはあまりにもお粗末な、ただの自走する浮島に過ぎなかった。
 銀誓館側にとってはありがたいことでもあったのだけれど。
 
 確かに、ゴーストや能力者、来訪者と呼ばれる超常の者には、人間の武器は通じないとされている。
 卓越した能力者なら銃弾も避けるし、そもそも世界結界を突破出来ない一般の人間は、超常の者達の存在を認識することすら出来ない。
 一般人は、ゴースト達の脅威には無力なのだ。それは丘自身も認識している『能力者の常識』。
 
 だがそれは、超常の者が無敵であることを意味しない。
 彼らは寒さに震え、暑さを厭う。
 呼吸と食事を必要とし、高所からの落下で傷つく。ミンチマシンに巻き込まれて死に絶えもする。
 増してアメリカの能力者組織では、人為的に『科学人間』という能力者を作り出すことにも成功している。
 
 油断を許さない程度には、吸血鬼達の肉体は脆く、人間は強いはずなのだが……。
 
 丘の携帯が震えた。通話ボタンを押すと、喧騒が漏れ聞こえて来る
 
 「はい、丘です。」
 『カシラ、操舵室に見張りが居ました!
  海兵のゾンビ8、サキュバス3、キュア2です。』
 「了解。通信機を射撃で破壊したら、応戦しながら後退してください。
  何分持ちますか?」
 『二分……二分三十秒までなら。』
 「了解しました。直ぐに向かいますので、絶対に無理はしないように。
  最悪通信機さえ壊せれば撤退も許可します。
  敵も精鋭ですし、制圧は目的ではありませんから。」
 『了解!』
 
 丘は携帯を畳みながら走り出した。
 
 「明美。鳥越に連絡を。残存勢力がいると。」
 
 明美と呼ばれたサキュバスは、頷くと自前の携帯からメールを打ち始める。
 
 少年の名は丘・敬次郎。
 彼は、幽鬼のごとく臥せる罠。
 未だ青き凶人、幽臥(ゆうが)。
 
――――
 
 シャンプレーン級戦車揚陸艦には、灰色髪を短く刈った少女が乗り込んでいた。
 瑠璃忍者団百々目鬼衆(どどめきしゅう)筆頭補佐、鳥越・九(いちじく)。
 銀誓館学園に所属することでコミュニティの力を得て、年少ながらも、戦闘力だけなら瑠璃忍者団ナンバー3の実力を誇る。
 丘と同じく、配下と共に『火事場泥棒に』来ていた。
 
 「……ふむ。」
 
 百々目鬼衆の本分は、情報収集である。
 必然、筆頭補佐たる彼女にも視界に入ったものから状況を分析する癖がついていた。
 
 戦車揚陸艦であるはずのこの艦には、実際の戦車、装甲車の類は殆ど載っておらず、載っていた跡も無い。
 無論そのかわりに妖獣戦車が犇めいていたのは容易に想像がつくが、それを差し引いても、艦内全体に兵装が少ない。
 辛うじて海兵ゾンビ用らしき小銃や擲弾などがあるのみで、お世辞にも海戦に備えているなどとは言えない様子であった。
 何しろこの艦には、砲弾は愚か、航行のための燃料すら積まれていないのである。おそらく他の戦艦も積載内容に大差はあるまい。
 
 「これを撃沈できないのなら、日本の海上防衛は紙くずですね。」
 
 影の城の持つ膨大な魔力で推進する吸血鬼艦隊、などというとびきりの超常現象は、当然世界結界の力で一般人からは隠蔽される。
 それこそが能力者、来訪者、ゴーストの強みでもあり、彼らが人の脅威足る最大の理由でもある。
 だがその薄皮一枚を剥げば、彼らは半径20mを超える距離には何も出来ない人型の生命体に過ぎない。
 いくら彼らが強靭な肉体と超人的な生命力を持っていようとも、超長距離からの艦砲射撃になど全く抵抗不能なはずである。
 
 「ミスター・ロードは何故こんなものに敗北したのか、理解に苦しみます。」
 
 銀誓館勢力と激突する前に、アメリカのとある能力者組織が吸血鬼艦隊に挑んでいた。
 スティーブ・ロードという能力者率いるその戦力は吸血鬼相手に惨敗を喫し、這々の体で撤退している。
 その戦闘内容は詳細には伝えられていないが、吸血鬼達の地力に圧倒されたらしいことはわかっている。
 
 瑠璃忍者団は、目的さえ果たせれば能力者としての力にはこだわらない。
 有用であれば銃も使うし爆薬も使うし、人のコミュニティにも取り入る。
 空母と艦隊の激突で勝負を決めたのは、砲の威力でも戦艦の機動能力でも無く兵の質だった、という事実は、
 鳥越にとっては頭を抱えたくなるほどバカげた話であった。
 
 鳥越のズボンのポケットが震える。
 携帯を取り出しメールを確認、そのままアドレス帳から短縮ダイヤルにアクセスする。
 
 「筆頭殿?鳥越です。
  生活安全部から、残存兵力を確認したと連絡が入りました。
  ……はい、はい。
  わかりました。僕(やつがれ)が殿(しんがり)にて警戒します。筆頭殿は全体に連絡をお願いします。」
 
 手袋をはめ、腰のトンファーに手を伸ばす。
 手の平には、広目天を表す梵字。
 黒地の衣服と、首から腰にまとった忍び布には無数の目が描かれている。
 少女の名は鳥越・九。
 彼女は、圧して潰す土石の河。
 生まれて間も無い魔獣、石河(せっか)。
 
 
 以上。」
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