落ちた鳥さえまた落とす

 「死に腐れ
 
 こんばんは、鳩です……。
 
 
 妄想シルバーレイン……。
  
 復讐するは汝に無し
 
 自分がして欲しいことを他人にしてあげなさい、と言われたので、殺しました。
 自分がして欲しくないことは他人にしてはいけません、と言われたので、生かしておきませんでした。
 
 『終わりましたか。』
 「はい。」
 
 応えつつ、丘・敬次郎は、携帯電話を当てているのと反対側の耳を塞いだ。
 街の喧騒のせいで音がよく聞こえない。
 
 『お疲れ様です。』
 「ありがとうございます。」
 『収穫は?』
 「巡礼士との友好関係ぐらいでしょうか。」
 『本当に実りの無い。
  勝ってもふんだくるものがないものを、戦争などとは呼びません。』
 「……全くで。」
 
 耳を押さえていた手を外す。喧騒よりも、塞いだ耳のくぐもりの方が遥かに邪魔だと気づいたから。
 携帯電話を少し動かすと、クリアに聞こえるポイントが見つかった。
 最近の電子機器は良くできているなどと思いつつ、相槌を打つ。
 
 『次は?』
 「決まっていません。
  ヨーロッパの原初の吸血鬼とはどうやら縁がありそうですが、
  現状は目立って進展はございません。」
 『左様でございますか。』
 「お屋形様、こちらとして、動くことはございますか?」
 『特には。
  今までどおりに。』
 「了解いたしました。ではこれにて報告を終了いたします。」
 『はい、では失礼いたします。』
 「失礼いたします。」
 
 終話ボタンを押す。
 神奈川のとある街中。
 電話に集中していた神経が、車の音と人ゴミを一気に認識する。
 
 僕は、これらの誰とも違う。
 
 少し愉快になる。
 誰にも知られないまま、人間の中に超能力者が溶け込んでいる。
 人の敵が。
 人が殺せぬ化け物が。
 
 なるほどリリスが人を喰い殺したがるのも道理だ。
 
 丘も、テレビやネットで政治の情報も見る。
 そこに不満の声を挙げているのがこの人間たち。
 システムの土台でありながら、システムに真っ先に壊される民たち。
 
 僕は、そのおこぼれを拾っているだけだ。
 ありがたく思わなくちゃ。
 
 彼らの一人ひとりが、生活を持ち、成人男性なら会社に行ったりして労働している。
 母ならば家事で家を支え、未成年なら勉強と遊びに時間を使っているはずだ。
 
 そういう当たり前を、当たり前のままにしておきたい。
 
 でなければ、僕は『異常ではなくなってしまう』から。
 当たり前をぐしゃぐしゃに潰す楽しみがなくなってしまうから。
 
 ポケットが震える。
 丘は携帯を開き、耳に当てた。
 
 「丘です。」
 『わたくしです。』
 「何用でしょうか?」
 『一つお仕事の依頼がありまして。よろしいですか?』
 「少々お待ちを。」
 
 電話を首で挟むと、懐からメモとペンを取り出し、近くのビルに入る。
 スピーカーと耳のベストポジションを維持できないので、雑音の少ない場所でなければ通話できない。
 
 「はい。」
 『メモはすぐに焼くように。
  仕事内容は恫喝です。
  えー、ターゲットはですね……』
 
 政治家の名前が出て、丘の顔がわずかに喜色に染まる。
 “ちょうど、僕も酷い目に合わそうと思っていたところだから”。
 
 『……以上。』
 「了解。隊長と連絡を取り次第すぐとりかかります。」
 『嬉しそうですね。』
 「相手は巨悪ですもの♪」
 『バカモノ!』
 
 びくり、震えた。
 
 『お前好みの政治家を害する依頼を受けたら、お前は断るのですか。』
 「……申し訳ありません。」
 『……世のことは、世の者に任せておきなさい。
  例えそれが、彼ら自身を破滅に導くように見えても。
  いつだって集団潜在意識が正義なのですから。』
 「……はい。」
 『そんなに正義の味方で居たいですか?』
 「……いえ。」
 
 丘がそう言った途端、破裂音が大気を劈いた。
 聞き覚えのある音、と認識する前に、丘の両足が千切れ飛んでいた。
 
 「あああ!!……っ!!」
 『即答なさい、バカモノ。』
 
 倒れ呻く丘に通行人が視線を向けるが、なぜか深刻さが希薄。
 確か目撃者の痛烈な悲鳴が一度響いたはずだが、そんな記憶は誰の頭にも残っていない。
 
  “IllegalAccessException:なんらかの毒薬や特殊なアイテム・詠唱兵器でない飛び道具などの効果は、戦闘判定に大きな影響を与える事はありません。”

  “NoSuchMethodError : 詠唱銀によって発生するゴーストと戦い、怪異を取り除き、世界の常識を守る事こそ、現代の能力者達の使命なのです。 ”
  “UnsupportedLookAndFeelException : 一人一人の個人が『不思議な事など存在するはずは無い』と思い込む事。 それが、世界結界の力です。”
 
 
 赤い文字が踊り、事実を修正していく。
 
 「あああっ!!」
 『憎いか。』
 「がああああ!」
 『怒ったか。』
 「ぐ、ぐぐぐぐ……。」
 『立て。貴様を使うのに、いちいち心情まで汲んでやるのはもう面倒だ。』
 
 対物ライフル弾、という人間兵器による傷を“ありえぬことにされ”、丘の肉体は最早壮健に戻っていた。
 鈍く残る痛みはただの名残。けれど丘は苦しみつつ、やっとのことで立った。
 
 『貴様の自意識に文句を言うつもりはない。
  だが、わきまえろ。』
 「は……。」
 
 丘が声を絞り出す。
 
 『貴様の。自意識には。文句を言うつもりはありません。
  ですから、仕事の話でいちいちその自意識を覗かせるな。やかましくてたまらない。』
 
 一言ずつ、押し込むように。
 お前が何を考えていようと知ったことではないのだから、知らせなくていい、
 と、彼女は言った。
 
 不本意であるか否かなど、排除するべき要素でしかないのだから。
 
 「はい……。」
 
 苦く応える丘の脳内には、特別むごたらしくターゲットを脅しつける映像がありありと映っていて。
 
 『だから。
  建前は元気よく答えろと言っているのがわからないのか。』 
 
 その脳を二発目の弾丸が叩き割り、地面に散らした。
 
 
 以上。」
 
 
 
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